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王子様に連れ出されました

 ピタリと歩を止めたヴィセルフが、一切の迷いなく「そうだ」と顔だけで振り返る。


「……ヴィセルフ様じゃなくって、ティナに聞いてるんだけど」


(ほ、ほんっとオリバーってヴィセルフ相手にも怯まないよねえーーーー!?)


「え、ええと」


 チラリと視線で見遣ったヴィセルフは、黙ったまま堂々たる視線で私を見つめる。

 まるで「ホラ、言ってやれ」とでも言いたげな顔に、あれ? 約束したの忘れてたっけ? なんて心地になってくるけれど……。


(ううん、ヴィセルフと約束なんてしてなかったはず)


 だってヴィセルフとの約束を忘れるなんて度胸、私には無い。

 この後の予定は間違いなく、料理長に呼ばれて"mauve rose"に行かないとで……。


(あ、もしかしてヴィセルフもお店に行くってこと?)


 料理長の要件は、次の期間限定商品の話し合い。

 経営者たる立場であるヴィセルフが同席を頼まれていてもおかしくはないし、桜のロールケーキの販売を秘密裏に進めていた時も、何度か一緒に学園からお店まで向かっている。

 その時はダンも一緒だったけれど、今回はヴィセルフだけなのかも。


(だから私はついで及び護衛代わりに同行決定。"先約あり"ってことか……!)


 おっけおっけー!

 私の元侍女としての察しスキルもまだまだ現役だね!


 ピンときた私は全て理解したとアイコンタクトを送りながらヴィセルフに大きく頷き、オリバーを見遣る。


「すみません、オリバー様。ヴィセルフ様とどうしても外せない用がありまして。また、次の機会に」


 途端、オリバーはショックを受けたような顔をした。

 けれど見えたのは一瞬。オリバーが顔を伏せたから。

 彼は「そう」と呟くと、顔を上げて苦笑する。


「ティナがそう言うんなら、しょうがないよね。また今度デートしようね」


 ひらりと手を振るオリバーは、いつも通りに見える。

 私が次の言葉を発するよりも早く、


「行くぞ、ティナ」


「あ、はい」


 促すヴィセルフの身体が邪魔をして、私を見送るオリバーをそれ以上振り返ることが出来なくなる。


(さっきのあの表情って、私が呼び方を戻したからかな)


 そんなに"オリー"って呼び名が気に入っていたんだろうか。

 でも、それなら私じゃなくて、他の人――それこそ生徒会で付き合いの深いテオドールとか、ヒロインであるエラにそう呼んでほしいって頼みそうなものだけど。


 私の知っている範囲では、オリバーを"オリー"と呼ぶ人はいないし、オリバーが愛称で呼んでほしいと頼み込んでいる姿も見たことがない。


(なんで私に……"ティナ"に拘るんだろう)


 そもそもゲームでオリバーと"ティナ"の関係は、オリバーの台詞に数回登場する程度で、そこまで親しいようには思えなかった。


(三人のご令嬢みたいに、"ティナ"が入学したことでオリバーとの幼馴染設定に変化が生じたってこと……? でも、それにしたって――)


「――ナ、おい、聞こえてんのか? ティナ」


「! すみませんヴィセルフ様っ! なにか――?」


 おや? と首を傾げてしまったのは、眼前にででーんと馬車が現れたから。


「やっと気が付いたな」と嘆息するヴィセルフから推察するに、もしかしてこれに乗って行くってこと?

 必死に状況を把握していると、開いた馬車の扉横でヴィセルフが「ん」と手を差し出してきた。


(あ、やっぱり乗るんだ)


 まあ、そうだよね。

 ダンもいないし、王子様が大通りでもない街中をのんびり歩いていたら、さすがに危ないもんね。


「ありがとうございます、ヴィセルフ様」


 その手を借りて馬車に乗り込んだ私が着席するのを待ち、ひょいとヴィセルフが乗り込んでくる。

 座るのは私の対面。


 御者によって恭しく閉められた扉と、触れた座席の感覚ではたと気が付く。

 あ、これ内装は王家仕様のカモフラージュ馬車だ。


(ヴィセルフは前から今日の同行を予定してて、すでに手配してたってこと……?)


「申し訳ありません、ヴィセルフ様。お待たせしてしまって……。料理長からは"店に来い"とだけで、ヴィセルフ様にもお声がけしているとは聞いていませんでしたので……」


 言い訳のようになってしまったけれど、事実は事実。


(もう、料理長。ヴィセルフも呼んでいたのならそう言ってほしいって伝えておかなきゃ)


 脳裏に「すまんな」と軽い調子で笑う料理長が浮かぶ。

 すると、ヴィセルフの口から衝撃的な事実が。


「俺が口止めしてた。ついでに言えば、料理長の"呼び出し"も俺の指示だ」


「……はい?」


 呆ける私に、ヴィセルフは上機嫌にニヤリと口角を上げて、


「デートに行くぞ、ティナ」


「……へ?」

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