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「し、失礼、致します……ジュディット様、お食事をお持ち致しました……」
見るからに怯えた様子の侍女が食事を持って部屋へと入って来た。その姿に苛々する。ジュディットはトレーの上のサラダが乗った皿を掴むと侍女に投げつけた。ガチャンッと音を立てて皿は割れた。
「今はお腹空いていないわよ!鬱陶しいからこんなの下げなさいっ!」
侍女は涙目になりながら何度も謝罪を口にして下がる。本当、どいつもこいつも使えない人間ばかりだ。鼻を鳴らす。
あれから一ヶ月。自邸の自室から出して貰えない。父は屋敷には帰って来ず、母も自室に引き篭もりずっと泣いてばかりいる。
一体何だって言うの⁉︎ー。
こんなの現実なんかじゃない。これまで何もかもが上手くいっていた。侯爵令嬢として生まれ、誰もが認める絶世の美女の自分を父も母も溺愛した。ジュディットが望む事や欲しい物はなんだって用意してくれた。
将来の王妃に相応しいのはジュディット以外にいないと何時も言っていた。無論自分だってそう信じて疑わなかった。実際ヴォルフラムの婚約者に選ばれたのはジュディットだった。第二王子のレナードだって自分に好意を抱き、思いのままだった。それなのに……。
「どうしてあんな小娘に奪われなくちゃいけないのっ⁉︎ヴォルフラムもこんなに完璧な私をを捨てて、あの小娘を選ぶなんて頭がおかしいんじゃないの⁉︎」
しかも、あんな大勢の前でこの私に恥をかかせるなんて、赦せないー。
ジュディットは扉を叩き、大声で侍女を呼んだ。すると先程食事を持って来た侍女が慌ててやって来る。
「お、お呼びでしょうか……」
「私、出掛けたいの。準備して」
「いけません、ジュディット様は処分が下るまでは屋敷からは出れないんです」
ラルエット家の屋敷前にはヴォルフラムが寄越したであろう兵が見張りとして立っている。本当に腹立たしい。
「そんな事分かってるわよ。だから見張りの兵を呼んで来て頂戴」
馬車に揺られながらジュディットは鼻歌を歌う。私の美貌に掛かれば男を言い成りにさせる事なんて簡単だわ。
侍女に連れて来させた兵士等に、甘えた声で擦り寄りお金を握らせて、少し彼等の身体を触ってあげると、直ぐに頷いた。年若い彼等は顔を真っ赤にして興奮気味に息を荒げていた。思い出しただけで可笑しくて仕方ない。
「ふふ」
ジュディットは今街外れにある、例のボロい教会へと向かっている。あの偽善者振っている小娘に目に物見せてやるわ。




