3.あれから三日
私が魔王様として異界に召喚されて、三日が経った。
最初の夜は寂しくて辛かったが、日を重ねるにつれて、段々ここでの生活にも慣れてきた気がする。
大学の講義は欠席になっているだろう。
それだけが気がかりではある。
ただ、どのみち、五年間は魔王様を続けなくてはならない。それならば、明日明後日のことを考えても意味はない。
今はこの世界で生き抜くだけ。
それだけを目標に生きよう。
◆
魔王様の起床時間は自由。決められていない。それは、朝に弱い私にとっては、とてもありがたいことだった。
そして食事は、日本にはなかったような珍しいものがメインだ。
肉は、下級魔物。野菜は近くに生えている野草。魚はほとんどない。
けれど、料理には様々な工夫が施されており、この世界での食事に慣れていない私でもそれなりに美味しく食べられる。
「本日のメニューについて紹介致しますわ」
私のところへいつも食事を運んできてくれるのは、吸血コウモリのメイドであるメディ。
彼女の本来の姿は、コウモリだ。
しかし、術を使うことで、人間に近い姿になることができる。
人間に近い容姿の方が馴染めるだろうという配慮で、彼女は、私の前では人間に近い姿を保っていてくれている。
「野草のスープ、野草とスパイスのサラダ、ラブリブタのステーキですの。どうぞ召し上がれ」
人型になったメディは、お上品な雰囲気をまとった女性だ。
丈の長いメイド服がよく似合う、美しい人。
「魔王様にお出しするラブリブタは、あたくしが厳選して仕留めてきたものですわ。きっと美味しいですわよ」
ちなみに。
料理を作るのも、半分くらいは彼女が行なってくれているみたいだ。
「ありがとうございます」
「いえいえ。うふふ、では失礼しますわね」
他の魔物から聞いた話によれば、メディはかなり戦闘能力が高いらしい。吸血コウモリ姿の時はどんな大きな敵にもどんどん噛みつくとか。
◆
その日の夕食後、プルルが飛んできた。
「ソラ様! ソラ様! 大変です!」
「どうかしたのですか、そんなに慌てて」
プルルは、テンションが高い時は多々あるけれど、取り乱すことは少ない。だからこそ、彼が慌てているのを見て驚いた。一体何があったのか、と。
「勇者が現れました!」
「えっ……」
勇者が現れた——それはつまり、敵の出現。
「そんな。私はどうすれば良いですか」
「指示をお願いします!」
「では、倒して下さい」
「そ、それでは無理です! もっと具体的な指示をお願い致します!」
駄目なのか、「倒して」だけでは。
だが、具体的な指示なんて言われても、何をどう指示すれば良いのか分からない。
「じゃあ、彼らをここへ連れてきて下さい」
「えぇっ!?」
「お団子をお土産に帰っていただきます」
刹那、プルルの瞳が輝きに満ちる。
「す、す、す、素晴らすぃぃぃぃィィィ……!」
「それで大丈夫ですか?」
「はい! はい! もちろんでございますっ!!」