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カフェモカココア  作者: 桐葉
14/15

本当はいじけているんだろう

学園祭からの帰り道。

流石に駅でお別れするかなと思っていたら、珠綺(たまき)さんも同じ改札でおりた。


「お家、こっちでしたっけ。」

「いいや、逆。」


姫愛(ひめ)さんと遊ぶ約束でもあるのかと聞くと、けらけらと笑われてしまった。


萌果(もか)ちゃんのことペチカまで送っていくよ。俺のわがままで遅くなっちゃったし。」

「そんなっ、珠綺さんの家地味に距離があるじゃないですか!」

「ごめんの代わり。ね?」


珠綺さんの家はペチカのある駅の北側ではなく、駅の南側にあるらしい。

自転車を引きながらとはいえ、今日は出し物の片付けもありそうなのに帰ってしまっていいのだろうか。


「不満?」

「いいのかなって思ってしまって。」

「素直に受け取れば。」

「……はい。ありがとうございます。」


大人しく電車に揺られることにした。







電車を降りると、珠綺さんはペチカまで送ると言って自転車を取りに行ってしまった。

少しだけ待つ間にスマホのメッセージを確認する。


『もかっち~! またあとで話聞かせてね!♡』


亜由奈(あゆな)ちゃんからのメッセージが来ている。

きっとまた根ほり葉ほり聞かれるんだろうなと思いながら、またあとでね、と返す。

すると丁度のタイミングで珠綺さんが戻ってきた。


「お待たせ。歩ける?」

「はい、大丈夫です。」


二人で並んで、ペチカまでの道を歩く。

歩いているとじんわりと汗がにじんできて、くさくないかなんて自分のにおいが気になってしまった。


「日が落ちてもまだ暑いな。」

「そうですね。これからもっと暑くなるのがちょっと嫌です。」

「夏嫌いなんだ。」

「あんまり好きじゃないです。涼しい部屋でアイス食べてる方が幸せです。」

「インドアだ。」

「あ、でもプールとか海は好きですよ。冷たくて。」

「へえ。」


そんな後ろ向きな夏の話題もそこそこに、いつの間にかペチカの看板が見えてきた。

前よりも珠綺さんと話す時間が居心地よくて、少しだけ寂しくなってしまったのは内緒だ。

バレないくらいにほんの少しだけ歩幅を狭くする。


「もう着いちゃうね。」

「そうですね。」

「今度さ、バイトのシフト被ってる時あったら、バイト終わりに遊ぼうよ。」

「バイト終わりですか、大丈夫ですけど。」

「本当は休み被ってたらいいんだけど、俺があんまり休み取ってないんだよな。」

「なるほど。いいですよ。」


確かに貼ってあったシフト表には珠綺さんの出勤日が真っ黒になっていた。

大学生の夏休みはきっと暇なんだろうな。


「わーい、楽しみだ。」

「そんな棒読みで言わないでください。」


それから、珠綺さんは玄関の前まで送ってくれた。

少しだけ寂しいと思ってくれたのかな、そうだったら嬉しいなと自分の理想で考える。

玄関先で、お互い連絡先はちゃんと知らなかったねと、二人でアドレスを交換した。


「じゃあ萌果ちゃんの予定合う日、また教えて。」

「はい。気を付けて。」

「ん。」


珠綺さんは自転車に乗って帰ってしまった。

色々あって楽しかった一日だった。

家に入って靴を脱ぎ、手を洗ってお店の裏口へ向かう。

かちゃりと扉の隙間から厨房を覗くと、丁度叔父さんがコーヒーを入れているところだった。

邪魔にならないようそっと開けて話しかける。


奈津希(なつき)叔父さん、ただいま。」

「おや萌果ちゃん。おかえりなさい。」


コーヒーを淹れながら挨拶が返ってくる。

香ばしい優しいコーヒーの香りがあたりを漂っている。


「学祭は楽しめたかい。」

「すっごく楽しかったです。姫愛さんすごくカッコよくて、あっ、サンドイッチありがとうって言ってました。」

「それは良かった。」


今日一日あったことを順を追って説明している間、にこにこと静かに聞いてくれた。

途中で喋りすぎているかもと思ったけれど、ここまできて引き返せない気がして、最後に珠綺さんに送ってもらったところまで話した。

話し終えたあたりで千鶴(ちづる)さんもやってきて話に加わった。


「ふふ、仲良さそうで良かったわあ。」

