ep4 同盟
突然「味方」を名乗って現れた人を普通はすぐには信用しないと思うけど、危機的状況の時はどうかな!?
「死ねっ!!」
守江さんから目線を外して横を見ると、
本名は炎さんと言うらしいリベンジエヴォルドとバッドエヴォルドの
戦いが始まっていた。
バッドは、昨日私にした様に羽を広げてリベンジに飛びかかり、爪で切り裂く。
一度だけでなく何度もその攻撃を繰り返した。
「あ~れぇ~??
思ってたより弱いねぇリベンジちゃぁーん??
これならすぐに決着がつくなあ。」
まずい、バッドに押されてる!
「守江さん、炎さんが!!」
しかし守江さんはあまり焦っておらず、落ち着いている。
「あ~、大丈夫大丈夫。
炎ちゃんがああなるのはいつもの事だから。」
「えっ?」
「だってあの子は、"リベンジ"エヴォルトだからね。」
守江さんがそう言うと同時に、
リベンジは自分に飛びかかり触れる直前のバッドの手を強く握りしめた。
「しまっ・・・・!」
「復讐の時間だ。」
リベンジはそう冷酷に言い放つと、それに呼応して
彼女の体の炎がより激しく燃え広がる。
そのまま握っていたバッドの手を腕から引きちぎった。
「グギャァァァァァッ!!!」
その叫び声が止むの待たず、
リベンジはもう片方の手に力を籠める。
そしてその手でバッドの頭を鷲掴みした。
「地獄で一生被害者に詫び続けろ。」
「や、やめろおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!」
次の瞬間、バッドの顔は爆発四散した。
顔の無くなったバッドの体は力なく膝をつき、
そして一瞬で体中に、擬態を解除する時と同じ赤・・・ではなく、
青いヒビが入った。
そして粉々に崩壊してしまった・・・。
「炎ちゃん、お疲れ~。」
「・・・。」
リベンジエヴォルドは沈黙しながら元の姿に戻・・・、
じゃなくって、人間の姿に擬態した。
黒いパーカーを着こんで、それについているフードを目が隠れる位の所まで
被っている姿。
これが炎さんか・・・。
顔はよく見えないけど、何だか自分以外の全てが敵、って感じの
厳しい雰囲気を纏っている。
背丈は私とあまり変わらないから、年が近いのかな?
・・・あ、そうだ。
擬態と言えば。
「あのっ・・・!私、擬態のやり方がわからなくて。
このままじゃ家に帰れなくって・・・!!」
「あぁ~、難しいよね擬態するの。
私も最初大変だった。
でもコツがあるから、
今から私が言う様に頭の中にイメージしてみて?」
「は、はい・・・。」
「目を瞑って、目の前に皮があるのを想像してね。
あなたがその姿になる時に脱げてしまった、
人間としてのあなたの"皮"を。」
皮・・・。
守江さんの言う通りに、私の前に私の姿を想像してみた。
「それを自分に被せるの。
服を着るのと同じ感覚で。」
この皮を、被せる。
私に・・・。
「はい、終わったよ!」
え?もう?
私は目を開けた。
「あっ、私の手が!」
私の目には、毎日見慣れていたごく普通の手が映った!
それだけじゃない。
どこを見ても、どこを触っても、人間の私だ。
良かった・・・!
これで家に帰れる・・・!!
「どう?やり方さえわかれば意外と簡単でしょ!
でもそのやり方がなかなかイメージ出来ないから大変なんだよね。」
「・・・何から何までありがとうございます。
命だけじゃなく、姿まで・・・!」
この二人には本当に感謝しかない。
私は二人に向かって深く頭を下げた。
「そんなにかしこまらないで大丈夫だから!
私も安心してるんだ。
まだ右も左もわからないエヴォルドになったばっかりの子を
一人助けることが出来て。
私達の・・・、『人間同盟』の使命を果たすことが出来て!」
そう言って、守江さんはにこっと笑った。
「おい、何が『私達』だ?」
突然炎さんが、ドスの効いた声で守江に突っかかった。
「勝手に私をお前の下らん同盟ごっこに入れるな。
いつ私が同盟に入ったんだ?
私はあくまで協力者だって言ってるだろ。」
「そんな細かい事気にしないでよ~。
同じ屋根の下で毎日暮らしてるんだから
実質仲間でしょ??」
な、なんかギスギスムードだ・・・。
といっても、怒っているのは炎さんだけで
守江さんはさっきまでと同じ調子だけど・・・。
「黙れ。
私はエヴォルドを助ける趣味は無い。
むしろ逆だ!
私はこの世の全てのエヴォルドが嫌いだ。
お前に協力するのは、卑劣なエヴォルド共を皆殺しにするため。
それを忘れるな・・・!
