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世界  作者: 霧野秋彩
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新学期まで

未知のウイルス、と言っていますがコロナ禍の日本が舞台です。不快な気持ちになってしまう可能性があります。ご了承ください。

この春休みは本当に長かった。隣の国から始まったらしい未知の病気が日本にもやってきたからだ。医者の両親は私が外に出ることを極端に恐れ、アルバイトも辞めさせられ、社会人の彼氏と会うことも許されなくなった。前日までは行きたいところに行けたのに、その日からは家の中でしか暮らせなかった。そして、私は両親との仲が良かったわけではないし、そもそも両親はほとんど家にいなかったため私は春休み中ずっと4畳半の自室で過ごしていた。ベッドで横になってTwitterを開き、呟く。


「親に外出るなって言われた、大学どうするん?私」

『マジ?大袈裟すぎるじゃん笑 医者の娘って大変だね~』

「本当にそう」


両親による外出禁止はやっぱり大袈裟なんだと改めて思った。きっとすぐに元に戻るだろうと思っていた。

「そうだ、優太さんにも連絡しておかないと」

恋人である優太さんにメッセージをした。


「親に外出るなって言われた」

「あれのせい、病気」


2時間後に連絡が来た。


『あ、マジか』

『もう会えないの?』

「出てもいいよって言われるまでは」

『そっか』

「ごめんね」

『まぁ、仕方ないよね』

『杏奈のご両親は医療従事者だもんね』

「うん」

「ごめん」

『気にしないでよ』

『沢山電話して話せばきっとすぐだよ』

『戻るね』

「うん、がんばって」


嫌われたと思った。でも、彼は受け止めてくれた。嬉しい半面、本当にやばい病気なのかもと余計不安になった。



3月後半になって、ガイダンスが行われた。オンラインだった。私にインターネット社会は合わないなと思った。長ったるい学生要覧とわかりにくいシラバス、不安要素しかないガイダンスで何も頭に入ってこなかった。zoomの画面横でTwitterを開いて友達と呟きあってどうにか時間を潰した。


「えっつまりいくつ取ればいいん?」

『この表のところを18科目取ればいいってことだと思う』

『わからんかったらとりま学務課に聞くしか?』


どうもみんなよくわかっていないみたいだった。混乱する中、画面の中で学長先生が言った。

「今期は全てオンラインとします。」


その言葉と同時にタイムラインが猛スピードで動いた。


『うっそ、まじ?』

『学校行かなくて済むってこと?』

『家で授業受けれるんだ、なんかいいね楽そう』


混乱したタイムラインに投下されたオンラインという爆弾を、Twitterにいるお友達はどう思っただろう。


「登校する手間が無くなるのはいいかもだけど、皆に会えないのは悲しいな」


ツイートにいいねが沢山来た。皆そう思っているんだなと安心した。父さんも母さんも安心するかな、でもどうせ2人はピリピリしてるよね、と複雑な心境をベッドで転がして優太さんにメッセージをした。


「大学のガイダンス受けてた~」

「今期オンラインだって」

「変な感じ」


優太さんから電話がかかってきた。


「あ、仕事終わったの?」

『さっき帰ったとこ。オンライン授業か~電車乗らなくていいのは楽でいいな!』

「それはそうだね」

『授業はいつから?』

「来週の月曜日かな、春休み長かったのにもう終わっちゃうのか~」

『まぁまぁ、あと1週間ゆっくりしなよ』


その後はいつも通りの他愛のない話を何時間もして、彼は眠った。彼が眠ったあと、何百ページもあるPDFの学生要覧及びシラバスと時間割を交互に見て時間割を組んでいたら明け方の4時になっていた。もう2時間もしたら彼が起きる時間だろう。寝るために電気を消したがカーテンから漏れる微かな光が部屋の暗闇を許さなかった。



次の日、目を覚ましたのは昼だった。親に辞めさせられたネットカフェのアルバイトのことを思い出して飛び起きた。突然の退職で迷惑かけちゃったなと思いつつ、次のアルバイト先を探す。だが、すぐに難しさに気付いてしまった。私は家から出られない。家でできるアルバイトなんてどこにあるんだろうか。私はTwitterとメッセージで聞いてみることにした。


