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清純派女子中学生が戦闘狂に豹変するわけがない

感想、レビュー、評価など頂けると今後の励みになります!! よろしくお願いします。

 藤宮ふじみやレクは頭を抱えてしゃがみ込んでいた。


「まただ……また、やっちまった。どうして、どうして俺は……」


 レクは独り言をブツブツと呟く。

 その様子を側で眺める妹の藤宮さよ。

 彼女は口を噤み、我が兄を見下ろしていた。

 心地良い春の夜。


 雲に隠れていた三日月が姿を現し、人気のない公園で頭を抱える兄と立ち尽くす妹を照らす。

 月明かりに照らされたさよのボブカットは、夜でも美しく輝く。


 中学生の少女らしい小柄な体型だが、着ているTシャツの端々は破れ、白い肌が露わになっている。服のサイズも彼女の体に合っておらず、下に履いたショートパンツが隠れてしまうほど大きい。晒された生足が色っぽい。

 みすぼらしい格好とあどけない顔立ちが相まって、少女の姿は庇護欲を掻き立てられる。


 妹の格好とは対照的に、レクの着ている服やサルエルパンツは綺麗なままだ。

 さよは屈みこみ、兄と目線の高さを合わせる。



「お兄ちゃん、さよ、思うの。諦めた方がいい、お兄ちゃんはきっと、そういう運命なの……」


 そう言ってポンと、とレクの頭に右手を乗せる。

 慰める妹、慰められる兄。


「俺、今日こそは憶えてられるって思ったんだ」


 ぐすん、と鼻をすする。


「もしかして……泣いてる?」



 またいつものことかと、呆れたさよの口からため息が出かけた―そのとき。

 顔を上げたレクは、勢いよく妹の肩を掴んだ。



「憶えてたんだよ、途中までは! さよと一緒にここまで来て、フードを被った人型の罪獣ざいじゅうが急にでかくなって、とんでもねーツメとキバが生えて、こっちに駆けて来る、までは……」


 彼の充血した目は次第にさよから横に移動し、人に害を為す異界からのバケモノである、「罪獣ざいじゅう」が倒された位置に定まる。


 兄妹から少し離れたところにある、街灯は点滅を繰り返していた。季節の虫の鳴き声がうるさい。地面は二人を中心に陥没し、生えていた緑も剥げてしまっている。周りを囲んでいた木々も無造作に切り倒され、兄妹の行く手を阻むバリケートのように積み重なっていた。

 そこには、激しい戦闘の爪痕が深く刻まれていた。



「ああ、また。これ全部俺がやっちまったのか……」

「お、お兄ちゃん、ほんとにすごかったよ!」

「俺はいつもそうだ。キレると記憶が飛んじまうんだ。気が付いたら相手が白目を剥いて倒れてるんだよ」

「……そうだね! お兄ちゃんは最強だもんね!」

「それを俺は馬乗りで見下ろしていて、右手がひどく痛むんだよ。周りのやつに後から話を聞くと、俺は自分の体が壊れるまで殴り続けていたらしい……しかも笑いながら」

「う、うん……」

「ハハッ、ほんと自分でも情けねーよ。哀れな兄を存分に笑ってくれ、さよ」

「あはは……」



 レクは膝に手をつき立ち上がり、服についた土を払うと、堆積している倒木のもとへ行く。



「この切り口……まるで鋭利な刃物で両断されたみたいだな……。ハッ! もしかして俺は、また新たな能力に目覚めてしまったのかッ!」

「お兄ちゃん……」



 妹の声など、兄には届いていないようだ。



「ああ、ちくしょう。またしても、今回も俺は」


 少年の叫びまで―約一秒前。



「バトルの記憶が一つもねえええええええ!」


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