それと。」
「えっ・・・?」
炎さんは私の方をにらんだ。
その鋭い眼光に、私は身震いを覚える。
「・・・お前にも言っておく。
私は悪意を持たないエヴォルドには一応手を出さない。
だが例え悪意がなくても、私はエヴォルドが嫌いだ。
お前はもしかしたら今後こいつの同盟ごっこに首を突っ込むことに
なるかもしれないけどな、
また私と会う機会があっても、私に話しかけるな。
関わるな。
いいな???」
彼女の目は、"本気"だ。
その勢いに委縮した私は、力なく
「は、はい・・・。」
と答えるしかなかった。
「・・・先に帰る。」
そう呟き、炎さんは公園を去って行った。
・・・私もたいがいひねくれた性格をしていると思っていたけど。
あの人は私の何倍もひねくれているようだ。
「・・・気にしないでね。
あの子はエヴォルドという存在に、かなり複雑な思いを持ってるから。
それより、あなたの名前を聞いてなかったね。」
「あっ・・・、私、小石竜奈って言います。」
「竜奈ちゃん、ね。
もしよければ色々聞かせてほしい所なんだけど・・・。」
守江さんは公園に置かれた時計を見た。
深夜3時を少し過ぎていた。
「・・・竜奈ちゃんはまだ夜にうろついていちゃダメな歳だから。
今日はもうおうちに帰った方が良いね。」
そう言って、守江さんは私に名刺を渡してくれた。
『駄菓子屋・なごみ堂』?
「そこが私と炎ちゃんの居住地なの。
時間がある時で良いから、一回ここに遊びに来てね。
あなたの身に起こったことを聞かせてほしい。
私もあなたに、知っている限りのエヴォルドのことを教えたいから。」
「あっ、はい。
よろしくお願いします・・・。」
どこかきょとんとしたまま、何となくそんな答えを返した。
そのまま守江さんと別れて、私はとぼとぼと家へ帰るために歩いていた。
私の脳内には形容しがたい不思議なものがあった。
家でエヴォルドになった時は、
夢だと思いたくてもこれが現実だと、
嫌というほど思い知らされた。
でもこの一晩のうちにあまりにも色々起こり過ぎて、
何だか再び現実味が無くなってきた様に感じられた。
私は怪人になった。
エヴォルドになった。
それからバッドに襲われて、リベンジがバッドを殺して、
守江さんに助けられて。
これだけの怒涛の展開が、わずか1時間ほどのうちに起こっていた。
・・・何もわからない。
自分はこれからどうすればいいのだろうか。
そもそもエヴォルドとは何なのか。
いくら擬態出来るようになったからと言って、
私はこれからも人間として暮らして良いのだろうか・・・。
その答えを知るためには、私を助けてくれたこの守江さんに着いて行くしか
ない様に思われた。
「竜ちゃん・・・?」
玄関の前には、お母さんが立っていた。
・・・そうだ、私、お母さんに見つからない様に家を飛び出したんだった。
きっと突然深夜に家を飛び出した私をお母さんは大きな声で叱るだろう。
「た、た、ただいま・・・。
あのっ・・・、そのっ・・・。
お母さん、私っ・・・!!!」
当然、本当のことは言えない。
何て言い訳をしたらいいのかわからなくて私は口ごもる。
次の瞬間、お母さんは私を抱きしめた。
「おかえり、竜ちゃん。」
その声から怒りの感情はうかがえず、
むしろ赤子をあやすような優しい声色だ。
「お母さんっ・・・、怒らないの・・・?」
「うん・・・。
だって、表情を見たらわかるもん。
あなたは何かやましい気持ちで外に行ったわけじゃない。
私が下に降りて来た時、大慌てでドアを開けて出て行ったでしょ?
普段のあなたはそんなことしない。
だから何か理由があると思った。
14歳にもなれば、そういうこともあると思うの。
私もそうだった。
夜中に急に外に出て空気を吸いたくなったりね。
・・・何より、竜ちゃんは夜遊びするような子じゃないもの。
それでお父さんには知らせず、一人であなたが帰るのを待とうって思ったの。」
「お母さん・・・!ごめんね・・・!!」
お母さんの愛に包まれて幸せな気分に浸っていた私も、
お母さんを抱きしめようとした。
しかし、
「いたたたたっ、ちょっと竜ちゃん強く締めすぎ!」
擬態していても、所詮私は化け物だった。
コップを簡単に割ってしまうほどの怪力だ。
ちょっと力を入れただけでも、お母さんが痛がるほどの力が出てしまう。
「ごっ、ごめん!!」
咄嗟にお母さんから離れた。
この瞬間私は自覚した。
私は、少なくとも今まで通りの生活は出来ないのだと。