10.神降臨
出し放題系の力は日常の中で使う機会がある。食べ物を出せるからだ。世話になっている相手に振る舞ったり、自分で食べたり。使い方はたくさんある。
しかし、この【神】という能力だけは、まだ使ってみたことがなかった。
行使した時どういうことが起こるのか分かりづらい名称だから、少し怖くて、今まで使えなかった。
でも、今こそ試してみる時。
速やかに勇者を退ける力があるかもしれないから、使おう。
——はっきりした声で「神」と発した瞬間、私の全身から黄金の光が溢れ出した。
なぜ私の体が発光しているのか。わけが分からない。
「そ、ソラ様!? 体が光って……!?」
太陽のように光り輝く私を見たプルルは、目と口を日頃の三倍くらいまで大きく開いて発する。
彼は時折派手なリアクションを取ることがある。が、目と口がここまで豪快に開かれているところは、あまり見たことがない。私が輝き出したことに、よほど衝撃を受けたのだろう。
「あらあら……何が起こっていますの……?」
人間が光り輝く珍現象に反応しているのはプルルだけではなかった。
メディもまた、困惑したような表情を浮かべている。
「ま、魔王様のお体が輝いて!」
「オラ、びっくりして胸がときめくの……!」
「凄いにんじん」
ゴブリン、オーク、にんじん、の志願兵たちも、衝撃を受けたような言葉を発していた。
私の肉体から溢れ出た黄金の輝きは、やがて、死んだ人の魂が天上へ向かうかのように数メートル上へと昇ってゆく。そして、数メートル上に集合した黄金の光は、大きな輪を作り出す。
さらに待つこと十秒。
光の輪の中央から、金色の輝きに包まれた女神が現れた。
人間に例えるなら二十代くらいの女性と思われるような容姿の女神だ。
目や鼻の凹凸が際立つ、彫り深めの顔をしていて、軽く数センチはありそうな睫毛は、まばたきする度に華やかさな雰囲気を漂わせる。
髪は長い一本の三つ編みとなっており、うなじの辺りの結び目には、太陽を象ったような髪飾りがついている。また、太陽を想起させる円形の部分を取り囲むように植物の蔓らしきものが絡んでいるデザインだった。
「な、なんだあれ……! おおきいかみ……!?」
「コワタス!」
残っている勇者二人は、巨大な神の登場に動揺を隠せない様子だ。
『わたしを呼び出したのは、ソラ、あなたですか?』
すべてが金色の巨大な女神は、落ち着きのある優雅な声色で、尋ねてきた。
「あ……はい」
『あなたの願いを叶えましょう。願いを言いなさい』
よし、言おう。
「この国を、平和にして下さい」
叶えたい願いなんて一つや二つではない。そして、いくつもあるから、そう簡単に決められるものではない。だが、今ここで叶えたい願いとなれば、一つだけ。それは、この国を護るための願いだ。
私は人間。だから本来は勇者側にいるべきなのかもしれない。
でも今は、この国の魔王様でもある。
罪のない魔物たちを、人間である私を受け入れてくれた彼らを、私は護りたい。
「この国を、勇者に襲われない国にして下さい」
『それがあなたの願いなのですね。分かりました。それでは、願いを叶えます』