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カフェモカココア  作者: 桐葉
15/15

第15話

「おーい、ちがれん。帰りにポテト食い行こうぜ。」

「おう、いいよ。」


灼熱のグラウンドは立っているだけで体力が奪われていく。

滝汗で服が張り付いて気持ち悪いけど、もうあと少しで終わると思えば少し気が楽だった。


夏休み真っただ中。


一瞬で過ぎていく夏に、俺、千賀(ちが)漣太郎(れんたろう)は焦っていた。

夏が終わることか、受験が近づくことか。

否。


「ちがれん。」

「どうしたんだよ紡木(つむぎ)。学校に来てるなんて珍しい。」

「いやあちがれんに会いたくなっちゃって。」


いやみな笑顔を向けられる。

紡木(こいつ)がこの顔をする時は決まって面倒なことを持ってくる。

きっとテコでも動かないであろう様子に、俺は諦めて首を縦に振る。


「後でな。」







部活を終えて、約束していたポテトと別れを告げる。

たぶん紡木といるよりポテトを食っていた方が幾分マシだっただろうな。


Bクラスの教室までやってきた紡木は椅子に座りながらも何やらそわそわとしていた。


「で。簡潔に何?」

「そんな冷たくしないでよ。僕と千賀の仲でしょ?」

「……そういうのは(たちばな)にしてやれよ。」

「おーおー、萌果(もか)チャンに話しかけるだけで赤くなる奴がなんか言ってんよ。」


俺の心情を知ってからというもの。

ことあるごとにこいつはからかってくる。


「紡木、こういうの他の人にはやるなよ。」

「まあ心外! 千賀だから言ってるに決まってんじゃん?」

「ああそう。」


何を言っても無駄だった。

俺は何度繰り返せば覚えるんだろうな。


「それはそうと! 夏休みの予定を立てたくてわざわざ学校まで来たんだよね。」

「わざわざ来なくてもいいのに。」

「わざわざ来るから意味があるんです。」


からかいたいだけだろう。

と文句を言いいたくなるが言ったところで焼け石に水どころか火に油を注ぐだけなのでなんとか飲み込んだ。


すると紡木がスマホを差し出して、写真をアップにする。


「せっかくの夏休みだし、夏祭りとかどうよ! 女子の浴衣見たくない?」


きらきらとした目で紡木が見つめてくる。

顔は綺麗な方なのに、下心を隠さないところ、相変わらず勿体ないな。


「行ってもいいけど、浴衣より屋台の方が良くね。」

「はあ~~?? 千賀、お前萌果ちゃんの浴衣姿見たくないの?」

「そりゃあ、まあ、見れたら嬉しいけど……。」


つい恥ずかしくなってどんどん小声になったのをにまにまと笑ってくる。

ああ、俺は紡木が見たい顔を見せてしまったみたいだ。


「とにかく!!! 俺をお前の欲に巻き込むな!!!!!」


机を叩いてまではっきりと叫ぶ。

よくやった俺。

紡木に弄ばれっぱなしも癪だからな。



「じゃあそういうことでー。あゆなんの浴衣も楽しみにしてるから。じゃね。」


ピッ。

と、紡木は通話を切っていた。

これは、いくらなんでも。


「お前手回すの早すぎんだよ!! 馬鹿!!」

「あっ、僕より成績悪いちがれんに馬鹿って言われたくないな。この脳筋むっつりすけべさんめ。」

「だーれが脳筋むっつりすけべだこら!!!!」


こうしてまた俺はいつもと変わらず、紡木にからかわれるんだ。

我ながらなんて単純なんだ。

そこそこ言い合ってから、諦めて座り直す。


「はあ、もういいや。で、お前そんだけじゃないんだろ。」

「流石ちがれん。」







夏祭り当日、俺は紡木の家に来ていた。

