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話しかけたいのに上手くいきません

「ティナ、本当にこれで良かったんだよな?」


 配られた地図を頼りに森の中を進んでいく、ランタンを手にしたダンにクレア、そして私。

 ダンはそっと私の側に寄ると、腰をかがめて伺うようにして尋ねてきた。


 視線から察するに、クレアのことだろう。

 私も同じく声を潜め、


「はい、ありがとうございます。助かりました」


『ダン様、お願いがあります。今度先生から発表される特別課外授業で、一緒のチームになっていただけませんか?』


 突然のお誘いに、ダンは驚いたように瞠目したけれど、すぐにふわりと目元を緩め、


『ティナに誘ってもらえるなんて、俺は幸運だな。もちろん、よろしく頼むよ。先生から話が出たら、俺から申し込もうと思ってたんだが……誰かに聞いたのか?』


『え、えと、他の生徒が話しているのを偶然聞いてしまって……」


(前世の知識で知っていたんです! なんて言えないもん……!)


『それでその、夜の森を行くって言うので、私の"秘密"を知るダン様にお願いしたいなあと思いまして……!』


 以前、ダンには私が"お化け嫌い"だと明かしている。

 これなら妥当な理由になるだろうと説明する私に、ダンは『ああ、なるほどな』と頬を掻いて、


『てっきり"秘密"とか関係なく、俺を選んでくれたのかと。ま、なんにせよ一番に頼ってくれたのは嬉しいな』


 ダンは私の眼前まで歩を進めると、すっと右手を差し出した。

 握手の形。私も手を差し出すと、優しく握られる。


『任せておけ、ティナの"秘密"を知るたった一人として、ちゃんとティナを守るから。もちろん、課題のクリアもな』


『ありがとうございます、ダン様。お力をお借りします。それとその、もう一つお願いがあるのですが――』


 この時にダンに頼んだ、もう一つの"お願い"。

 それがこの、「もう一人のメンバーをクラウディア嬢にしてほしい」というもの。


 食堂の件しかり、投票時の件しかり。

 その他もろもろと細かい情報も把握しているダンはとても心配してくれたけれど、私がどうしてもと頼み込むと、頷いてくれた。


 私の誘いには無視を決め込むだろうけれど、ヴィセルフの護衛騎士であるダンの誘いならば乗ってくるはず。

 そんな魂胆でダンにクレアを誘ってもらったのだけれど、案の定、あっさりとチームを組めた。


(そこまでは順調だったのに、まだクレアとの会話は全然出来ていない……)


 指定の洞窟で石に魔力を込め、持ち帰るまでが課題の時間。

 チャンスはまだある……!


(ヴィセルフ達も順調かなあ)


 今回、指定の洞窟は三か所あって、どの洞窟に向かうかはランダムで振り分けられている。

 他のチームと遭遇しないよう時間差があるのも重なって、様子はまったくわからない。


(うまいことちゃんとアピール出来ているといいんだけれど、正直レイナスの方が一枚も二枚も上手な気が……)


「あら?」


 突然響いたクレアの声にはっと顔を向ける。

 クレアはとある木の前に立ち、


「ダン様、こちらの木、目印とされているものと形がにおりませんこと? 幹の傷もよく似ておりますもの」


「お? そうだな……」


 同じく木の側に寄ったダンは、慎重に木を観察すると、


「いや、よく似ているけれど、この木は違うな。枝分かれの仕方が地図に描かれているものと違う」


「まあ、そうでしたの。さすがはヴィセルフ様の護衛騎士でいらっしゃるダン様ですわ。細やかな観察眼をお持ちですのね」


「はは、俺をおだてても便宜は図れないぞ。さ、もう少し進むか」


(うう~ん、ドライ……っ!)


 いつもは優しいダンすらもご覧の通り!

 "悪役令嬢"には爽やかながら、ドライな仕様となっております!


(って、ゲームでもそうだったはずなんだけれど、今はなんだかちょっと複雑だなあ)


 皆で仲良く、なんて幼稚な理想だって分かっている。

 けれど、大切な人達がいがみ合っているのは、やっぱり心苦しいというか……。


「ちょっと」


「!」


(クレアに話しかけられた!?)


 小声で呼ばれ嬉しさに振り返るも、クレアはぎっと目尻を吊り上げ、


「ここはパーティー会場ではないのでしてよ。殿方に"エスコート"いただくだけなのでしたら、お戻りになられてはいかが?」


「! しっ、失礼しました……!」


(ひええええ~~~~迫力あるうううううう……っ!)


 きびきびと周囲を探索し始めた私に、ダンが「お? はりきっているなあ、ティナ。俺も頑張らないとだな」とにこやかに笑む。


 うう、こんな調子で会話なんて出来るのかな……。

 けれどなんとなく、この機会を逃したらもうチャンスが巡ってこないような気がして……。


「……あれ?」


 その時、先の木々の間で、金色の影が揺れたように見えた。

 気のせいだろうか。不思議に思いながらも先を進んでいくと、また、金が過ったような気がした。


 でも、どんなに目を凝らしても、再び見えることはない。

 そうこうしているうちに、ダンが目印の木を見つけた。


「ここの洞窟に間違いなさそうだな」


 小さな洞窟に三人で入るのは大変だからと、中に入って石を持ってくるのはダンが担当してくれることになった。

 私とクレアは周囲を警戒しながら待機。

 なんせここは森の中。どんな獣がいても、おかしくはないから。

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