表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/63

36




自邸に帰るのは随分と久々だ。眠っていた期間を含めて半年近くになる。ユスティーナが帰ると使用人等が温かく出迎えてくれた。エルマなどユスティーナの顔を見た瞬間ボロボロと涙を流し泣き出してしまい、ユスティーナは慌てた。


その夜は食卓にユスティーナの好物ばかりが並び、帰宅したロイドやエルマ達に細やかな快気祝いをして貰った。父は相変わらず不在で、ユスティーナが療養中も会いに来てくれる事はなかった。何時もの事なので気にはしない。


「姉さん、改めてお帰り」


「ただいま、ロイド、皆」


暫し談笑し穏やかな時間を過ごした。

夕食を終えたユスティーナは湯浴みをする。するとユスティーナの身体の痕を見たエルマはまた涙を流す。今度は嗚咽を漏らしながら泣く彼女を、必死に宥めた。


「こ、こんなに痕が残ってしまわれてっ、酷過ぎますっ……」


「エルマ、そんなに泣かないで。私はこれくらい平気よ。でも、私の為にありがとう」




その晩ベッドに横になり目を閉じるが中々寝付けなかった。彼の事が頭を過ぎる。ユスティーナが婚約解消を申し出たら、予想に反した言葉が返ってきた。


『僕との結婚が嫌になったの?』


『……醜い私は、ヴォルフラム殿下には相応しくありません。殿下にはもっと相応しい女性がいます』


『……』


『ヴォルフラム、殿下?』


『ユスティーナ。これは、政略結婚だよ。屋敷に戻るのは構わないが、解消なんて認められない』


何時も穏やかで優しい彼が、一瞬別人の様に見えた。鋭い視線と言葉に思わず身体を縮こませてしまった。


『君はまだ病み上がりで、精神的にも不安定だからそんな風に考えてしまうだけだよ。今の言葉は聞かなかった事にしてあげるから、もうそんな事、絶対に言っちゃダメだよ』


ユスティーナを抱き寄せ耳元でそう囁くと、彼は馬車まで見送ってくれた。


彼が分からない。確かに自分は公爵令嬢だが、こんな身体の至る所に火傷の痕がある汚い女は体裁が悪い。彼の評判まで傷付けてしまう。政略結婚と言うなら尚更別に相応しい女性がいる筈だ。

もしかしたら、優しい彼は哀れなユスティーナを見捨てられないのかも知れない。ヴォルフラムとの婚約が破談になった後、今後良縁は望めない事は明らかだ。幾ら政略結婚でも余程の事がなければ、態々こんな醜い身体の女を娶ろうとは思わない。例え嫁げたとしても幸せとは程遠い生活が待っているだろう。


そんな風に考えると、途端に不安が押し寄せてくる。だが後悔はしていない。寧ろあの時リックを助けに行かなかったら、今頃立ち直れないくらい後悔していたと思う。


兎に角、ヴォルフラムとは少し距離をおこう。きっと、時間が解決してくれる。その内彼も冷静になって、分かる筈だ。

そんな風に思いながらユスティーナは眠りに落ちていった。胸が痛むのを感じながら……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いやもう国民の中では世紀のラブロマンスだからね!? 世論的にも外堀は埋まっとりますねぇ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