なんでも俺らも浴衣を着て行こうとのことらしいが、あまり気乗りしていなかった。

好き好んで動きにくい服を着ることにどうしたらいいって言うんだ。


「ちがれんいいよー。」


呼ばれて紡木の部屋へ向かう。

そこには紡木の姉も部屋にいた。


「千賀君こんにちは。」

「こんにちは……。なんでお姉さんが?」

「うふふ。」


ああ、紡木でも見たな。

この笑顔。


俺はあれよあれよという間に浴衣を着せられ、ばっちりメイクまで施された。


「ちょっとこれは、やりすぎなんじゃないですかね……。」


鏡に映っているのは、紺にえんじの帯の浴衣を着せられ、髪もオールバックに立ち上げられている自分だった。

あまり見慣れない自分の姿に、背筋がむずがゆく感じる。

紡木が着るならともかく俺には似合わないように見えるが、これで外を歩くのか。


「似合う似合うよ!! かっこいいじゃん千賀君!!」

「さっすが姉貴。腕がいいじゃん。」

「でしょう!!」


この姉弟には何を言ってもダメな気がした。

紡木もいつの間にかばっちりとめかしこんでいて、満足そうな顔をしている。

気恥ずかしい気もするが、この格好のまま出掛けるしかないのだろう。


ちらりと時計を見ると、もういい時間になっている。


「なあ紡木。そろそろ出なくていいのか。」

「あーそうだね。ちょっと待って……。」


ごそごそと机を漁ったかと思うと、すぐこちらに来て肩を取られる。


「じゃ、行こっか。」







「えーっと、紡木サン。ここは一体……?」


そこそこ歩かされたと思ったが、見知ったカフェに着いた。

ここは……。


「萌果ちゃんのお家だね。」

「なんででしょうね。」


答えもせず、紡木はインターホンを鳴らした。

理解が追いつかなかった俺は慌てて紡木の袖を引っ張る。


「ちょっと待てよ! 何しに来たんだよマジで!」

「いやだから、夏祭り誘うんでしょ。せっかくだし直接誘った方がいじゃん。」

「いや、まじ意味分かんねぇって……。」


ごちゃごちゃやっているうちに扉が開く。


「……あー、いたずらですか? いや連絡なく女子の家来るとかただの恐怖だろ!! あ、何? これが肝試し的な? マジでお前趣味悪いからやめろ。」


「一人で盛り上がってるとこ悪いけど、フツーにあゆなんに電話してたでしょ~。安心しろこのむっつりスケベ野郎。」

「んな短時間でそこまで話せるかよ。」

「つーかーの仲ってヤツ♡」

「……はあ。」


気付けば目の前には浴衣姿の女子達がいた。

もちろん、百名(ももな)も。


「はっ?!」

「ど、どうしたの千賀君。」


どうやら俺らが取っ組み合っている様子が不思議で仕方ないらしい。

きょとんとしているようで、会話が聞かれていないのは不幸中の幸いかもな。


「あ、いや、俺なんも聞いてなくてさ。さっき紡木に聞いたとこ。」

「あーーなるほどねえ? つむつむとの電話の後ろで聞こえてた叫び声はちがれんかあ。あははっ。」

「んだよ、うるせえな。」

「またまたあ。ね? 私たち可愛いでしょ?! 褒めて褒めて!!」

「はいはい。」

「やだ! ちがれん照れてんじゃん!!!」


騒々しい橘は紡木に任せた。

どうせあいつも好き出しな、ああいうの。


「というか待たせたよな、ごめん。」

「あっ、それは……ううん全然待ってないよ。」

「ええ。あたし達みんなで恋バナしてたものね。」

「あっ、わっ、七海(ななみ)ちゃん!! それは内緒!!」


だらだら駄弁っていると、玄関の向こうからカフェのマスターが出てきた。


「まあまあ、萌果ちゃんも。こんなとこじゃ花火が見れないよ? 危なくなる前に行ってらっしゃい。」


