ep11 踏み出す一歩
エクレアは甘すぎない方が好き。
「はい、これ。」
私はちょうど男子高生が震えていたコンビニで今二つ買ったエクレアを、
一つ炎ちゃんに渡した。
「・・・ありがと。」
炎ちゃんはまたいつもの冷酷な声色に戻っていた。
しかし、今までとは少し態度が違った。
きっと、さっきの駆け引きが無かったら
炎ちゃんは私のエクレアを受け取らなかっただろう。
「これ、オーソドックスながらおいしいんだよ!
私はよくコンビニのスイーツを食べてるんだけど、
このエクレアはやっぱり不動の1位でさ~!」
「ふうん。」
炎ちゃんは一口エクレアを食べた。
「・・・うまい。」
表情は変わっていないけど、
気に入ってもらえたようだ!
「良かったぁー!」
私もエクレアにかぶりついた。
「やっぱこれだよ、これ!
控えめな甘さが好きすぎる~!」
「あんまり甘いやつは私も好きじゃないな。」
「炎ちゃんも控えめ派?
じゃあやっぱりチョコもビターが好き??」
すると、炎ちゃんはちょっと首を傾げた。
「いや・・・、チョコは甘い方が好きだ。
甘すぎるのが苦手なのは、シュークリームとか、そういうスイーツ系。」
「あぁ、なるほどね。
ちょっとわかるかも。」
私と炎ちゃんは、そんな話をしながらエクレアを食べ終えた。
何か・・・、これで良いのかな?
とりあえず、わだかまりは解けた・・・。
けど、まだそんなに仲良くない人と接するときってこんなんで良いのだろうか。
長いこと友美ちゃん以外の友達がいなかったから、ちょっとよくわからないや。
けど、私としては中々楽しい。
さっきまで意地の張り合いをしていた二人、
まあ大体私が悪いんだけど、
とにかくそんな二人が、他愛も無い会話を出来ているのは何だか不思議で面白い。
炎ちゃんも、少なくとも私の主観では結構心を許してくれている様に見える。
さっき一回名前を呼んでくれたし、
こんなくだらない会話に応じてくれている。
・・・もし、このままずっと仲良くなって行ったら、
いつか炎ちゃんが自分から話してくれるかもしれない。
彼女のトラウマを。
さっきの慟哭を。
だからその時まで私は詮索しない。
そう決めた。
ふと、エクレアの袋を捨てる炎ちゃんの目を見つめた。
「・・・何だ、何かついてるのか?」
「え、いや、特に理由は無いんだけど・・・。」
そういいながら、私は視線を下に持っていった。
そして、噴き出してしまった。
炎ちゃんの上唇の上に、まるでひげみたいにチョコがついていたからだ。
「ブフッ!」
「・・・ついてたんだな。
教えろ、どこだ。」
おひげのままいつものドスの効いた声で私を脅す炎ちゃん。
何だ、この光景は。
シュールすぎる。
「プッ、そこ・・・!
唇のっ・・・、上っ・・・、フフフッ・・・!!」
「・・・笑いすぎだろ、おい。」
口を拭いた炎ちゃんは私を睨んだ。
「ご、ごめんごめん!」
一瞬背筋がゾクッとしたけれど、
さっき彼女の地雷を踏んで怒鳴られてしまった時に比べて
明らかに睨みがマイルドだった。
そして、次の瞬間には目つきが緩んでいた。
「ったく・・・。」
まだ完全に仲良くなったわけじゃない。
けれど、私は炎ちゃんとうまくやっていけそうな気がしてきた。
・・・やっていく、か。
やっぱり私は・・・!!
「ねえ炎ちゃん。
今からなごみ堂に戻って良い?」
「あの革の奴のことなら、私が守江に報告しておく。」
「いや、そうじゃなくってね。
それとは別件で。」
「・・・?
まあ、好きにしろ。」
炎ちゃんは疑問に思いながら、
私と一緒になごみ堂へ向かった。
「良かった~、竜奈ちゃんが無事で!
