11.私の魔王様暮らし
黄金の女神から放たれたのは、虹色の輝き。
心の奥底まで照らすような、目が燃え尽きそうなそんな強い輝きだった。
一体何が起ころうとしているのか理解することはできない。
それでも私は信じる。女神はきっとこの国を護るための力を与えてくれる、と。彼女がそう言ったのだからそうなのだ、と、私は自分に言い聞かせる。
そして、虹色の光が消え去った時。
男の子の勇者二人は全身の力を失い、立てなくなっていた。
「な、なんだこれ……ちからがにゅける……?」
「オメ……タス……?」
痩せ細り、脱力し、その場で消滅した。
泣いていた女の子勇者も同様だ。
「き、消えた……!」
勇者に帰ってもらいたいとは考えていたものの、まさか消滅するとは思わず。驚きを隠せない。
愕然とする私に、女神は話しかけてくる。
『問題ありません。彼らはもといた場所へ戻されただけのことです。死んだのではありません』
「なら良かった……」
『これで勇者はしばらく訪れないでしょう。少しは穏やかに暮らすことができるはずです』
「ありがとうございます、女神様」
なぜ魔王様の能力に女神を呼び出すものが入っているのかは謎だ。真逆に位置するような存在だけに、どうやって呼び出したのか謎である。ただ、呼び出せたということは事実。そして、願いを叶えてもらえたということも事実である。
『それでは、また』
そう言って、女神は消える。
姿が見えなくなる直前、彼女がほんの一瞬だけ微笑んだ気がした。
「や、やりましたね! ソラ様!」
一番に声をあげたのはプルル。
顔面を激しく震わせながら、嬉しそうな声を発する。
「さすがですわ」
メディも柔らかな笑みを浮かべながら褒めてくれる。
「さっ、さすがは魔王様!」
「凄いの! びっくりびっくりなの!」
「素晴らしいにんじん」
皆それぞれ個性的な容姿をしているが、嬉しそうな顔をしていることだけは共通している。
それを見ていたら、私まで明るい気持ちになってきた。
◆
こうして、二度目の勇者撃退に成功した私は、魔王様としてさらに崇められることになった。
正直、「魔王様、魔王様」と呼ばれるのはしっくりこない。だって私は魔王様ではないから。私は人間で、空という名前がある。それゆえ、プルルやメディのように「ソラ」を付けて呼んでもらえる方が好きだ。
でも、魔王様と呼ぶからといって嫌いになるわけではない。
人間だからと嘲笑うのでなく、人間であっても受け入れ同じように扱ってくれる皆が、私は好き。そして大切。
◆
「いやぁ、平和ですね!」
「そうですね」
あれ以来、勇者の襲撃は大幅に減少した。
物凄く弱そうな単独の勇者が迷い込んできたりすることはあるが、魔王様退治を本気で思い向かってくる勇者はもういない。諦めてくれたのだろうか。
「これからもずっとこんな風に平和だと良いですね」
「ソラ様がいて下されば、心配などありません!」
魔王様を務める契約は五年。
私が魔王様であれる時間はまだまだある。
召喚された当初は早く帰りたかった。こんなところで過ごすなんて嫌だと思っている頃もあって。しかし今はもう嫌だなんて思っていない。もちろん、日本にいる家族のことが気になることはあるけれど。でも、契約が終わるその日までは、この場所が我が家。
「けど、勇者があまり来なくなったら、私の仕事がなくなってしまいますね」
「勇者を減らすという大仕事を成し遂げて下さったのはソラ様ですよ!」
「いいえ。それは違います。それは、あの女神様がしてくれたこと。私の成果ではありません」
「えぇっ!? そんな、謙虚な!!」
平和になったこの国で、私の魔王様暮らしはまだ続く。
—完—