まさに鶴の一声だった。

確かに、と話しながら裾を整える。


「はい、じゃあ。」

「「「いってきまーす!!」」」







「ねえねえ萌果ちゃん。さっきのお家の人ってお父さんじゃないんだよね。」

「そうだよ、奈津希叔父さん。よく覚えてたね。」


百名はそうやって紡木に驚いてみせる。

二人ともああいうとこ、正直ずるいよな。


「萌果ちゃんに似てたね、優しそうな雰囲気とか。」

「悠星君って叔父さんに会うの初めてなんだっけ。」

「そー。みんな僕のこと仲間外れにするんだよ、ひどいよね。」


首をかしげて露骨なアピールをする紡木。

そういう病気だから仕方ないかもしれないが、百名が少し困ってるようなのは見てられなかった。


俺は勢いよく紡木の肩にのしかかった。


「今だって俺が仲間はずれなんですけどーー。もーーそろそろ着くんですけどーー。」

「うわ。ごめんっておっもお前。重い重い折れる折れる。」


ひ弱な誰かさんが喚きだすが無視だ無視。


段々と慣れない浴衣が窮屈になってきた時、祭らしき明かりが見えた。


「へえ、ここ神社だったんだ。知らなかった。」

「ん? 百名の家の近所だろ?」

「でもこっち側ってあんまり来た事なくて……。」


まあ、確かになんにもないからな、が出掛けたところで飲み込んだ。

俺の家からも近所だしな。

気付くと、百名は少しそわそわし始めていた。


「百名、歩いたし疲れた?」

「平気だよ。ありがとう千賀君。」


すると軽く頬に手を当てる百名。

口角を少しあげて、楽しそうに話す。


「ちょっと挙動不審だったよね。あの、私あんまり大人数でお祭り来た事なくてすっごく嬉しくって。」

「そうだったんだ。向こうじゃお祭りとか少なかった感じ?」

「うーん、というか仲良しの子と二人で出かけてたから、なんか賑やかなのっていいなあって感慨深くなっちゃった。」

「それはそれで楽しいよな! でも今日は俺らといるからやりたいことなんでも言えよ。」

「ありがとう、なら遠慮なく甘えちゃおうかな。」

「どんとこい。」


ふふっ、と花のように笑う姿にきゅんとした。

言ったそばからその威力に吹き飛ばされそうになっている。

ああ俺。

百名の優しさが、素直さが、どこまでも愛らしく想うんだ。

本当に。


「さっきさ、なんかこっぱずかしくて言えなかったけど、みんなめちゃくちゃ浴衣似合ってるよ。」

「え、本当に?! ふふふっ、千賀君に言ってもらえるのとっても嬉しい。」


何度でも心臓を撃ち抜かれそうだなんて、柄にもない幸せに浸っていると、必ず邪魔してくる奴がいる。


「なになに、ちがれん褒めた? ねねね、つむつむ。ちがれんが萌果っちのこと褒めてるよ!」

「萌果ちゃんは超可愛いからね。分かるわあ。」

「珍しいわね。この後雨でも降るんじゃないかしら。」

「そうかも!」

「じゃあ今日この後何かあったらぜーんぶ千賀のせいにしよう。それがいい。」

「お前ら縁起でもないこと言うなよ!」


ぎゃいぎゃいしながら露天の並ぶ道を歩く。

一軒おきに立ち寄ろうとする紡木と橘を止めては舞原(まいはら)にたしめられて、だらだらと歩く。

なんだかんだこういう時間が一番夏休みって気分になる。


ひとまず俺も何か食べたい。


座って食べられそうなものを探しに向かう。

橘は既に両手いっぱいになっているため、俺と舞原で探しながら歩くことにした。


「萌果は食べたいものはある?」

「私たこ焼き食べたい!」

「いいなたこ焼き。お祭りのたこ焼きめちゃくちゃうまいよな!!」


その道中で、紡木がある方向を指を指した。


