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カフェモカココア  作者: 桐葉
11/15

ここではマスターだよ。

連休も明けて、少し憂鬱さの残る授業が始まる。

クラスでは遠足の件もあってか、ほとんどの子が何かしらのグループに属しており、少し前の私なら不安でいっぱいであっただろうなと思う。


萌果(もか)っち! 来たよー!」

「僕もいるよー。」


お昼休み、いつも悠星(ゆうせい)君と亜由奈(あゆな)ちゃんが私たちのクラスまで来てくれるようになった。

そして七海(ななみ)ちゃんと千賀(ちが)君も一緒に五人でお昼を囲むのが定番化した。


「相変わらず萌果のお弁当可愛いわね……。」

「ありがとう。でも自分で作ってる七海ちゃんの方がすごいよ。」

舞原(まいはら)は料理上手だからなあ。」


千賀君は購買のパンをもぐもぐと食べている。

部活があるからか、いつも午前中にお弁当を食べ終わっている様子は男の子だなあと思う。

同じようにパンを食べている悠星君はほとんど毎日お昼しか食べないらしく、女の子のようだとも思う。

そんなことを考えていたらふと目が合い、思い出したように話し出した。


「そうだ。ねえ亜由奈、誕生日会って結局どうなってんの。自分でやるーって言ってたよね。」


ストローを咥えようとしたまま固まる亜由奈ちゃん。

がたっと音を立てて、慌てたようにわたわたとし始めた。


「わーっ、ちがれん! 部活の休みいつって言ってたっけ!!」

「俺?! 再来週の土曜が休みだよ。」

「おっけおっけ、七海っちも萌果っちも再来週の土曜空いてるかな。」

「あたしは空けてるわよ。」

「あっ、わっ、大丈夫だと思うっ。」


僕には聞かないの、と少しだけ悠星君は不貞腐れていた。

後で叔父さんにシフト入らなくて大丈夫か聞いておかなきゃ。

そうだ、先に聞いておきたい。


「亜由奈ちゃん。誰のお誕生日会をするの。」

「あれれ、言ってなかったっけ。七海っちのお誕生日会だよ。」

「知らなかった! 七海ちゃん、お誕生日おめでとう。」

「ふふ、早いわよ……。でもありがとう。」


そして、亜由奈ちゃんはうきうきしながら立ち上がり、宣言した。


「よーーっし。萌果っち! 再来週の金曜日は放課後空けといて! 買い物行くよ!」







そして今日、亜由奈ちゃんと七海ちゃんと三人で買い物に来ている。


明日のお誕生日会に向けて、持っていくお菓子を一緒に選びにきた。


「七海ちゃんも一緒に来てくれるの嬉しい。サプライズかと思ってたから。」

「普通は祝われる人はいないものよね。まあでも、定例になってるわよね。」

「そーそー。ついでに女子だけで遊びたいっていうのもあるし!」

「ふふっ、そうね。」


そう、今日は女子だけだ。

学校の休み時間とかであれば集まることもあったけど、亜由奈ちゃんは部活、七海ちゃんは塾であまり放課後に遊ぶタイミングがなかったから特に新鮮に感じる。


普段の制服をほんの少し着崩してお出掛けするのはどこかくすぐったくて。

学校近くのお菓子屋さんに来るだけではあるけど、それでもどこか特別感があった。


「着いたー! お菓子たくさん見よ!」

「駅の反対側来るだけで色んなお店あるの知らなかった。」


着いたお店はお菓子の問屋さんのようで、学生でも手が届く安さの大袋菓子が山と積まれていた。


「亜由奈いつもここにいるのよ。常連ね。」

「あははっ、ここは毎日来ても楽しいだろうね。」


そんな常連の亜由奈ちゃんはずんずん奥へ歩いていく。


キラキラと目を輝かせて嬉しそうに選んでる姿がすごく可愛い。


「七海っちー。個包装のじゃなくてもいい?」

「ええ。大皿もあるから大丈夫よ。」


そうして、七海ちゃんと亜由奈ちゃんは早速お菓子を手に取っていた。

私はカゴを取って、手前から見ていく。


コンビニよりも安いチョコがあったりして、つい自分用に手が伸びそうになる。


(誘惑が多い。みんなで食べるお菓子を買いに来たのに!)