念のため炎ちゃんに追いかけてもらって正解だったよ!」
なごみ堂で炎ちゃんの報告を聞いた守江さんは、
そう言いながら私に抱き着いた。
「すみません、迷惑をかけて・・・!」
「それに、何だか二人の仲もちょっと良くなった気がするよ?」
「・・・本当に"ちょっと"な。」
炎ちゃんはあくまで冷淡に言った。
「ま、そこは後で聞かせてもらうとして!
竜奈ちゃん、私に話って??」
守江さんのその言葉と共に、私は目をつぶった。
・・・答えたら、もう後戻りは出来ない。
けど・・・!
「・・・決めました。
私も、守江さんに協力したいです。
エヴォルドに襲われる人を助けたいし、
組織に誘導される前のエヴォルドも助けたい。
だから、私も『人間同盟』に入りたいです!!」
言っちゃったぁ・・・!
私言っちゃったよぉ!!
あーどうしよ、どうしよ!!
私が脳内で一人で慌てふためいていると、
「・・・守江から聞いたが、
死ぬのが怖いんじゃなかったのか?」
と炎ちゃんに質問された。
「・・・怖いよ、今も。
さっきだって、炎ちゃんが来てくれなかったら
死んでたと思うと震えが止まらないし。」
「なら、どうして同盟ごっこに入ろうとする?」
「そうだよ、竜奈ちゃん。気持ちは嬉しいんだけどね、
無理に入ろうとするのはやめたほうが良いと思うんだけど・・・。」
炎ちゃんも守江さんも、私を見つめた。
私は一度唾を飲んで、答えた。
「それは・・・、
私は、一度こうしようって決めたら
止まらないみたいだから。
私、炎ちゃんにもそれでああやって無茶苦茶しちゃったでしょ?
どれだけ死ぬ事に恐怖しても、
私が『助けたい』って思ったら、
恐怖心を超えて体が勝手に動いちゃう。
きっとこれから先も、
エヴォルドの波動を感じたら私はそこに行ってしまうだろうからさ、
それなら守江さん達と一緒にいた方が良いって思ったの。
今の私一人じゃ、何も出来ない。
でも守江さんや炎ちゃんと一緒なら、
力を合わせて皆を助けられる。
そんな気がして。
だから、そう決めました!!」
私は胸を張って、二人にそう言い放った。
「・・・勝手にしろ。」
炎ちゃんは、ほんの少し口角を上げながら言ってくれた。
「・・・そっか、わかったわ竜奈ちゃん!
あなたの覚悟、確かに受け取った!!」
守江さんは私の肩を両手でぎゅっと持った。。
「私も竜奈ちゃんの事いっぱいサポートするから、
何でも相談してね!
あ、そうだ。
炎ちゃん、竜奈ちゃんに戦闘術を教えてあげるっていうのはどう!?
さっきのレザーエヴォルドの件も考えると、
竜奈ちゃんは炎ちゃんとおんなじ位戦えた方が良いと思うの!」
「はぁ!?
何で私が!!
私はあくまで協力者だって言ってるだろ!!」
「まあまあ、せっかく仲良くなったんだし~、
もっと二人の交流の場を作らなくっちゃ!!
それに、炎ちゃんに教えてもらえば
竜奈ちゃんはきっとメキメキ強くなるよ!!」
私が炎ちゃんから、戦い方を・・・!
炎ちゃんは、私の方を見て言った。
「竜奈。
私は・・・、人に何かを教えるとか、
そういうのをした事が無い。
多分、厳しいぞ。
素人のお前にはハードだ。
それでも良いのか?」
「うん、良いよ!
私は強くなりたい。
そのために、自分の体の使い方をもっと知りたい!!
炎先生、よろしくお願いします!!」
私はわざとらしく丁寧に炎ちゃんに言った。
「はぁ・・・。
ったく。
調子狂うから敬語やめろってさっき言っただろ。
タメ口で話すなら、教えてやる。」
おお~、嬉しい!