「あれ、姫愛先輩だよね。」







「あ待って(はな)。」

「ああもう、次は何?」


半ば呆れて返事をする。

またから揚げ食べたいのか、変なお面でも見つけたのかと視線の先を流し見る。


「ねねね、あれやっぱ萌果りんだよね?? いいなあ浴衣、姫愛(ひめ)も着れば良かったな。」

「お前持ってねえだろ。」

「今ってなんでもレンタルとかできるの知らないの??」


怒らせたのか、腕を引っ張られ少し体勢が崩れた。


「おい、危な――」


空気を読んで取り敢えず廣瀬(ひろせ)の好きなようにさせる。

目の端が赤くなった姿は何度見たことか、自分のせいでもあるから余計に言葉が出てこなかった。


少し進んでから、廣瀬は腕を掴む手に少しだけ力を入れた。


「華はもかりんのこと気になんないの?! えっ、やだ可愛い!! みたいになるんじゃないの?!?!」

「は?」

「うっそ信じらんない!! 華ってそんな鈍い奴だっけ、もっと聡くて賢くてかっこ……ああそうじゃなくてっ!」

「いやどうしたんだよ急に。」


頬をふくっと膨らませてこちらを睨む。

こういう時は的外れなことを言った時だ。


「マジ分かってないわ。華ってばそんなんじゃモテないよ。」

「『そうだね』としか言えないだろ。」

「言ってない。」


そうだっけと一瞬で聞き流し、さっきまで萌果ちゃん達がいた方を見やるがもう姿は見えなくなっていた。

廣瀬が会いたいのなら探すべきか迷ったものの、それどころじゃないオーラを感じるため一旦忘れることにした。


「なら会いに行くか。」


そうじゃないとぶつぶつ呟く廣瀬。

一体俺をどうしたいというのだろうか。

萌果ちゃんを追ったところで、どうなるわけでもない。


「まあいいよ、華だもんね。うんうん。」


何かが解決したらしい。


「華さ、さっきもかりんと一緒に男の子いたの気づいてる?」

「……。」

「なるほどねえ。」


廣瀬の目は部族並みらしい。

そこそこ距離があったはずなのによく見つけられたな。


「華って本当にもかりんのこと好きなの?」

「は??」


俺のことからかって楽しんでいるらしい。

諦めて冷たい飲み物でも探しに行くかと歩きだすと、廣瀬が追い越してくる。


「待って待って、あっちだよ。」


また腕を引っ張られる。

気持ち力が強くなっていて、つねられているようでちょっと痛い。

呆れ半分で着いていくと、萌果ちゃん達の元に着いていた。







「姫愛せんぱーーい!!」

「亜由奈じゃん!!」


橘が手を振ると、廣瀬先輩も手を振り返している。


「やだみんな浴衣ちょー可愛いじゃん!」

「やったあ! もー聞いてくださいよ。ちがれんもつむつむも全然褒めてくれなくって!」

「ええマジで?! ちがれーん。」

「なんで俺なんですか?!」


耳だけ貸していた会話に突然引きずり込まれた。

廣瀬先輩は橘とどこか似ているらしく、学園祭の一件以来めちゃくちゃ仲良くなっている。

さらに騒がしくなったなとふと紡木を見ると、にこにこ微笑ましそうにしている。


もうだめだ。

ふと百名を探すと、俺の少し後ろに隠れるようにしていた。


「どうした?」

「え? ううん。なんでもないよ。」


そうは言うものの、さっきのような笑顔ではない。

廣瀬先輩と何かあったのかとも考えたが、答えの方が歩いてきた。


「やあ()()()()。」

「……うす。」


大人だからって余裕な顔しやがって、とちょっとだけイラついたがすぐ冷静さを取り戻す。

珠綺(たまき)さんに当たったところで何も解決はしないし。


「奇遇ですね?」

「そうだね、奇遇。」


