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結婚を迫った理由は

 見上げた私を、ヴィセルフはじっと見つめる。

 厳しい表情。甘いって、怒られるのかな。それでも。


「お願いします、ヴィセルフ様」


「……俺じゃ駄目か」


「へ?」


「俺が、説明してやる。コイツが何を考えていたのか。だからコイツと直接話すのは……やめておけ」


(ヴィセルフ、何か知ってるんだ)


 オリバーを睨む目には侮蔑が込められていて、だというのに、私に向けるそれには懇願が混じっている。

 そんな目をされたら、察せないはずがない。


(私に関係する理由なんだ)


 それも、あまり良くない内容の。


「気遣ってくださってありがとうございます、ヴィセルフ様。けれどやはり、直接話がしたいです」


「……いいんだな」


「はい」


 ヴィセルフは小さく息をつくと、ダンを見遣って頷いた。

 応じたダンは微かな戸惑いを挟んでから、オリバーの口に巻き付いていた蔓をしゅるりと外す。


「……ほーんと、手荒いよね。俺、いちおう先輩なんだけど?」


「手荒いと分かっているのなら、言葉には気を付けるんだな。ティナをこれ以上傷つけてみろ。容赦しねえぞ」


「は、どのみち"容赦"なんてするつもりないクセに」


 嘲笑交じりに呟いたオリバーは、私を見上げてニッと笑む。


「ぜーんぶ、ティナのせいだよ」


「コイツ……っ!」


 ヴィセルフとダンが即座に反応するも、「ヴィセルフ様! ダン様!」と大声を出して遮る。


「大丈夫です」


「……っ」


 ヴィセルフの腕を掴み制止の意志を伝えると、彼は耐えるようにして唇を引き結んだ。

 ダンを見遣ると、こちらも自身を抑え込むようにして頷いてくれる。

 と、オリバーは「やっぱり、不思議でたまらないよ」と緩く首を振り、


「ただの冴えない田舎の女の子でしかなかったのに、いったいどうやって何人も籠絡したの? それに、新しいモノをあんなに思いつくなんて。どこから知識を仕入れてきたんだか。あ、もしかして、それも他国の男から横流ししてもらってたり?」


 小馬鹿にするようにしてクスクス笑むオリバーの眼前へと歩を進め、視線を合わせるため両膝を折ってしゃがむ。


「オーリー」


 私は彼の目をしっかりと見つめ、


「私に申し訳なく思っているからって、嫌われようとしなくていいですよ」


「――!」


 驚愕に見開く眼に、私はやっぱりと確信を得て、


「自分に厳しい処分が下った時に、私に罪悪感を抱かせないためにわざと嫌な態度を取っているんですよね。……それくらい、わかります。"幼馴染"ですから」


「…………」


「ちゃんと、理由を教えてはくれませんか? こんな……"らしくない"ことをしてまで、どうして私と結婚する必要があったんですか?」


 オリバーがすっと顔を伏せる。

 数秒の沈黙をはさみ、


「……だから、ティナのせいだって言ったでしょ。ティナが変わっちゃったから、こうするしかなかったんだよ」


 "ティナが変わっちゃった"の言葉に息を呑んだのは、気付かれなかっただろうか。


「ねえ、ティナ。いつからこんなに変わったの? お菓子なんて特別好きでもなかったし、他国の文化にだって、さほど興味なかったじゃん。困った時も他の人を頼るなんて考えもしなくて、なんでも一人で対処しようとして……。結婚だって、自分の気持ちよりも流れに任せるって言っていたんだから、そのまま俺と結婚してくれたらよかったのに」


「っ、それは……」


(どうしよう。実は他の世界の人間が"ティナ"になったからなんて言えないし……)


「……その説明では、"どうして私と結婚する必要があったのか"の答えになっていません」


 冷静さを装って絞り出した私に、オリバーは「本当に何も知らないんだ」と鼻を鳴らして緩く首を振り、


「今、この国で最も注目されている製品がなんだか知ってる? "mauve rose"の新製品だよ。それは他国でも一緒でさ、商機を狙っている近しい友好国はどこも、"mauve rose"と繋がりのある王家おかかえの商船、"ティアナ"号にご執心なわけ。今までキャロル商会を懇意にしてくれていた取引相手もね」


「そんな……」


「特にさ、フォーチュンテリングカップだっけ? あれ、レイナス様経由でカグラニア王国と共同開発してたでしょ? カグラニアが他国にも輸出したおかげで、ティアナ号と繋がればラッセルフォードと手を組んで、美味い商売を得られる可能性があるって知らしめちゃったんだよ。そりゃあね、もうウチみたいな商会じゃなくて、ティアナ号の船員に"イチオシ"を売り込もうってなるでしょ」


 それだけないよ、とオリバーはクスクス笑って、


「ティアナ号の船員は、信じられないくらい待遇がいいんだよ。せめてその待遇をうけているのが元貴族とかなら良かったんだけれど、ティアナ号の船員は元海賊でしょ? おまけに後から雇われた者も身分関係なく、古いとはいえ港近くの部屋をもらえて、給金だって他のどの船よりも高い。ウチの連中も、どれだけ引き抜かれたか」


 ね? わかった?

 オリバーは絶句する私を笑顔で見上げる。


「ティナのせいで、俺が……キャロル商会がどれだけ危機的な状況か。だからティナにはどうしても、俺のモノになってもらわなきゃいけなかったんだよ。ティナが"キャロル夫人"になれば、その才能はウチのものだ。"mauve rose"だって、これまで通りになんていかないだろうしね」


「…………」


(……胸が、苦しい)


 思えば一度だって、考えたことはなかった。

 私が"私らしく"行動した影響で、苦しむ人がいるなんて。

★電子書籍にてコミカライズ連載中!★

(DPNブックス/漫画:田丸こーじ先生、構成:風華弓弦先生)

ぜひぜひよろしくお願いします!


ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます!

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