「萌果。抹茶は平気?」

「超好き! 嫌いなものあんまりないよ。」

「えらーい!! 私は好き嫌い多いんだよね。」


亜由奈ちゃんは抹茶が得意じゃないみたいで、ほんの少ししょげていた。


「最近の抹茶って苦いの多いじゃん。あれがね、なんかこう、苦手っていうか。」

「あはは、それはちょっと分かる。私も苦いのはいっぱい食べれないかも。」


亜由奈ちゃんはチョコレートが一番好きらしく、特にホワイトチョコが好きだと教えてくれた。

実際、亜由奈ちゃんが手に取るのは一口チョコの詰め合わせだったり、チョコがけクッキーだったり甘いお菓子が中心だった。


「そういえば! 亜由奈ちゃんスタパの新作って飲んだ?」

「あれまだ飲めてないの。バニラチョココーヒーだっけ、コーヒーってついてて苦いかなーって思ってる。」

「甘くて美味しかったよ。たぶん亜由奈ちゃんが好きな味だと思う!」


謎に一生懸命プレゼンした。

七海ちゃんは逆にほろ苦い味が好きらしく、思っていたのと違ったと苦笑していたけど。


「じゃあ、これ買ったらみんなで飲みに行きましょう。」

「賛成ーー! ささっ、あとは萌果っちのお菓子だよ!」


そうと決まれば早く選ばなきゃ。

どれも美味しそうで悩んでいたけど、やっぱり一番最初に目に入って気になったものにしようかな。


私は、色んな味の入ったクッキーの詰め合わせをカゴに入れた。


お会計をして、外に出る。

お誕生日会の飾り付けや、千賀君と悠星君が買ってくるであろうお菓子の話をしながらコーヒーショップへ向かう。




☕️




「七海ちゃんはどうする?」

「んー、あたしはエスプレッソフラッペにするわ。」


私が代表で注文をして、カウンターで受け取る。

七海ちゃんと亜由奈ちゃんは先に席を取っておいてくれたので、紙ナプキンをカウンターバーから取って席に着く。


「せっかくだし写真撮ろっか。」


と、亜由奈ちゃんが手際よく写メを撮った。

そしていつもの五人のCOCOA TALKグループに写真を送る。


『あゆな:スタパなうwithもかっち』


暫くしてから。


『ゆーせー:行くわ』

『あゆな:だめ』

『あゆな:だんし禁制ですー』


そして、三人で顔を見合わせて笑ってしまった。

後で写メはトーク背景にしようかな。


「じゃあいざ! 新作の味!」


なぜか意気込んで、亜由奈ちゃんは口をつける。


「んーーーっ、美味しいっ! 甘ーい、幸せー!」

「ふふふっ。美味しかったなら良かった。」


幸せそうに頬に手を当てている。

いつも美味しそうに食べるなぁ、なんて見つめていたら不意に目が合った。


「そういえば、ちがれんとのデートどうだった?」

「ふぇっ?!」


思ってもなかった質問に変な声が出た。


「え、そんっ、デートって……。」

「あたしも聞きたいわ。男どもがいないうちにね。」

「それなあ。つむつむもちがれんも、ぎゃあぎゃあうるさいんだよねえ。」


どう、どうって……。


「楽しかったよ……?」

「「……それだけ?」」


七海ちゃんも亜由奈ちゃんも驚いていた。

千賀君とどこに行ったのか、何を話したのか根掘り葉掘り聞かれたけれど、やましいことは無かったとしか言えなかった。


「萌果って千賀に告白されてたのよね?」

「あ、う、そう……かな。好きって言ってもらったよ。」

「それで萌果っちは好きって言ってくれた子と遊んだんだよね?」

「そう、だね。うん。」

「「それで??萌果(萌果っち)はどうなの?」」

「ええっ?!」


むしろ二人ともなぜこんなに詳しいのかを先に聞きたいくらいだ。

どう、と言われても。


「好きだって言ってもらったのは嬉しかったよ。でも、まだ私仲良くなれてないかなって思って、仲良くなりたいって言った……かな。」


素直に答えると、亜由奈ちゃんは目をぱちぱちさせて、七海ちゃんは頷いていた。


「ごめん、亜由奈。萌果は正しいわ。」

「あーー、そう、かも。ごめん萌果っち。」

「いいよいいよ。」


謝られてしまった。

思っていたような答えを返していないのは私なのに。


「でも、私は嬉しかった。誰かに好きって言ってもらえたし、千賀君とも仲良くなりたいって話せて。」


一緒に遊んで、すごく気を遣ってくれているのは分かった。

遠足でも、私と七海ちゃんが遅れてないか何度も振り返ってくれたり、優しく接してくれていた。


「千賀君とは仲良くなれて嬉しいって思う。みんなとも仲良くなれて、私今幸せだなって思うよ。」

「萌果……。」


七海ちゃんは私が話す間ずっと頷いて聞いてくれた。

亜由奈ちゃんはずっと私の手を握っていてくれたけど。


「私、あんまり恋とか好きとかよく分かってないけど、いつか好きな人とか恋愛とかできたらいいなーとは思ってるよ。」

「好きな人いたことない感じ?」

「憧れはあるけど、付き合いたいとかはなったことないかも。」