しらっとした表情で返される。

俺はちょっとだけ、この人は百名のストーカーなんじゃないかなと考えている。

そんなことをしていると、さっきの舞原の言葉がよぎることになった。


「あ、ちがれんちがれん。分かるよーそれ。やっぱ華ってちょっとストーカー気質だよね。」

「え、ああ、なんで……。」


突如として槍が降ってきて。


「確かにー! この間のプールとかでも姫愛先輩に会いましたよね!!」

「顔良くてもストーカーとか怖くない?? やばいよね。マジ。」

「えーーでも私ちょっとイケそうかも!! 姫愛先輩は無理?」

「あーー華よりイケメンなら、行けなくも……いや無理かもーー!!」

「え、ちょっとちょっと、じゃあ姫愛先輩ってどんな人タイプなんですかー?」

「待って、亜由奈になら教えていいかも。あ、なんで華聞いてるのよ、あーそう、あっち行ってきて。」


去っていった。


「なんなんだ。」


呆れを通り越して感情が追い付かなくなっていると、隣からころころ笑う声がする。


「ふ、ふふっ、姫愛さんと亜由奈ちゃん仲良しだねぇ。」

「あれって仲良しで片づけていいのかあ?」

「いいんだよきっと、ふふふっ。」


隅っこでただにこにこしているだけの舞原と紡木に向こうを任せることにした。

俺ら何しに来たんだっけな。


「でもそろそろ花火始まっちゃうよね。早めに行かないと座れないかもだよ?」

「それもそうだな。百名は他に欲しいもの無いか?」

「うん。いっぱい買っちゃったくらい!」


ああ、この平和さに癒される。

刺さる視線を除けば。


恐る恐る目を向けると、にこやかでも心が笑っていないのが俺にでも分かるくらいだった。

この人百名のこと好きすぎない?

本当に危ないようだったら無理にでも離した方が良さそうじゃないか。


でも百名はこの視線が分からないだろうから、魔の手が迫る前に穏便にすますことにしよう。


「あーー、珠綺さん達も一緒に来ます?」

「本当? じゃあせっかくだし。」


いけしゃあしゃあと。







露店が立ち並ぶエリアの隣、お祭りのため解放されている駐車場に来た。

特別にシートが敷かれるので座ってごはんを食べられるエリアになっている。


真ん中より気持ち前側で視界の下側が木々に覆われるも空が良く見える場所に陣取った。

囲むようにみんなで座り、各々買ってきたものや持ってきたものを広げはじめる。

みるみるうちに言葉通りの店になっていた。


「こうして見ると結構買いこんだわね。」

「このバナナ飴とか絶対あゆなんが買ったでしょ。」

「紡木だってサバの塩焼きとか買ってるのに文句言わないの。全くどこでこんなの見つけるのかしら。」

「いつも美味しいものありがとね、七海っち!!」


相変わらず舞原に任せて好きなものを買っているらしい。

まあ、なんたってど真ん中に鎮座するのはサメ釣りのサメだからな。

これ多分もらってきちゃダメなやつだろ。

嬉しそうに撫でてるけど。


「どうしたんすか、このサメ。」

「おっちゃんがくれたよ? このサメ欲しいって言ったら。」


廣瀬先輩は怖いもの知らずなんだろうな。


「さあ美味しいうちに食べるわよ。」


舞原から箸を受け取る。

確かに美味しいうちに食べるべきだよな。


「っし、それじゃ!」


「「いただきまーす!!」」


勢いよくバクバク食べ始める紡木に取られまいと手を伸ばす。

俺と紡木は好きなものが被っているため、互いに自分の分を取るのに必死だった。


「あ、おい!」

「やあだね。ちがれんの負けぇ。」


そうやって最後のから揚げを放り込む紡木。

こいつ、俺が買ってきたのに……!!