炎ちゃんに教えてもらえるんだ・・・!
・・・って、あれ?
私が『先生』って言ったのが冗談だとわかってないのかな・・・?
「ありがとう!!
・・・でも先生云々はちょっとしたジョークだよ?」
「ああ、何だそういうことか。」
炎ちゃんは無表情でそう答えた。
あれ、もしかして、炎ちゃんって結構天然・・・??
「さて、二人とも話が纏まったみたいだね!
これから私たち『人間同盟』は3人態勢!!
一緒に頑張ろうね!!」
「はい!!」
私はうなずいた。
炎ちゃんは、案の定自分を入れて3人扱いされて怒っていた。
「守江!!!」
「炎ちゃ~ん、もういいじゃん、意地張らなくて。
表立って3人で一緒にやろうよ~!!」
「断る!!」
もう、またやってるなぁ。
そんな微笑ましい光景を私はにやけながら見ていた。
しかし、
一瞬私は信じられないものを見た気がした。
いつも笑顔で、ちょっと抜けたところのある守江さんの表情が、
一瞬、ほんの一瞬だけ、
"何の感情も感じられない様な顔"に見えた。
「・・・えっ?」
私は目を疑って、自分の目をこすった。
もう一度守江さんの顔を見ると、
いつもの表情に戻って
「竜奈ちゃ~ん、炎ちゃんを説得してよぉ!
仲良くなったんだしぃ~!!」
と私に頼んでいた。
何だ・・・、今の。
私、幻覚でも見たのかな。
まあ、多分気のせいだ。
レザーとの戦いで疲れているんだ、私は。
そういえば守江さんは一体何のエヴォルドなんだろう。
今度聞いてみようかな・・・。
でも聞かれたくないのかもしれないしなぁ・・・。
今度炎ちゃんに一回聞いてみようかな。
結局、私と守江さんの説得により
炎ちゃんもついに折れた。
「ああもう、勝手にしろ!!
同盟ごっこだろうがなんだろうかやってやる!!」
「はい、じゃあ炎ちゃんも加入・・・と。
これで正式に3人態勢だね!!」
「フン。」
炎ちゃんはあくまでそっけなく対応した。
「竜奈ちゃん。」
守江さんは、改まって私の前に立った。
「改めまして、
ようこそ、怪人の世界へ。」
そう言って私に手を伸ばす守江さん。
・・・そうだ。
受け入れられないけど、私はもう人間じゃなくなってしまった。
これからどう生きて行けばいいか、
正確にはわからない。
けど、この2人といれば、大丈夫な気がした。
「・・・はい!」
私は守江さんの伸ばした手を握る。
私は、怪人の世界に一歩足を踏み入れた。
第1章、これにて完結です!
ほとんど序章って感じのお話でしたね!
次回からの第2章では新展開が始まります!お楽しみに!!
おまけ:ここまでに登場したエヴォルド達
リザードエヴォルド/小石竜奈 (Aタイプ)
トカゲの能力を持ち、尻尾を切って一度敵から逃げる事が出来る。
一回切り離すとしばらくは生えて来ないが、
尻尾が無い状態では持ち前のスピードがさらに速くなる。
リベンジエヴォルド/恨道炎 (Bタイプ)
"復讐"の名前の通り、身体が耐えられる限りは
相手から攻撃を受ければ受ける程
相手に対して有利に戦える様になる。
また、紫色の炎を飛ばす事も可能。
バッドエヴォルド (Aタイプ)
蝙蝠の能力を持ち、羽を広げての高速での攻撃が得意。
また、黒い体表から闇夜に紛れやすい。
レザーエヴォルド (Bタイプ)
グローブやベルトの革がイメージ元で、
全身が革で出来ている。
それ故体表は固く、両腕を伸ばしてムチの様に振るう事が出来る。