そこからは三人でひたすら恋バナになった。


「なんか、高校生になったら自然に彼氏できるーとかって思ってて。」

「あははっ、分かる分かる。」

「意外とできないし、恋人いない人の方が圧倒的に多いわよね。」

「彼氏できても結局何かしらイライラするし!!!」


亜由奈ちゃんは最近彼氏できたって言っていた気がしたけど、喧嘩したのだろうなとそっと胸にしまった。

瞳の奥には怒りがチラついていた。


「七海ちゃんは好きな人いないの?」

「んー、今はそんなに。あの人カッコいいな、とかはあるけどね。」

「えー! 七海っちのタイプ知りたい! 田中とか?」

「論外。大人な人の方がいいわ。」

「あっはははっ、確かにー!」


私は途中から高校生っぽい会話だー、と謎に感動していた。

好きな人、恋、タイプ――縁遠いとは思わないけどいざってなると、あまり思い浮かばないものだな。


「萌果っちのお家ってカフェなんだっけ。バイトで同級生とかいないの。」

「どうだろ……。高校生は今はいないって聞いたな。というか学生も……。」

「学生も……いない?」


そう七海ちゃんに聞かれて、一人、一応学生がいることを思いだした。


「大学生ならいるよ。」

「いいじゃん! 年上! 男の人? かっこいい?」


きらきらした目で質問攻めにあうとたじたじになってしまう。


「すごく綺麗な男の人だよ。でも、あまり話さないというか……基本静かな人だからどうだろう。」

「めっちゃいいじゃーん! クールってことじゃない?」

「そうだね、クールな人だと思う。でも好きーとかは今は無いし、バイト完璧だから怒られないか心配な方が大きいな。」

「ああ、確かにそれは少し話にくく思うわよね。」


そしてしばらくすると、身近な年上の人の話になった。


「七海っち覚えてるかな……中学の時さ、塾にいた先生でカッコいい人いなかった?」

「あの若い先生でしょ。生徒から人気だったわね。」

「塾の先生って若い先生が大半なんじゃないの。」


亜由奈ちゃん達がいた塾では、熟年の先生が多いらしく、おじさんばっかで面倒だと文句を言い出していた。


それからは、学校のカッコいい先輩の情報交換をしたり、店員さんがイケメンだと評判のカフェの話、すれ違った人の話をしたり、とめどなく溢れるガールズトークに花を咲かせていた。


「あー、なんかこう話してるとちがれんには魅力がなく感じるわ。」

「同級生がバカに見えるのはよくある話よね。」

「明るくて元気なのはいいことだよ。」

「なんかもう萌果が一番イケメンに見えてきたわ。」

「それな!!!!」


そして変な話の締り方をした。




☕️




迎えた誕生日会当日。

みんなで駅で集まってから七海ちゃんのお家へ向かい、七海ちゃんも一緒に準備をする。

本当なら主役の七海ちゃんは休んでいた方がいいのかもしれないけれど、楽しいことは多い方がいいっていうことらしい。


「萌果ちゃん手際いいね。流石女の子じゃん。」

「そうかな。アルバイトのおかげだよ。」


私は悠星君とお皿の準備をしていた。

飾り付けは亜由奈ちゃんと七海ちゃんの二人で、千賀君は飲み物の買い出しに行っている。


わいわい喋るのは楽しくて、準備は程なくして終わった。







「ちがれん! ケーキカモンッ!!」

「任せとけ!」


七海ちゃんセレクトのケーキが運ばれてきて、みんなで誕生日の歌を歌う。


「「「「お誕生日おめでとう!!」」」」


にこりを笑った後、七海ちゃんは一息でろうそくの火を消した。

パーン、とクラッカーを鳴らし、みんなでお祝いをする。


ケーキを取り分けて、ジュースを注いで、乾杯をする。

お菓子は机いっぱいに敷き詰められて、みんなで囲む。


「ん!! ケーキうま!」

「新しいお店のケーキなんだよ。美味しいでしょー。」


千賀君は美味しそうにケーキを食べている。

みんなそれぞれ好きなようにお菓子やケーキを食べ進める。


「わあ、これ萌果ちゃんが選んだクッキーでしょ。」

「うんっ。いちご味がおススメ。」

「いただきまーす。」


悠星君は、私が選んだお菓子が美味しいと褒めてくれた。

亜由奈ちゃんもぱくぱくと食べてくれて、なんだか嬉しかった。


「今年は萌果がいてくれてより賑やかで楽しいわ。」

百名(ももな)の誕生日会もやりたいな。」

「あはは、開催できたら嬉しい。」

「今までで一番豪華にやってやるよ。」


そうやって、わいわいと誕生日会を過ごした。

私の誕生日でもみんなでお祝いできたらいいなと思って。

「ただいま、お祖父ちゃん!」

「ここではマスターだよ。」

そう言って、マスターは少女抱き上げる。

微笑ましい光景に、私は思わず自分の娘の未来の面影を見てしまった。

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