「あ、うわ、あぁ……そうですね……。」

「照れちゃって。可愛いわね。」


きっと千鶴さんは、最初に珠綺さんのことを怖そうだと言った事を指しているのだろう。

確かに今は怖いと感じることはない。


「思っていたより優しい人で、話しやすかったです。」

「そうね、(はな)君いい子だもの。心配して良かったわ。」

「心配されてたんですか?! ごめんなさい。」

「いいのよいいのよ。勝手に若い頃に戻った気持ちになってたの。」


青春だわ、なんて言いながら千鶴さんは戻ってしまった。

突っ立っていてしまっていた私を見た叔父さんが、晩御飯まで部屋でゆっくりしているといいよと言ってくれた。

私は部屋に戻って、亜由奈ちゃんから来ていたメッセージを確認することにした。







部屋に戻りメッセージに返していると、丁度ゆず子からもメッセージがきた。

今電話できる? とシンプルなメッセージ。

時計を見て晩御飯まであと2時間ほどあるのを確認してから、いいよとだけ返すとすぐに着信が鳴った。

半ば慌てて出ると相変わらずのハイテンションなゆず子の声がした。


『もしもし! ゆず子だよ!」

「もしもしゆず子? 久しぶりだね。」

『わ、嬉しい! 萌果だあ〜!!』


久々の親友の声はすごく安心する。

ゆず子の明るい声色につられて自然と笑みがこぼれた。


『萌果元気?』

「うん、元気だよ。ゆず子もSNSで楽しそうだね。」

『二年生やばい、超楽しい! 萌果はちゃんと夏休み遊んでる?』

「流石に毎日じゃないけどいっぱい遊んでるよ。」


ふふふと満足そうなゆず子にこちらも嬉しくなっていると、聞いて欲しいことがある、と切り出してきた。


『萌果に最初に知って欲しくてね。』

「なに?」

『あのね、あのね。』


焦るようでうまく言葉が出てこない様子のゆず子に可愛いだなんて考えていると、少し間を空けてからまた話し始めた。


『ふふっ、あのね、ゆず彼氏できたぁっ!』


すごく驚いてしまって、一瞬声が出なかった。


「ほんとっ?! え、ゆず子彼氏できたの! すごい、おめでとうっ!!」

『えへへ、えへ、ありがとう。』

「良かったね、ふふっ、お祝いしなきゃだ。」

「真っ先に萌果に伝えたかったの。伝えれて嬉しいっ。』

「私も嬉しい! おめでとうゆず子!」


久しく会えていないからか、嬉しさの半面少し寂しくも思った。

より気軽に遊べなくなっちゃうのかな、などと一度考えてしまえばなんとなく嫉妬してしまう。

そんなぐるぐるとした感情に目が回っていると、ゆず子が話題を切り替えてきた。


『ねぇねぇ、ゆず、萌果の話も聞きたい。』

「私の話…?」

『萌果だって気になる人くらいいるでしょう。』


ゆず子がウキウキしている。

どうしよう、なんで答えるべきなのか。


「あ、えと、どうかな。」

『……ふーん。』


ゆず子がニヤニヤしている。

やたら嬉しそうなのが若干腹が立つが、人の話が聞きたくなる気持ちは分かるので何にも言えなかった。


『クラスの子とかでいい人いないの? というか馴染めてる?』

「うん。友達もできたよ。」

『良かった! 萌果一人でご飯食べてんじゃないかって思ってさ。』

「ありがとう。クラスにいる七海ちゃんって子が優しくしてくれて、他には亜由奈ちゃんとか、千賀(ちが)君とか、悠星(ゆうせい)君とか、みんな遊びに誘ってくれるよ。」

『なーんか嫉妬しちゃうな。』

「なんでよ。」


寂しくしてるんじゃないかと心配してくれていたらしい。

ゆず子のそんな優しさが嬉しかった。

私と同じ感情なのがすごく嬉しかった。


「私だってゆず子が取られちゃったら寂しいよ。」

『え、なんで……ふふっ、萌果にも会いに行くから大丈夫。』

「ほんと?!」

『うん。夏休み終わる前に会いに行くね。』

「嬉しい、連絡待ってるね。」

『はーいまたね萌果。恋バナ待ってるよ。』


そんなことを言われてしまった。

でもゆず子には会いたいから楽しみだな。


私はどうなんだろうか。

千賀君に、本意はどうであれ好きって言ってもらいながら、ふらふらして不誠実な態度ばかりとっていて、ひどい人だよね。


「好きって難しいな……」


ふと思い出したのは、今日の珠綺さんの様子だった。

