9.力を合わせて
現れたのは、幼い勇者たち。青年相手ならともかく、こんな小さい子たちを相手に、本気で戦えるわけがない。それを見越しての人選なのだとしたら、かなり質の悪い人間が裏にいそうな雰囲気である。
「こ、今回は共に戦います!」
プルルはやる気満々で、既にシャドーボクシング的な動作を始めている。その様は、まるで、喧嘩するのが好きで仕方ない思春期の男子のようだ。
「よち! おれにまかてろ!」
自称リーダーの男の子が、手にしていた包丁で、プルルにいきなり切りかかる。一瞬は「危ない!」と思ったが、直後、男の子が握っている包丁が本物ではないことに気づいた。
「避けて下さい!」
「は、はい!」
咄嗟に指示を出す。
プルルはそれにきちんと従い、顔面をぐにゃりと歪ませておもちゃの包丁を回避した。
しかし、ほっとしている暇はない。
「くらえ! あちしのこんしんのじゅちゅ!」
ツインテールの少女が杖を振る。
「しあわせぴーちえくすとら!」
杖の先から飛び出したのは、一匹のカエル。
プルルのスライム状の顔面にぴとりと張り付く。
「ふぃ、ふぅいぃぃぃぃぃぃ!!」
女児の魔法で召喚された緑のカエルは、喉を鳴らすような低い声を発しながら、プルルの顔面を徐々に移動する。プルルは恐怖のあまり悲鳴にならない悲鳴をあげていた。
——と、その時。
傍に控えていたメディが、プルルの顔面からカエルを引き剥がす。素手で。
「あらあら駄目じゃない。カエルさん」
メディはそのままカエルを握り潰す。
女児はショックのあまり泣き出してしまい、完全に戦意を失った。
顔を林檎のように赤く染めて泣くばかり。彼女はもう戦えそうな状態ではない。
「すきあるぅいぃぃぃぃぃッ!!」
その声で気がついた、アサシンを名乗る女の子がこっそりメディの背後に回っていたことに。
「メディさん!」
「うふふ。お任せあれ」
メディは笑顔で、女の子が手に持っていた短剣の刃に噛みつく。そこからさらに唇に力を加え、あっさりと刃を折った。
「そんな! どうちてばれて!?」
「勇者を名乗っているわりには、動きが遅いですわよ」
自称アサシンの女の子は、メディに軽く腹を殴られ、窓を突き破って遥か彼方まで飛んでいってしまった。
「つ、強いですね……」
「光栄なお言葉ですわ、ソラ様」
もはや私も志願兵も必要ないのではないだろうか。メディ一人だけで勇者を潰し続けることができるような気がしてならない。
一人は号泣して立ち直れなくなった。
もう一人は遠いところへ飛んでいった。
残っているのは、おもちゃの包丁を持っている男の子と、妙な発言をする小学生くらいと思われる男子だけだ。
「あと二人……!」
もうひと頑張りだ。あと少しで今回の戦いも終わる。
一人緊張していると、プルルが「大丈夫ですか!?」と心配してくれて。私は慌てて「大丈夫大丈夫!」と明るく返したが、多分ぎこちない表情になってしまっていただろう。
でも、その短いやり取りで、彼らとの間に確かな絆が生まれていることを強く感じた。
彼らは人ではなく異形だ。しかし、人間である私のことも、温かく受け入れてくれる。人間だからと馬鹿にしたり毛嫌いしたりはしない。差別することなく接してくれる。
私はそんな彼らが好き。
最初はいきなり見知らぬ世界に召喚されて戸惑いしかなかった。
でも、今は、この場所が好き。
だから護りたい。皆を。
「よし。ここで……神!」
私が持っている三つの力のうち、まだ使ったことがない一つ。
それが【神】だ。