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私にも野望があるのです!

 だから、もう一度考えてみてくれ、と。ヴィセルフが、顔を上げて私を見る。

 情けない、今にも泣きだしそうな赤い瞳。

 ゲームの彼ならば絶対にしないであろう顔に、本当に、心から私が傷つくのを恐れているのだと。


(――でも)


「……お気持ちは、よくわかりました。それでもやはり、私は生徒会入りを目指したいです」


「っ! 身を削ってまで"生徒会"の肩書が必要なのか? それとも、あの男……オリバーが、いるからか」


 ぐっと、きつく力を込められた掌。

 私は「どちらも違います」と緩く首を振り、宥めるようにして微笑む。


「言ったじゃないですか。ヴィセルフ様やエラ様、ダン様やレイナス様と一緒に、楽しい学園生活を満喫したいって。あの程度の嫌がらせ、想定内ですよ」


「俺たちと過ごすことだけが目的なら、生徒会なんて――」


「駄目です。ヴィセルフ様には生徒会に属していただかなければ。そして生徒会長になられた暁には、私みたいな"ハズレ者"でもぽやーっと過ごせる学園にしていただきたいのです!」


 途端、ヴィセルフは頬を引きつらせて、


「まさかとは思うが、妙に生徒会に拘る理由がそれか?」


「ふふ、しっかり"友人"の立場を利用しようとする程度には図太いですよ、私」


「……そうだったな」


 嘆息交じりに苦笑するヴィセルフににこりと笑んで、私は「大丈夫です」とヴィセルフに掴まれた手を持ちあげる。


「無理はしません。逃げたくなったら、逃げます。それに、ヴィセルフ様もおっしゃっていたじゃないですか。貴族らしい振る舞いを身に着けるべきだって。……社交界に比べれば、学園での嫌がらせなんてかわいいものでしょうから。卒業して、いきなり上級ないびりを受けるよりも、今のうちから対処法を学んでおきたいって気持ちもありますし」


「そんなことまで考えてたのか……」


「これでも貴族の娘ですから。意識するようになったのは、ヴィセルフ様たちに良くしていただいてからですけれど」


 私は「ともかくですね」と繋げ、


「今ならばヴィセルフ様がいますし、皆様も助けてくださいます。学園に入学させてもらえたことで、卒業後のことを考える時間も出来ました。今のうちに、めいっぱい思うままにやりたいんです。ですのでヴィセルフ様、"親しい友人"として、これからもお力を貸してください!」


 ヴィセルフは面食らったようにして丸めた目を、ぱちぱちと瞬いて。

 それからふと、瞳を緩める。


「わかった。俺も腹をくくる。せいぜい俺サマをいいように利用しろ」


「そのお言葉、忘れないでくださいね」


 指切りさながら繋がれた手を上下に振ると、ヴィセルフが「忘れるワケねーだろ」と肩をすくめる。


(よかった、機嫌なおったみたい)


 漂う雰囲気には、入室した時のようなとげとげしさはない。

 あるのはよく知った、少し懐かしくもある、穏やかな心地よさ。


(いくらエラを守る防波堤とはいえ、私が怪我なんてしたら心優しいエラが気にしちゃうもんね)


 全てはエラのため。

 私を生徒会に入れるが有効か、否か。きっと、すっごく悩んでくれたのだろう。


 気分は今すぐエラに、ヴィセルフは!!!! こんなにも気遣いが出来るようになりました!!!! って、祝パネルでも持って全力アピールをしたいところだけれど。


「ヴィセルフ様。ひとつ、お願い事があるのですが」


「なんだ?」


「先ほどのク……いえ、私にぶつかってしまったご令嬢ですが、けして罰したりなどしないでください」


 途端、ヴィセルフは嫌そうに顔をしかめて、


「やられっぱなしで黙っていろっていうのか」


「黙っているもなにも、あの方が故意に私にぶつかったという証拠はありません」


「状況を見れば一目瞭然だろーが!」


「なりません。主観だけでは、誤った判断を導いてしまう可能性があります。エラ様からいただいたデザートを食べ損ねた恨みはありますが、怪我もありませんでしたし、下手に騒ぎ立てて計画に支障が出ても困ります。このまま沈静化を図りましょう」


「…………」


 黙ってしまったヴィセルフの表情からは、不満がありありと見て取れる。

 けれどこれは、承諾の沈黙だ。不本意ながらも受け入れてくれたのだろう。

 ヴィセルフに近しい位置でお世話をしていた経験は、こういう時に役に立つ。


(これで、クレアはひとまず安心と)


 学園生活は始まったばかり。

 もしかしたら、また王城で働いていた頃のように話せる時がくるかもしれない。


 その時に、聞いてみよう。

 入学までの間に、なにがあったのか。

 私にぶつかったのは、事故だったのか、わざとだったのか。


「ヴィセルフ様」


 私は決意に、ヴィセルフの両手を互いの顔の位置まで上げた。


「この勝負、ぜったいに勝ちましょうね!」


 このままテオドールの計画通り、エラを奪われるわけにはいかない。

 気合十分で見上げた私に、ヴィセルフはニヤリと口角を吊り上げた。

 今だ握られたままの掌に力が込められる。


「当然だ。ティナには俺がいるんだって、存分にわからせてやらないとな」

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