きっと、嫌わられているということは無いと思うけど、でも好かれるようなことをした覚えもなくて。


流されたと言ってしまえばそれまでだけど、居心地の良さを感じていた私を否定したくはない。

私は一体、珠綺さんに何を求めているんだろうか。

仲良くなりたい、お友達になれたらいいだけだと思っていたのはいつの日だったのかもう忘れていて。


頭がこんがらがってきたところでグループチャットが来ていた。


『萌果っち! プール行く?』


見た瞬間にモヤモヤが吹っ飛んでしまったのは私だけの秘密。

ゆず子も来るし、みんなと遊べるし、今年の夏休みは最高のものになりそうだ。




☕️




次の木曜日。

私は市外のプール施設へ遊びに来た。

男女別に駅で集合して、着替えてから集まることにしたが、人が多くて更衣室はごった返していた。

私は七海(ななみ)ちゃんと亜由奈ちゃんに手を引かれながら、入り組んだロッカーの合間を縫っていく。


「萌果、こっちよ。」

「わ、ありがとう。結構混んでるね。」

「夏休みだもの。」


三人で近くのロッカーを抑えてひとまず荷物を詰め込む。

人のせいか気温のせいかかなりの湿気を感じた。

手早く着替えて、プールに持ち込む荷物だけを取り出す。


「萌果っち、着替えれた?」

「着替え終わったよ。あ、タオルって持って行った方がいいよね。」

「小さめのタオルならあった方がいいと思う!」


そう言って少し固まる亜由奈ちゃん。

そうしてしばらくじっとしていたかと思えば、急に抱きつかれた。


「萌果っちの水着可愛い! 天才!」

「あはは、びっくりした。ありがとう。亜由奈ちゃんの水着も可愛い。」


というより、亜由奈ちゃんのスタイルの良さが羨ましいくらいだ。

女の子らしい可愛い雰囲気に、同性でもドキドキする。


「嬉しい! これねぇ、駅前のお店で買ったよ。」

「待ってたぶん一緒かも。Tokyo24?」

「マジ一緒じゃん! あのお店可愛いデザイン多いよね。」

「私も買う時すごい迷っちゃった。今度一緒に行こうね。」


亜由奈ちゃんときゃっきゃはしゃいでいると、七海ちゃんが来て早く行こうと呆れられてしまった。


「ふふ、七海ちゃんの水着も可愛いね。」

「ありがとう…萌果もね。」

「ふふふっ。」


なんとなく照れてるように見えて、友達の可愛い姿が見れたことが嬉しかった。



更衣室を出ると、キラキラと太陽が眩しかった。

思っていたより人が少なかったのは幸いかもしれない。


「萌果、とりあえず千賀達を探すわよ。」

「どこだっけ、テラスの辺りって言ってたけど。」


テラスといってもかなり広く、それぞれのテーブルにはパラソルがついていてかなりわかりにくかった。

結局10分ほど探してようやく合流できたのだった。


「もう会えないかと思っちゃった。今日人多くない?」

「そりゃあ夏休みだからね、さっきもクラスの人っぽいの見かけたりしたし、結構いるね。」


紡木君が遠くを見る仕草をする。

確かに見かけたことある顔とすれ違ったりしていたと思う。


「でもみんな可愛いね! やっぱ女子いると変わるわぁ、ね、ちがれん。」

「あー、うん。そうね。」

「でしょう?! もっと褒めてくれていいんですけどー。」

「はいはいあゆなんは可愛いね。」

「ちょっと!!」


褒めてもらえて嬉しかったけど、千賀君が照れていたからこっちも気恥ずかしく思ってしまった。

とりあえずと、紡木君と千賀君が取ってくれたロッカーに荷物を入れてみんなで泳ぎに行くことにした。

その間、紡木君と千賀君が後ろでこそこそ話をしているようで。


「ちょっとちがれん。可愛いって言わなきゃ。」

「うるせぇな。」

「萌果ちゃんガン見だった癖に。」

「紡木君なにしてるの、早く行こう。」


私は聞こえないフリをして二人に声をかけた。

今でも千賀君に対して複雑な感情は抱いているけど、褒められたのは素直に嬉しかったし、正直このふんわりした関係を壊したくないって思ってしまっている。

いつかは、決着をつけないといけないのかもしれない。


「どしたの萌果っち、大丈夫?」

「あっ、ごめん。大丈夫だよ。泳ぎに行こ。」


亜由奈ちゃんに顔を覗き込まれてはっとした。

心配をかけたいわけじゃないから、気を取り直して流れるプールへ向かう。

