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Prologue

投稿、二作目。


 一人の勇者が城に乗り込んだ。

 人族の大敵、魔族。その王の目の前に勇者が立つ。

 勇者が鞘から剣を抜き払うと、赤い刀身が姿を現した。黒い煙の筋が渦を巻き、剣に纏わりつく。あれは《魔剣》だ。

 勇者は強かった。今まで見て来た人族と同じとは思えない、それはもう“化物”と言っても過言ではない程に強い。

 魔王は圧倒されていた。「あれは正真正銘の化物だった」と魔王は口にしている。なら、彼は化物という範疇に収まるかさえ怪しい所だ。

 一瞬の交錯で、勇者の剣が魔王の腕を切り飛ばす。

 間髪入れずに魔法で体を後方へと吹き飛ばす。

 血反吐を吐き、魔王は膝をつき、息を荒げていた。人族が大いに恐れていた相手とは思えない姿がそこある。勇者と魔王、力の差は歴然だった。格の違いが存在した。

 深手を負い、顔を上げることさえ叶わない魔王。勇者はそこへ近づいて行き、足を瀕死の天敵の目の前にして止める。

 勇者は《魔剣》を振り上げた。

 瀕死の天敵に向けて振り下ろす。

 だが、切っ先は魔王に届くことは無かった。







 玉座から立ち上がり、外套を投げ捨てる。戦いにこれは必要ない。魔力を解放し、練り上げる。気を抜ける相手ではない。況してや手加減などもってのほかだ。

 過去に人族、他の勇者と名乗る者と対峙したことは何度かある。

 この魔王城までたどり着いたのだ、強者だった。

 だが、彼は“仲間”を連れていた。最低でも三人以上は連れていたんだ。なのに、こいつはどうだ? たった一人でここまで辿り着いているではないか。

 その時点で既に可笑しい。そして、この威圧感。今までとは比べものにならないのは必然。最初から全力で叩く、でなければ一瞬で殺される。遊びの時間はない。

 勇者は何も言葉を発することなく、剣を抜いた。

 赤い刀、黒い鎬。《魔剣》と呼ばれる類いの武器だろう、魔力を感じ取れる。

 お互いに間合いをはかる……ということはなく、勇者は剣を抜いたが最後、一直線に駆け向かい来る。

 我は前に手を翳し、魔力を巨光として放った。練りに練った魔力の放出。光柱は床を抉り、勇者へと突き進む。

 当たれば人族など跡形も無く消し去れる威力は容易にある――あるはずなのだ。

 光が勇者を包み、飲み込む。勝負は決した、互いの初撃にて。

 この時、確信を持ち、気を緩めてしまったのが失態だったのかも知れない。いや、違うか。力の差が有り過ぎたんだ。でなければ、こんなことはあり得ない。

 光が分断され、左右に散る。まるで勇者を避けるように後方へと飛んでいく攻撃。負けが確定した瞬間だった。

 光の膜から勇者が姿を現し、視界に捉えた時には既に遅い。奴の持つ《魔剣》の切っ先は突き出していた右腕に届く。

 血飛沫が宙を舞う。

 腕が千切れて空に飛ぶ。

 時が止まったように、自身の感覚が鈍ったよう。だが、その認識を抜けて、一筋の線が立て続けに襲い掛かって来る。

 剣の狙い先が急所に変わった。

 咄嗟に残る左腕で魔力障壁を展開し、防ぐ。

 激しい衝突音を響かせ、障壁が《魔剣》を弾いた。

 勇者に隙が出来た。次の手を考えねばならない。

 行動を起こせ、動きを止めるな。

 魔力障壁を変転。粒子へと変化させ、粒の一つ一つを短剣へ。

 残る左腕を振るうと、一斉に勇者へと牙を剥く。

 逃げ場を消す、広範囲に渡る規模。避けることは出来ない。

 勇者も同じく手を振るった。その手から魔力の黒風が巻き起こり、全てを吹き飛ばす。風は刃のように柱や床を削り取り、暴風は短剣を弾く。

 魔王の体が浮いた。衝撃に耐えきれず、飛ばされる。

 背後の壁に激突し、吐血する。

 そのまま力無く崩れ落ち、膝を突く。

 勇者の足音が近づいて来る。

 前を向けない、体が動かない。

 剣を振り上げる影が床に映り見えた。

(……ああ、お終いか)

 魔王は覚悟を決めていた。

 影が動く。剣が振り下ろされたのだろう。それを最後の光景とし、目を瞑る。

 暗く閉ざした世界が広がる。永遠に続くことになる空間。死の世界もこんな場所なのだろうか?

 思考が早まる。時間が遅く感じる。

 終わりの時まで後、少し。

 ………。

 ……。

 …。

 ――だが、時が経ち、いくら待つも首に冷たい感触は伝わって来ない。疑問が頭に浮かんだ頃、代わりにある言葉を掛けられたのだった。







「――なぁ、魔王さんよぉ」

 俺は閉ざしていた口を開いていた。

 きっと、魔王は自分の耳を疑ったことだろう。本来、世界を、国を、人々を救いに来るはずの者が“こんなこと”を口にするのだから。

 勇者、英雄の台詞ではない。言うなれば、奴。目の前で床に屈している魔王の台詞となるはずだ。こいつにとっては、余りにも信じがたい言葉となったに違いないことだろうな。

 こんな提案を出来るのは“こいつ”しかいない。

 こんな頼みを出来るのは“こいつ”しかいない。

 こんな“ ”を出来るのは“こいつ”しかいない。

 藁にも縋る思い……それほどに俺は後が無かったんだ。俺一人ではどうしようもないことだったから。もう後戻りは出来ない。だからここまで来たんだ。

 魔の手を借りてでも成し遂げてやる。例え、この身が滅ぶことになるとしてもだ。

 

 ――俺は何としても、あの腐りきった国を壊すんだ。







 人間が不意に閉ざしていた口を開いた。

 剣が目の前で光っている。赤く、黒く、禍々しい輝き。「ああ、ここで死ぬんだな」と自ずと理解してしまっていた。

 あの右腕と同じく、首を飛ばされて地面に倒れ込む。血を流して、間を置かずして意識を失う……。それで、我が生涯は短くも終わりを迎える。

 最後に言い残す言葉はあるか?

 先の言葉に続く台詞の大体は予想が付く。

 残す言葉なんて有りはしない。彼、勇者と対峙すると分かってから時間は十分にあった。もう未練は残さないようにする為の時間が。

 勿論、対策をする時間もあった。罠を張ったり、城を死守する大型の魔物を配置したりと策は巡らせておく。あの化物の相手としては意味を成さないかも知れないがな。

 案の定、罠は簡単に突破され、魔物は一刀両断。まさかの一撃だった。最終エリアから引っ張って来た精鋭の魔物だったんだがな……。

 そして、勇者は我の目の前に立った。


 ここで話は冒頭に戻ることになる。







「――なぁ、魔王さんよぉ」

 告げられたのはとても“勇者”が、口にするには可笑しい。

 我、魔王を討伐し、後生の世に“英雄”として語り継がれることになるはずの相手が口にするには、とてもじゃないが可笑しかった。

 そんな言葉だったんだ。流石に呆気に取られ、王としては情けなく、間の抜けた声が漏れてしまったのはそのせいに違いないのだろうな。


「……俺と共に人族を滅ぼしてくれないか?」


「……は、はい?」

 これが、本来は敵対し、その命を懸け合い、鎬を削るはずの二人。勇者と魔王が結託し、この世界を征服するという戦いの始まりとなるのだった。


目を通して頂き、ありがとうございます。

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