7.トランプと気遣い
訪ねてきてくれたオークの子どもたちと、私は、色々な遊びをした。せっかくやって来てくれたのだから少しでも楽しんでいってほしい、という思いからだった。
とはいえ、オークの遊びは人間にとって馴染みのないものばかりだ。
芋虫を取って食べるだとか、古ぼけた斧を振り回すだとか、彼らの娯楽はそんなものばかりなのである。
それらに参加する勇気はさすがになくて。
だから、私は、彼らにトランプ遊びを教えてみた。
小説や漫画、ゲームなどに登場するオークは、どちらかというと聡明ではないイメージのことが多い。そのため、頭を使う遊びは嫌いかもしれないと心配だった。しかし、実際は案外そんなことはなくて。オークの子どもたちは、私が教えたトランプ遊びを、「人間の遊び」として自然に受け入れていた。
それに、知能も低くはなかった。
トランプをするとなると、それなりに思考することが必要となってくるものだか、彼らはそれを苦労することなくこなしていた。それどころか、頭を使うことを楽しんでいる節すらあった。
「ババ抜きまた勝っとぅあああぁぁぁぁ!」
「楽勝ぅぅぅっ!」
思いつきで取り敢えず教えたババ抜き。
終わった時にジョーカーを持っていた者が負けというシンプルなルールゆえ、日本では有名なトランプゲーム。
オークの子どもたちは数回のプレイだけですっかりマスターしてしまった。
私はそもそも強い方ではなかったから、当然といえば当然なのかもしれないが、もはや負けてしまっている。
「二連勝したぁぁぁぁ!」
「楽勝ぅぅぅっ!」
でも、負けるのも嫌ではなかった。それはそれで楽しさはある。なぜなら、大きな声をあげて歓喜するオークの子どもを見ることができるから。ほっこりできるのが嬉しい。
「三連勝キタアァァァァァ!!」
「何もしなくても勝てるぅぅぅぅ!!」
魔王様としての暮らしは退屈な時間も多い。仕事は勇者に帰ってもらうことだけで、基本、することは何もないから。だから、どんな形であっても時間を潰せるのはありがたいこと。しかも、この方法なら楽しんで時間を潰せるのだから、なおさら良い。
◆
「お疲れ様でした、ソラ様」
数時間にわたるババ抜きを終えると、オークの子どもたちは帰っていった。
日本にいた頃だったら「時間を無駄にしてしまった」と後悔したかもしれない。けれど、特に何をするでもない日々を過ごしている今は、そんな風に悔やむこともなかった。どのみち何もすることがないからだ。
「ありがとうございます」
「お疲れではありませんか?」
「大丈夫です」
子どもたちの純真無垢な視線に触れたら、心も自然と軽くなる。そういうものだ。
もっとも、私は子ども好きではないけれど。
「どうかゆっくりお休み下さいね!」
「はい。ありがとうございます」
基本常に傍に控えていてくれるプルルは、たまに妙なテンションになりはするが、いつも私を気遣ってくれる。善良な心の持ち主なのだろう。
そんな彼が、私は嫌いじゃない。