5.メイドのメディ
お団子を大量に出し、それを取り合わせて団結力を乱すことによって、勇者四人組を撃退することに成功した。それ以来、私は、魔物たちからより一層敬われるようになった。
「ソラ様、昨夜は愚かな勇者どもを撃退して下さったそうですわね。素晴らしいですわ」
「あ、ありがとうございます……」
吸血コウモリのメイドであるメディは、朝、軽い軽食を笑顔で持ってきてくれた。
「あたくしたちに挑む無謀な馬鹿の顔、拝んでやりたかったですわ」
「は、はは……」
今日のメディは、お上品な笑顔で毒を吐く。
なぜだろう。いつもと違う。
「あたくし、勇者とかいう勘違いした生き物が一番嫌いですの。……でも、人間が嫌いなわけではありませんわ。やつらを華麗に潰して下さったソラ様などは、とても好きですわよ」
メディは右手でポットを持つと、その中の液体をティーカップに注いでいく。
しかも、ティーカップから十センチ以上離れた上から、だ。
彼女は慣れているから平気なのだろうが、私が同じことをしたらこぼれて大惨事になりそう。これは多分、真似しないでね、というやつである。
「さぁ、ハーブティーをどうぞ」
私はティーカップを受け取る。
瞬間、感じる柑橘系の香り。
「爽やかな香りですね」
「ハピネス草をメインに使ったハーブティーですわ。この国ではお祝いの時に飲むことも多いですわよ」
メディは優しく微笑みかけてくれる。
段々この世界が嫌いでなくなってきた。そんな気がする。
◆
「メディさんについてですか!?」
「はい。勇者という存在をとても嫌っていらっしゃるようだったので」
何をするでもない退屈な午前。
プルルと二人きりになったので、メディについて尋ねてみた。
「お話しして良いのか分かりませんが……」
すんなり話す気にはなれないのか、プルルは何やらゴニョゴニョ呟いている。それも、凄まじく渋い柿に当たってしまった時のような顔で。
「秘密なら無理に話していただかなくても構いませんよ」
「い、いえ! 魔王様にですから、お話し致します!」
それから私は、プルルからメディについて聞いた。
メディは吸血コウモリの一族に生まれ、一族が住みかとしていた湖の近くで穏やかに育ったそうだ。湖の水を飲んだり、たまに下級魔物の血を啜ったりして、静かに暮らしていたという。しかしある時、その湖に一人の子どもが迷い込んだ。そして、その子どもを下級魔物の一種と勘違いした吸血コウモリの一匹が、子どもの血を吸ってしまった。もちろん、吸血コウモリ一匹が吸う血の量など少量だ。子どもの命に別状はなかったが、子どもが吸血コウモリに血を吸われたと知り怒った親は、勇者を雇った。そして命じたのだ、吸血コウモリを滅ぼせと。
「それにより、吸血コウモリの一族はほぼ壊滅。メディさんは何とか逃れ、ここ魔王城で保護されましたが、仲間たちは……。だから、彼女は勇者を憎んでいるのでしょうね」
事情があったのなら仕方ない。
勇者を嫌うのも、勇者関連の話の時だけ毒舌になるのも、やむを得ないことかもしれない。
「それにしても酷いですね。皆殺しなんて」
「ですよね! 勇者というのは、本当に、心なく恐ろしい生き物です!」
プルルは顔面を震わせながら怒りを露わにしていた。