#06 友達なのにキスをした
文化祭二日目は、全校生徒が体育館に集まり、吹奏楽部の演奏や合唱部の歌や、放送部が作ってコンテストに応募した動画とやらを見させられた。
体育館では僕はずっと居眠りをしていた。
この日は午前中で文化祭は終わり、午後から片付けになっていた。
片付けが終わると、僕達のクラスは希望者だけで打ち上げをすることになっていたが、僕は「打ち上げに出るとミワは一人で帰るのか」とミワのことが気になったので打ち上げには参加しなかった。
ミワが迎えに来てくれたので、いつものように二人で帰った。
地元の駅に着くと「アカリのウチに遊びに行きたい」と言うので、ミワを連れて家に帰った。
夏休みにしょっちゅう来ていたけど、2学期になってからは、しかも学校がある日に来るのは初めてだった。
家には母親が居たので、自室で文化祭のことや中学時代の話をして過ごした。
急にウチに来たいとか言い出すから、何か悩みごととかあるのかと思ったけど、話してくれそうにないのでこちらからも特に聞き出そうとはしなかった。
母親がミワの分の晩御飯も用意してくれたので、家族と一緒にミワも食事をした。
食事が終わると外は真っ暗になっていたので、ミワを家まで送ることにした。
ミワの家まで送る道で、ようやく本題を話し始めてくれた。
「アカリは、今でもイクミのことが好き?」
『好きだよ。でも諦めもついてる。それに多分高梨はもう新しい彼氏出来てるでしょ。あんだけ美人なんだから向こうでも周りはほっておかないよ』
「そうかな?」
『そうだよ。そう思うことで諦める様に自分に言い聞かせてる』
「じゃぁ、もしイクミがこっちに戻ってきて、ヨリ戻したいって言ったらまた付き合う?」
『う~ん・・・正直わからん』
「なんで?好きなんでしょ?」
『好きだけど、もし僕と高梨がくっ付いたら、ミワ一人になっちゃうんじゃない?そうなるのが何か嫌だ』
「なんでよ。私のことは関係ないでしょ。私のことなんか気にしないで、付き合えばいいじゃん!」
『まてまて、落ち着け。あくまで例えばの話だろ?そんなに興奮するなよ。彼女なんか作らなくてもミワとこうして一緒にいる時間が楽しいって言いたいだけだから、そんなに怒るなよ』
「・・・・なんか気に入らない・・・」
『なんでだよ』
「そんなこと言われると、私も彼氏が作れなくなる」
『いやいやいや、お前作る気無いだろ?さっきから滅茶苦茶言ってるぞ?なんか嫌なことでもあったのか?』
歩きながら話していたけど、ミワが情緒不安定になっているので、帰り道にあった公園に誘ってベンチに座って話を続けた。
「アカリは1年なのに学校中の人から声かけられて、みんなに好かれて人気者で、でも私はクラスじゃ浮いちゃって、声かけてくる人も下心ばっかだし、誰も私の気持ちなんて気にしてくれない。性格だって悪いの自分で解ってる。アカリが居なかったら誰も友達居なくて、学校に行くのも止めてるかもしれない」
『そんなことないだろ。今のクラスじゃ恵まれていないかもだけど、2組に来たときはみんなミワと仲良く話してくれるだろ?』
「そんなの私がアカリの友達だからだよ。アカリが居なかったら、きっとみんな同じだよ」
『う~ん、そんなこと無いと思うけどなぁ』
「だから、もしアカリに彼女が出来たら、私は一人ぼっちになるんだって考えたら、凄く不安になるの」
『それで高梨の話が出てきたの?とりあえず大丈夫だよ、今、彼女作る気ないし、そもそもお前と違って告白とかされることも全然ないしな』
「それはアカリがそう思ってるだけだよ。アカリのこと好きな子、結構いると思うよ」
『いやいやいや、そんな話、信じられねぇ』
「じゃぁさ、アカリはホントに彼女作らない?」
『うん、そのつもり』
「つもりじゃやだ」
『え~・・・』
「約束して、彼女作らない。私と一緒に居てくれるって」
『判ったよ。彼女作らないし、ミワと一緒にいるよ』
「じゃぁ、キスして」
『なんでキスになるんだよ!やっぱおかしいぞお前』
「おかしくない。イクミとはキスしたんでしょ?だったら私ともキスして」
ミワと話していると頭の中が訳わからなくなって、しつこくキスを迫るミワに根負けして結局キスをして、ようやく機嫌を直してくれたミワを家まで送って、帰った。