2.与えられた力
ただの大学生、大海 空は、ある日突然魔王様として見知らぬ世界に召喚されてしまった。
「それで、私は何をすれば良いのでしょうか」
「ご質問ありがとうございます! 説明はこのプルルにお任せ下さい!」
頭部だけスライム、他は人間、そんなプルルが私のこれからの仕事について教えてくれる。
魔王様は基本何もしなくて大丈夫らしい。しかし、若干は仕事があるみたいで。その仕事とは、この国を滅ぼしに来る勇者と戦うこと。
……いや、戦うとか無理でしょ。
だって女子大学生だよ? 日本人だよ?
最初『勇者と戦う』という話を聞いた時にはそう思ったのだが、どうやら、私には特別な力があるらしい。
「どのような世界の方であっても、魔王様として召喚される際には、特別なお力を得られることになるのです!」
「へぇ。そうなんですね」
「早速、ソラ様がどのようなお力をお持ちなのか、確認致しましょう」
そう言うと、プルルはどこからともなく透明な玉を取り出した。
水晶玉のような見た目の球体だ。
「この玉に片手を当ててみて下さい!」
「はい」
早く帰りたい気持ちはある……けど、少しワクワクしてきた。
特別な力を持つことに昔から憧れていた。魔法、超能力、何でもいい。もし私の中に普通の人間とは異なる何かがあったら、と、夢みていたのだ。
私は右手を伸ばし、恐る恐る玉に触れる。
手のひらに、ひんやりとした感触。
——その数秒後。
透明な玉の中に、何やら文字が浮かび上がってきたのが見えた。
「出ましたね! なになに……? ふむ、【お団子出し放題】【みかん出し放題】【神】?」
プルルは玉の中に浮かび上がった文字を声に出して読み、首を傾げる。
「これは一体……?」
「どんな感じですか」
「ソラ様に付与された能力は、【お団子出し放題】【みかん出し放題】【神】のようです!」
何それ、意味不明。
……でも、お団子とみかんが出せるということは、その二種類はここでも食べられるということか。
だとしたらラッキーかも。
お団子は嫌いでないし。
「その力を使うには、どうすれば?」
「能力の名称を声に出せば使えます!」
呪文を唱えたり精神統一を行ったりはしなくて良いらしい。
それなら簡単だ。
「では……お団子出し放題!」
みかんよりお団子の方が好きだから、まずはお団子にしてみた。
すると、視界が白い光に満たされる。思わず目を閉じてしまうような眩い輝きが室内に広がった。
——そして瞼を開くと、手元にお団子が出現していた。
目を開けていられないような凄まじい輝きの後に、ちょこんとお団子。しかも、串に白い団子が三つ刺さっているだけの、地味なお団子が一つ。
この能力、地味過ぎる!
「おぉ! それが『お団子』なるものですか!?」
プルルは目を見開きながら尋ねてきた。
「はい。多分」
「不思議な食べ物ですね! 白くて丸くて!」
「……食べてみますか?」
「えっ。構わないのでしょうか!?」
出し放題、という能力なのだから、きっとまた出せるだろう。
記念すべき一本目は、ぜひ興味津々なプルルにあげたい。
「で、では……いただきます!」
プルルはお団子を口に含む。
そして。
「う……うまままままま!!!!」
体に悪いキノコでも食べたかのように、プルルは奇妙な大声を発し始める。
「うまっ! うまっ! うまままうままま! うま!! うまっうまっうままままま!!」