少し意外だったのが、亜由奈ちゃんはあまり泳ぐのが得意じゃなくて、七海ちゃんは一番泳ぐのが上手だった。

でもウォータースライダーで誰よりもはしゃいでいたのは亜由奈ちゃんだったから、この機会に好きになるといいなと思った。


「はーーなんか疲れたなあ。」

「分かるー!! 水に浸かってる時は何ともないんだよね、あれなんだろう。」


時計が一時を指した頃、休憩がてらお昼にすることにした。

キャッキャしていた千賀君と亜由奈ちゃんは少しくたくたなようで、私と七海ちゃん、そして紡木君の三人でご飯を買いに行くことに。

レストラン以外に、屋台が何個か出ているようだったので、手分けして買ってくることにした。

そうして私が屋台に並び始めた時。


「もかりんだ。」

姫愛(ひめ)さん?!」


振り向くと姫愛さんが手を振っていて、流石といえばいいのか、やっぱり姫愛さんは水着が良く似合っており、女の私でもちょっとドキっとした。

その隣には珠綺さんがいて二人で遊びに来ているようだった。


「もかりんも遊びに来てたんだ。姫愛もご飯食べようと思ってさ、この屋台名物になってるんだ。」

「そうなんですか。たまたま並んでいたんですけどなんかラッキーな気分です!」


屋台で串焼きを受け取り戻ろうとしたが、ふと思いついて、姫愛さんと珠綺さんを誘ってみた。


「あの、友達と来てるんですけど一緒に食べますか?」







みんなで買ったご飯を広げて好きなものを食べる。

適当だけど、すごく楽しかった。


「てゆーか、姫愛先輩水着めっちゃ似合いますね! 可愛いー!」

「でしょ。ありがと。」


亜由奈ちゃんは目を輝かせながらも、また牛串を頬張っている。

お肉が好きなんだろうか。

そうのんびり構えていたら、みんなお腹が空いているようで怒涛の勢いで食べ物が減っていく。

食べ損ねそうになり、残りが少なくなったポテトのカップを手にした。

それを見られていたらしく、姫愛さんに釘を刺されてしまう。


「もかりん。あんまグズグズしてたら姫愛が盗っちゃうよ。」

「わ、あ、なのでいっぱい食べてます!」

「…………鈍い。」


それからずっと姫愛さんはぶつぶつと呟くようになってしまった。

隣に座っている七海ちゃんに肩を叩かれ、意味深に首を振られる。

言いたいことは何となく伝わっていたけど、だからといって何かできるわけでもないから口を尖らせて少しだけ反発しておいた。


楽しい時間が過ぎるのはあっという間で、気づけばもう茜色の空になっていた。

結局ご飯の後は姫愛さんと珠綺さんも交えて遊ぶことになり、姫愛さんと亜由奈ちゃんがひたすらウォータースライダーを周回していたり、千賀君と珠綺さんで遠泳対決したり、なにかと騒がしくしていた。


「あーーーー、泳いだ後ってなんでこんなだるいんだろうなあ。」

「千賀ははしゃぎすぎなのよ。」

「そう言ってななみんだって楽しそうだったけど。」

「ひっ、廣瀬(ひろせ)先輩!」


フレンドリーな人達はもう馴染んでしまっていたことに、今日は一番驚いた。

帰りにファミレスへ行ってご飯を食べてから解散して、慌ただしくも楽しい一日だった。

夏休み、あと何回みんなと遊べるだろうか。







「ねえ華。」

「……なに。」

「今日ずっと黙ってたのキモい。」

「うるさいな。」


帰り道、廣瀬が言いたいことだけを言ってくる。

俺だって何がどうなっているかまだ戸惑っているというのに。

しばらく無言で歩き進めていると、急に廣瀬が大きな声をだした。


「あーあ、華がこんなになっちゃって。バッッッカみたい。」


そう言っては、つんとした表情は変えずに、どんどん先に歩いていってしまう。

心の中でこっそり廣瀬に謝ったつもりだったが、彼女には全部見透かされてしまっているようだった。

俺もそろそろ自分にけじめをつけなくてはいけない。


「姫愛だってぴちぴちなのにぃ。」

「おっさんくさいぞ。」

「ロリコンおじさん。」

「まだ20だ。」

「本当はいじけているんだろう。」

そう言って目を見ない私に向かってケラケラを笑ってくる。

やはりいつになっても食えない奴。

腹立たしいと同時に、どこか居心地よくも感じたことに呆れすら思う。

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