悔しさから紡木の好きなポテトフライを多めに掴んで手前に持ってくる。


「ずるい!!」

「さっき食べたしいいだろ。」

「せめて僕と半分こしようよ。」

「一人で食べた奴にもらう権利は無い。」


向かい合う紡木とぎゃいぎゃい取り合う。


「あんた達いつまでそんな子どもっぽいことしているのよ。」

「そんなこと言う七海ちゃんのお~、カステラもーらいっ!」

「あっ、ばか、紡木!!」


珠綺さんと百名を挟んで。







「楽しそうだね。」

「はいっ。」


楽しそうにりんご飴をかじる萌果ちゃんはリスみたいだった。

のどが渇きそうだなと思って、広げた中からお茶を取り萌果ちゃんに渡す。


「どうぞ。」

「あ、ありがとうございます。」


その時、少しだけ指先に触れた。

萌果ちゃんにとってはなんでもないだろうけど、今の俺にとってはそれだけでも苦しい。

俺のことを怖いと言った子が、こんなにも慣れてくれていること。

彼女はきっと何も考えていないかもしれない。

ただ先輩として慕ってくれているとしても、一生懸命ついてきてくれる姿が可愛くないわけがない。

この場に誰もいないのなら前みたいに萌果ちゃんに甘えたい。

たったそれだけのことで、こんなにも想いが巡り廻る。


確かに、俺はストーカー気質のロリコンなのかもな。


「珠綺さん……?」

「ん? なあに?」

「えっ、いや、なんだかぼーっとしていたので。」

「ああ。……萌果ちゃんがリスみたいだなーって思ってさ。」


そうやってわかんないってきょとんとした顔をする。

それが見たくて、ついからかいたくなっちゃうよね。

考えが止まらなくなりそうになった時、開始のアナウンスが流れた。


「ほら。そろそろ始まるよ。」


俺はちょっとだけずるをして、ほんの少し体を萌果ちゃんに寄せた。


すると程なくして、どでかい花火が打ちあがる。

どおんっと響く音を鳴らして咲くと、周りからも歓声が沸き上がる。

気付けば久しぶりに見た花火だった。


しばらく魅入っていると、肩を叩かれた。

萌果ちゃんが話したそうにしていたので、耳打ちしやすいように顔を傾ける。


「どうしたの?」

「綺麗ですね、花火。私すごく久しぶりに見ました。」

「俺も。綺麗だね。」

「はいっ! ふふっ、楽しいですね。」


幸せそうな顔を見て、ついつられて微笑む。

なんとなく、さっきの千賀を見てどこか焦った気持ちが前に出て、良くないとわかっていながら彼女の耳元に近づく。


「幸せそうだね?」


萌果ちゃんは、びっくりしたように少しだけ体を引いた。

やりすぎたかと思い、俺も顔をひいたものの、萌果ちゃんはすぐにいつもの笑顔に戻ってしまう。


「私、今世界で一番楽しんでますから!!」


どうやら、誰よりも俺をかき乱す女の子は俺に振り回させてくれないらしい。

手強いもんだと心の中で白旗をあげる。

そのとたんに、軽く服を引っ張られた。


「あと、珠綺さんは誰にでもこんな近い距離で話すんですか?」

「そう? 普通じゃない?」


とぼけて見せると、ふるふると首を振られた。


「ダメですよ。」


つんと唇を尖らせる姿が、ますます小動物に見えてたまらなくなる。

笑い出しそうになるのを必死で抑える。

だからこそわざと近づいて、驚かせたくなる。


「萌果ちゃんにだけ。分かってて言ってるでしょ、ずるい子。」

「わ、分かってなんか……!!」


突然わあああっと盛り上がる会場。

気付けば花火がクライマックスになっている。

みんな夢中になって花火を見上げる。


少しだけ、高校生が羨ましかった。

もっと近い年齢だったなら、この小指一本分の距離なんてあっという間なんだけど。







花火が終わると、ぞろぞろと周りも片づけを始める。


「舞原。俺がゴミ集めるから、残ってるもの持ち帰る準備しな。」

