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『卑しい娘が、穢らわしい‼︎』


ヴォルフラムがユスティーナを見守る様になって早一年経った。当初はオリヴィエ家の調査を目的としていたが、彼女が気掛かりでこうして頻繁に見に来る様になっていた。

今日も時間が出来たヴォルフラムは、オリヴィエ家に忍び込んでいた。庭で遊んでいるユスティーナを微笑ましく眺めていたのだが、突然如何にも傲慢そうな女が現れたかと思えばユスティーナを怒鳴りつけた。

あの女……オリヴィエ公爵夫人が彼女を事あるごとに虐めている様子は良く見かけた。毎日毎日本当に飽きないものだと呆れると同時に、苛々する……。


愛妾に嫉妬して、その娘に当たり散らすなどみっともない。あの女は婚前は父の妃候補としても名が上がった事もあったそうだが、もしも王妃にでもなっていたら、同じ様に側妃や愛妾等にも振る舞っていた事だろう。上級貴族出身の女とは思えない醜さだ。あれでは妃どころか、公爵夫人の器でもないだろう。


『それにしても、滑稽だね』


夫人は何も聞かされておらず、ユスティーナの母の事をただの平民上がりだと思っている様だ。ヴォルフラムが調べた情報ではユスティーナの母は……。


『流石の僕も驚いたよ、まさか父上の初恋の女性(ひと)だったなんてね』


あの職務怠慢の侍従から、オリヴィエ公爵の訳ありの愛妾とだけ聞かされたが、確かに様々な意味で訳ありと言えるだろう。

全て調べるのに思いの外時間も労力も掛かってしまったが、ようやくユスティーナの母の正体を突き止める事が出来た。予想以上の面白い結果にヴォルフラムは満足している。


元敵国の側妃……それがユスティーナの母の正体だった。

更に厳密に言えば、元敵国に嫁いだ他国の王女であり、昔父が留学先で知り合い恋に落ちた女性だ。


今から六年程前まで、この国はとある国と戦をしていた。ただ敵国と自国では戦力に明らかな差があり、程なくして戦は自国の勝利で幕を閉じる事になった。そして元敵国もユスティーナの母の母国も、今は両者共に存在しない。戦に敗れ、王家は崩壊し国も滅びたのだ。


そして父は戦の最中、旧友であり元騎士団長だったオリヴィエ公爵に密かに命じてユスティーナの母を奪還させ、無事帰還後はオリヴィエ公爵の愛妾として迎えさせた。しかも驚いた事にその時、彼女のお腹の中には既に赤子がおり、それがユスティーナだったと言う訳だ。ユスティーナはオリヴィエ公爵の娘などではなく、元敵国の国王の娘だったのだ。その事実を知り、その場にいない父に冷笑した。あの人も所詮はただのつまらない男だった。平気で人の命を奪う癖に、初恋の女性(ひと)だけは死なせたく無かったと言う訳だ。実に手前勝手な話だ。

しかもこんな事が高官や上級貴族等に知られれば、幾ら国王と言えど立場は危うくなる。少しでも隙を見せればどうなるかなどあの人が誰よりも理解している筈だ。何しろそれを自分に叩き込んだ張本人なのだ。そこまで危険を犯してでも、あの女性(ひと)を助けたかったのか……ヴォルフラムには理解出来ない。結局、自分の(もの)にはならないというのに。




『お母さまっ……』


それから程なくして、ユスティーナの母は病で亡くなった。ユスティーナは暫く嘆き悲しんでいたがそんな中、予想した通りオリヴィエ夫人はこれまで以上に彼女を邪険に扱い、遂には彼女を屋敷から追い出そうとしていた。だが実子である息子から激怒され、逆に夫人の立場が悪くなり、精神的に弱っていった彼女は()で亡くなった。これまでユスティーナを傷付けてきたのだ、当然の報いだろう。


『今日も、元気そうだね』


庭で花を眺める彼女を見て、思わず頬が緩む。

それからもヴォルフラムはユスティーナを見守り続けた。他意はない。ただ単に彼女がどう過ごしているのかが気になる、所謂興味に近い感情だ。だがその想いも、自分自身でも気付かぬ内に少しずつ形を変えていっていた。そして転機が訪れたのは彼女と弟のレナードが婚約したと聞いた時だった。


彼女がレナードの婚約者(もの)になった……ー。


その事実に、一瞬心臓が止まったと感じるくらいの衝撃を受けた。だが次の瞬間には、今度は逆に心臓が早鐘の様に煩く脈を打ち、暫く動悸が治らず、ヴォルフラムは目眩すら感じた……。



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― 新着の感想 ―
[一言] うわ〜衝撃の事実… 世が世ならユスティーナ王女殿下なんじゃん…
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