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この国の未来を担うのは

 胸元をおさえつつのぎこちない礼にも、ヴィセルフは妙に満足そうな笑みを浮かべ、


「無くすなよ」


 その一言だけを言い置いて、足取り軽く歩きだした。

 慌てて後を追う。

 胸元で揺れるたびに形を変える、"魔岩石"の灯り。


(綺麗……なんだけど)


 気づいた。気付いてしまった。

 もしかしてもしかしなくても、ヴィセルフってエラにプレゼントってしたことないよね……?


(あああああああたまたまの流れとはいえ……! ヒロインより先に物貰っちゃうなんて……!)


「うう、ごめんなさいエラさま……!」


 いやでも確実に、これから二人が街デートに繰り出すなら、きっとちゃんとした贈り物イベントがあるはず……!

 刹那、ピタリとヴィセルフが歩を止めた。


「……ティナ。お前」


 妙に真剣な眼差しで、ヴィセルフが振り返る。


「アイツを好いてるのか?」


「へ? え、と……?」


「今日だって本当は、アイツからの贈り物をつけるつもりだったんだろ」


 あ、アイツってエラのことか。

 尋ねるヴィセルフの声には、なんだか硬さがあるような。


(自分はエラからプレゼント貰えてないから、焼いているのかな……?)


 あー……なるほどなるほど。それでこの間は急に、庭園に散歩なんて言い出したのか。

 あれは勢い余ってのお誘いじゃなくって、拗ねてたってこと。


(もしかして、クレアが止めてくれたのって、こっちの理由だったり?)


 もし本当に私があのバレッタをつけてきちゃってたら、ヴィセルフはもっと不機嫌になっていたかもしれない。

 さっすがクレアと胸中で賞賛を送っていると、「どうなんだ」とヴィセルフに急かされてしまった。

 私は慌てて、


「ええと、エラ様のことは、もちろん好いております」


「…………そう、か」


「ですので私は、お二人の幸せなご結婚を、心待ちにしております!」


「…………は?」


「だってエラ様、あんなにお優しく理知的で……まさに誰もが憧れる才色兼備なご令嬢! そんな冷静な知性を持つエラ様と、感情豊かで行動的なヴィーとが共にこの国を愛してくださるのなら、きっとこの先の未来は明るく輝かしいものに違いありません!」


 そう!

 だから私はなにがあろうと、ヴィセルフとエラの味方なんです……!


「私はエラ様の慈悲に甘えさせていただいている身として、ヴィーに仕える侍女として。お二人が互いを知り、理解を深め合う為に必要なことならば、なんでも致す所存でございます」


 ですので本日のように、街の下見でもなんでもお申し付けください!

 気合いばっちりの宣言をした直後、なぜだか停止していたヴィセルフが、


「はあ~~~~~~」


 深いため息と共に、しゃがみ込んでしまった。


「おま、そういう……。だああ、少しだが繋がったつーか……」


「よ、よくわかりませんが大丈夫ですかヴィー!?」


「ああ、まあ大丈夫かと言われるとそうでもないが……致命傷は避けたと言うべきか……ん?」


 途端、ヴィセルフは何かに思い至ったようにして、


「待て。お前が俺とアイツの結婚を望むのは、この国の未来の為か?」


 ぎくり。

 一瞬心臓が縮んだけれど、破滅エンドのことがバレたわけじゃないし、別にやましい理由ではないはず。


「ええと、素敵なお二人が共に手を取り合って歩んでいくのだから、この国もきっと素晴らしい発展を遂げるに違いないといいますか……」


「……なるほどな。その手があったか」


「はい?」


 ヴィセルフはすっくと立ち上がると、自信に満ちた笑みで言う。


「証明してやるよ、ティナ。アイツなんかお呼びじゃねえ。この国が必要としているのは、俺サマだ」


「…………んん?」


 おかしいな??

 二人で仲良くって主張したつもりが、なんか対抗心に火がついてない?????


(なんで!? エラに気があるのなら、やっぱりお前もそう思うよな! これからも協力しろよ! って乗ってくるトコじゃないの!?)


 それともコレはアレかな?

 エラには余計な責任感を負わずにお嫁さんになってほしいから、自分が頑張る的な???


(ああー、確かに私の意見が民の目って捉えられてもおかしくないもんなあ)


 なるほど、これはいわば頑張りすぎてしまうエラを円滑に幸せに迎え入れる為の、覚悟と前準備!!!!


「承知いたしましたヴィセルフ様! 微力ながら、私も出来得る最大限のお手伝いをさせて頂きます!」


「なんかまた噛み合ってねえ気がするが……まあ、そうだな。ティナにはこれまで以上に動いてもらうことになるだろうし、その心づもりでいろ」


「はい!」


 なんだか徐々にだけど、いい方向に向かっていってる気がする!

 弾む期待と光る"魔岩石"を胸に、私はヴィセルフと並んで馬車へと急いだ。

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