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共同の奪還作戦でございます!

「さて、ちょっとお邪魔してくるな」


 ぱんぱんと手を払って立ち上がったダンが、太くねじられたつるの一段目に手をかけよじ登っていく。


「えと、何かお手伝いしますか!?」


「ん? ああ、いや。そこで待っててくれるか」


 ひょいひょいと上っていったダンが、辿り着いた先で巣を覗きこむ。

 すると、


「あー……アタリだな」


「ありました?」


「ああ。やっぱりここに持ち込まれてたみたいだ。探していたおやつってのは、白い小袋のやつか?」


「あ、それです!」


「わかった。ちょっと待っててな」


 ダンが再び巣に向き直り、手を伸ばす。と、


「ピィィッ!!!!」


 それまで大人しかったヒイヨドリが、怒りの様相でばっさばっさと羽ばたき、ダンの手を突いた。


「いっ!?」


 痛みに手を退いたダンがバランスを崩す。


「ダン様!?」


「っと、大丈夫だ」


 体制を持ち直したダンが、再び巣に手を伸ばそうとする。

 けれどもやっぱり「ピィッ!」とヒイヨドリに撃退されてしまった。


「ううーん、こりゃどうしたもんかな」


 弱ったように頬を掻いたダンが、


「なあ、それ返してくれないか?」


 ヒイヨドリに話しかけるも、「ピッ」とそっぽを向かれてしまう。


(ヒイヨドリって、可愛い見た目に花だ光物だって愛らしいイメージがあるけど、けっこう気性が荒いんだっけ……)


 このままじゃ大切な私のクッキーも、ダンの探し物も返してもらえない。


(なにか他の手……あ、そうだ)


 思いついた私は「ダン様!」と呼びかけ、


「ひとつ思いついたのですが、ご協力をお願いしてもいいですか?」


「ん? なにか策があるのか?」


 ダンが不思議そうな顔をして、梯子を降りてきた。

 私は彼を見上げ、


「夜光花ってご存じですか?」


「それって、夜になると花が光るっていう、あの夜光花か?」


「はい。あの花は簡単に手に入るものではありませんし、暗がりでも光りますし。その花と交換してもらうっていうのはどうでしょう?」


「なるほど、物々交換か……。試してみる価値はありそうなんだけどな……」


 ダンは弱ったような苦笑を浮かべ、


「俺の魔力じゃ、花は出せなくてな」


「あ、それならご心配には及びません。花柄かへいまで出して頂ければ、その先に花を咲かせることは出来ますので」


「そうなのか? それじゃ、試しにやってみるか」


 ダンが梯子側の地面に片手をつく。

 ぽう、と淡い光を帯びると、細いつるがしゅるっと伸びて、梯子の根本に巻き付いた。

 ぷっくりと平たい雫型の葉が、次々と開く。


「と、こんなもんでどうだ?」


「ありがとうございます、ダン様。それじゃ、少々失礼して……」


 私は目的の花柄かへいを見つけ出し、そっと手を添えた。

 特別な道具や呪文を持たないこの国での魔法は、いわば想像力だ。

 自身の魔力の範囲でも、その力が作用する"想像"がうまく出来なければ、失敗する。


(ええと確か、夜光花の咲き方は……)


 夜光花と呼ばれるこの花は、前世でいう夜顔に似ている。

 私は目を閉じ魔力を放出しながら、花柄からがくが伸び、蕾が生まれ、成長したそれがふっくら膨らみ、くるりとねじ開く姿を脳裏に描く。


「……うまくいった、かな」


 パチリと瞼を上げると、そこには真っ白な夜光花が。


「さすがはヴィセルフの花付け役だな」


「実は夜光花を咲かせるのは初めてでして……本当に緊張しました。上手くいってよかったです」


 安堵の息をこぼしながら私は花をぷつりと摘み、ダンに手渡す。

 ダンは「よし、これで交渉再開だな」と受け取って、気合満々で梯子を上り始めた。

 巣までたどり着くと、「なあ」と警戒するヒイヨドリに声をかけ、


「これと交換してくれないか? ほら、綺麗に光るだろ」


 ダンが手の内で花を包んで見せると、ぽう、と夜光花が青白い光を帯びた。

 途端にヒイヨドリが興奮したように「ピィッ」と飛び上がり、


「ピピッ! ピッ!」


「お、交渉成立か?」


「ピィッ!」


 差し出された夜光花に頬を擦り寄せたヒイヨドリが、片方の羽を広げ巣を示す。

 その姿はまさに、「どれでも好きなのを持っていけ」と言っているよう。


「じゃあ、遠慮なく」


 ひょいひょいと私の小袋と小さな何かを摘まみ上げ、ダンが降りてきた。


「作戦成功だな」


 ほら、と手渡された小袋。

 私は「ありがとうございます!」と受け取り、感動の再開に抱きしめた。


(おかえり私のクッキーちゃん!)


 そんな私の姿がおかしかったのか、小さく噴き出す気配。


「その中、そんなに珍しいおかしなのか?」


「あ、えと。中身はクッキーなんですけれど、ちょうど今開発中の試作品でして……。あ、よろしければダン様もおひとついかがですか?」


「俺か? あー……と。いや、気にはなるんだが、今回は遠慮――」


 その時だった。

「ピィー!」とご機嫌な声がして、ヒイヨドリが飛んできた。

 口元には先ほど渡した夜光花が。


「え!? なんで――っ」

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