8.幼稚な勇者たち
肌寒い風が吹き、木の葉を切なげに舞い散らせる、夕暮れ。
失恋した乙女のような空の下、魔王城には穏やかな時が流れていた。
——しかし。
「来た来た来たー! 来ましたーっ!!」
プルルが突然大騒ぎしながらやって来た。
もしかして、と思っていると。
「勇者四人組がまた来ました!」
「……この前と同じ方々ですか?」
「違うと思われます!」
突然のことに混乱し冷静さを完全に失っているプルルは、スライム状の顔面を激しくぷるぷるさせながら、勢いよく話す。
「今回は平均年齢が低めのようです!」
私はプルルからもう少し話を聞いてみることにした。というのも、今の時点では平均年齢が低めの勇者四人組だということしか明らかになっていないから。対峙する相手の情報は一つでも多い方が良い。その方が作戦を考えられる。
プルルから話を聞いてみたところ、今回現れた勇者四人組の組み合わせが判明した。
どうやら、二人が少年で二人が少女という構成らしい。
「今回は男女半々なのですね」
「はい! そのようです! ……どうしましょう?」
プルルは私に対策を求めてくる。しかし私はすぐには答えられなかった。
この前のようにお団子で帰ってもらえればそれで良いのだが、相手が違う人だから、前回と同様の作戦が上手くいくとは限らない。
一応お団子作戦を試してみるのも、一つの選択肢ではあるだろう。一度成功したことだ、今回もやってみる価値はあるかもしれない。が、その策だけに頼っていては、もしそれが駄目だった時に大変なことになってしまう。複数のパターンを考えておいた方が安全だ。
その時、メディが駆け込んできた。
「ソラ様! 志願兵を連れて参りましたわ!」
お上品なメイド服の女性の背後には、十ほどの二足歩行魔物が連なっている。ゴブリンのような個体もいれば、オークのような個体もいるし、にんじんのような個体すら存在している。共通しているのは、二足歩行であるというところと、軽装ながら防具を身につけているところだけだ。
「協力させて下さい! 魔王様!」
肌が黒ずんだゴブリンの志願兵が勇ましく言ってくる。決意したような顔をしながら。
「オラ、魔王様の力になるの! 一緒に戦うの!」
意外と可愛らしい口調で言ってきたのは、オークのような志願兵。
よく見ると睫毛が長い。そして、西洋人の少女のようなくりっとした目もとが特徴的だ。
「我輩も共に戦うにんじん! 負けんにんじん!」
低めで響きのある渋い声をしていたのは、にんじんのような姿をした志願兵。
年齢不詳のにんじんだ……。
「皆、ソラ様に協力したいと言っているのですわ。ソラ様、よろしくて?」
「は、はい! では。皆さん、よろしくお願いします」
こうして、今回は、志願兵と協力して勇者を迎え撃つことになったのだった。
◆
「「「「よーち! たおちてやるとー!」」」」
勇者四人組が現れた。
驚いたことに、四人全員が、幼稚園児か小学校低学年くらいの見た目をしている。
「おれはゆうしゃのりーだーだ! あくのおう、たおちてやりゅ!」
「あらあら。まともに話せてもいないのに勇者だなんて、笑えない笑い話ですわね」
メディが煽りだした!
……あまり刺激しないで下さい。
「あちしはゆうしゃのまほうちゅかい! しあわせぴーちのまほうがちゅかうぇるの!」
ツインテールとケープが可愛い女児。容姿はなかなかのものだが、話し方が独特で聞き取りにくいというところだけは残念だ。
「うちはゆうしゃのあさしんや! よろぴこ!」
勇者なのにアサシンて。
「オメタス!!」
またしても、四人目だけ、よく分からないことを言っている。