「ありがとう。それじゃあ千賀にこの袋任せてもいい?」

「もちろん。」


俺は舞原からゴミ袋を受け取り、食べ終わった空き容器を回収する。

舞原は相変わらずのテキパキさであっという間に片付け終わってしまうけれど。


「よっし、綺麗だな。ぼちぼち帰るかあ。」

「はあ~~こういう帰り道ってめっちゃ遠く感じるよね。」

「あははっ、じゃあ僕があゆなんのことおぶってあげよっか。」

「いい、いい。そんな力ないじゃん。」


紡木にとっては痛いところを突かれ、ちょっとだけばつが悪そうな顔をしている。


「まあでも紡木はせめて送ってやれよ。」

「言われなくてもそうするよ。」


ここからじゃ一番遠い紡木と橘が先に帰っていく。

舞原は百名のところに泊まるため、廣瀬先輩と一緒に帰ると言い出す。

やめてくれ、そんなことになったら。



「二人っきりだね。」

「マジでやめてください。」


ふはっ、っと噴き出す珠綺さん。

こっちは冗談じゃないというのになんてのんきな人なのだろうか。


「はあ。仕方ないっすね、せめてこっちのゴミ袋任せていいですか?」


珠綺さんはうなずくだけ返事をして袋を受け取る。

その視線に気づくと、表情だけ柔らかく微笑む。


「花火は見れた?」

「……バレてないと思ってたら大違いっすから。」

「あはは、流石だね。」


心にも無さそうなことを。

覚悟を決めて、駅までは歩くことにする。

改めて隣にいると、相手の背の高さや雰囲気に嫉妬しそうになる。

この年齢差は絶対的なリーチになっているから。


「珠綺さん。」

「ん?」


それでも、この人は良い人には違いないから余計に悔しい。


「珠綺さんには一生勝てないと思いますけど、珠綺さんの好きなようにはさせたくないです。」

「ライバル宣言?」

「そうですよ。俺なりに精一杯なんですから。」


しれっと差し出した方と逆の、重い方のゴミ袋を取った。

座る時も、一番隣の人たちと近い端の場所に座った。

廣瀬先輩に追い払われる時に、橘が持つ両手いっぱいの袋を預かっていた。

そして、帰り際俺や珠綺さん自身が送りたいところを廣瀬先輩に着いていかせた。

慣れない草履と動きにくい浴衣なのを分かっていて、それに気づいてる廣瀬先輩に着いていかせた。

俺たちじゃ気遣いきれないから。


これは全部百名は気づかない。

百名のことを見ているから、俺には分かる。


全部負けているような気持ちにもなるけど、それでもこの必死さだけは誰にも負けない自信はある。


「そんな険しい顔してるとこ悪いけど、俺もそこそこ焦ってはいるんだよ。」

「嘘つかなくていいですよ。」

「本当のこと言ってるよ。俺は千賀みたいな若さはないし、近くもない。だから大人として接しなきゃいけないのに、自分じゃ一番苦手だからさ。」

「そうですか? 一番得意そうですけど。」

「当たり前だろ。」


珠綺さんは少し体をこちらに向けてくる。

にっと片側の口角を上げて子供っぽく笑う。


「好きな子の前じゃカッコつけたいだろ。」


流石に同意せざるを得なくて、こわばらせていた表情がつい緩んでしまう。


「それはそうっすね。」


一通りげらげらと笑ってから、軽く伸びをした。

駅が近づき、人混みがひどくなってきた。

俺はもう、うかうかしていられない。

すぐにでも珠綺さんに掻っ攫われてしまいそうだと思い悩んでいたのが、手を伸ばせば届くんじゃないかと光が差したようだ。


「俺は、もう()()には負けないよ?」

「俺だって、()()()には一切譲りませんから。」


にやにやしながら改札前で別れる。

いつか、泣くことになろうとも後悔はしたくないと強く誓う。


「あーあ。どっちも手強いな。」

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