「急募 家から出ないでできるアルバイト」

『あるわけなくて草』

「でもマジで家から出れんから金欠で死ぬ」

『貯金は?』

「あるけど貯めておきたいじゃん、老後のためにもさ」

『それはそうだな~~わからん』


そりゃそうなのだ。アルバイトで家から出ないものなんてあるわけない。あったとしても100%怪しいタイプのやつだろう。


「ね~さっき現実突きつけられた」

「家から出ないでできるアルバイトとか心当たりないよね?」

『心当たりないなぁ……チャットレディとかはやめとけよ?杏奈には合わんよ』

「それはわかってるよ」

『確かになぁ…家から出るなってことはバイトも辞めろってことだもんなぁ…』

「無職なう」

「金欠すぎるよ」

『副業とかかねぇ』

『まぁゆっくり探すといいよ、ネカフェはバイト代高かっただろ?』

「うん」

『ならある程度貯まってるだろうから節約しつつ生きていけるだろさ』

『俺も援助するから』

『あ、戻る』


副業、ねぇ。ライターとか?続けられる自信ない。優太さんは一回り年上だから金銭的な事は任せろと度々言ってくれているけどなんか申し訳ない気持ちになる。世間が落ち着くまで家から出られない代わりに母さんにお小遣いを増やしてもらうように頼もうか。サブスクを最小限にしてもいずれお金が無くなっちゃうもんね。母さんにメッセージを送った。夜8時にでも返事が来るだろうか。

その夜、家族会議が行われた。どうやら、この要求はしてはいけないものだったらしい。リビングで父と母が隣り合って座り、私はその前に座っている。非常に気まずい空気感だった。先に切り出してきたのは父だった。

「なんで小遣いを増やす必要がある」

「家から出られないとアルバイトもできないから」

「家から出ないんだから金は使わないだろう、むしろ減らすことを提案するべきではないのか」

「家から出るなと言われてはいるけどネットショッピングを使うなとは言われてないよ。最近は置き配だってあるんだから感染リスクは極端に低いはずよ」

「何を買うって言うんだ」

「本とか食料とか、ゲームとか。私だって大学生なのよ、普通に欲しいものを買って何が悪いの」

そう父をキッと睨んだ。

「今まではバイト代で全部買ってたよ。月に5万は稼げていたからね。でもその収入が丸々無くなってしまったんだからバックアップとしてのお小遣い増額は妥当なはずよ」

私は父を睨み続けた。父も私を睨んでいた。母は話に入ろうとせずずっと黙っていた。緊急事態宣言が発令されたことを告げるニュース番組だけが繰り返し響いていた。その番組ではインタビューを受けていた女子大生たちがキャンパスライフの喪失を嘆いていた。

「……よかろう。2万増やせば満足か」

「うん」

「無駄遣いするんじゃないぞ。外に出ないんだから現金である必要はないよな。お前の口座に毎月の給料日に振込む。それでいいか」

「充分。どうもね」

私は冷えた緑茶をグラスに入れてくいっと飲み干し、そのまま部屋に戻った。私はベッドに飛び込みTwitterを開いた。


「お小遣いを2万増やしてもらうことになったよ、代わりにマジで収まらないと外に出れないや」

『会えないのほんと悲しい!!オンラインご飯とかしようね!杏奈ちゃんのところは遅くまでご両親帰ってこないでしょ?』

「それはあり、マジで沢山やろうね。お互いお酒が飲める年齢になったらオンライン飲み会ってやつもやろうよ」


このリプを見て、私はあの頑固な父に勝ったんだと改めて実感できた。家から出られないのは不便だけど、皆がオンラインで会いに来てくれるから大丈夫だと思った。彼にも連絡しなくては。


「……おつ~、2万お小遣い増額って契約で決まったよ」

『おっ!よく頑張ったな!それならネットショッピングで無駄遣いしないように気をつければ生きていけるだろ』

「そね~、ねね、お菓子とか送ってくれてもいいんだからね。置き配ってものが存在するんだから」

『確かにな!いいご飯をデリバリーしたらビデオ通話で一緒に食べてもいいもんな!』


やっぱり希望で溢れた言葉だった。病気は怖いけど、オンラインという近未来的な要素に好奇心がくすぐられたのも事実だったんだろう。この頃は。オンライン授業という新しいシステムにわくわくした日々を送っていた。


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