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まちさんぽ

沢山の店が立ち並ぶ古びた商店街。

だが、その全てが空いているという訳ではなく殆どの店はシャッターが閉まっている。

空いている店もそれほど盛況という訳ではなく店の外に飛びだして陳列されている商品は昭和の雰囲気が漂っていた。


「びっくりしたでしょ。」

天がそう尋ねてくる。

「え?...あ、ああ、まあ。驚いた。仲春さんが警察だなんて...」

「そうじゃなくてこの場所のこと。」

「ああ、そっち...」

仲春さんが衝撃的過ぎてまだ俺の頭の中を仲春さんに対する疑問が占めていたからついそのことを言ってしまった。


「昴の住んでいたところはこんなボロい建物なかったんじゃない?」

「ボロいとかいうなって。確かに少し歴史を感じる町並みではあるけど俺は好きだよ。都会なんて新しさと便利さを追求し続けてどこかに『歴史』とか『のんびりさ』とかを置いてきただけのところなだけだって。」


実際俺の家の周りにはここみたいに緑はなかった確かに都会にも緑豊かなところはあるしのんびりした場所もある。


だがこことはやはり比べ物にならない。

「そっか。...でもやっぱり私は憧れるよ、都会。色々な者が沢山あって便利で...人が多いのはテレビとかで見ててうわって思うけど...でもやっぱり憧れる。」

「天は行ったことないの?」

「うん、物心つく前は行ったことあるらしいんだけど私が覚えてる限りじゃ一度も田舎から出たことない。」

「一度も?」

住んだことがないにしろ旅行とかで一度くらいならありそうな気がするが。

「ないよ。ずっと私はこの街に閉じ込められてるって気分。確かにこの町も私は好きだよ。のんびりしてるし、星は綺麗。」

「星?」

そういえばこの町に来てから夜に星を眺めたことなかった。


「お母さんの前の仕事は知ってる?」

「確かどこかの有名大学の教授だったんだろ?」

「うん、天文学の専門家。だから私は物心ついたときにはもう空を眺めてた。今もだけどね。」

「知らなかった。天は天体観測が趣味なんだな。」

「趣味っていうかもはや習慣だね。確かに星を眺めるのは好き。でもなんで好きなのかは分からない。」

そう言い天は目を伏せる。

「分からない?」

「いつも星を眺めながら思うんだ。なんでこれを見てるのが好きなんだろうって。なんで毎日同じ時間に準備して眺めてるんだろうってさ。そうやって思いながら空を眺めてたら自分が凄く小さい人間に思うよ。こんな小さな町の外も知らない。自分の好きなものが好きな理由すら分からない。」

「でも好きなんだろ?天体観測。」

俺の質問に天はこくんと頷く。

「だったらいいじゃん。難しく考えなくても。」

「え?」

俺の言ってることの意味が分からないというように天は首を傾げた。

俺の方が分からないさ。なんでこいつはこんな変なことでこんなに悩んでんだ?

本人はいたって真剣に悩んでいるんだろうが俺には残念ながらさっぱりその理由が分からない。


「好きだってことに理由なんていらないって。自分ではどうしようもないくらい気が付けば夢中で、興味を惹かれて...そういうのが『好き』ってことだし。だから...」

そこまで言ってからハッとして口を閉じる。

そして無意識に手で一瞬で赤く染まった顔と口元を隠した。


うわぁ...やっちまった。

自覚はしてるが凄くキザったらしくて恥ずい台詞せりふを言ったもんだ。

恥ずかしいを通り越してもはや引くレベル。

天だって絶対呆れて...


「かっこいい...」

「へ...?」

小さくてそのつぶやきは聞き取れなかったがどうやら引かれてはいないようだ。

「あ、ち、違くて!!えと...そんな考えが出来るなんて昴は凄いなって...さ、さすが!先輩だね!」

なんでカミカミ?しかも顔は真っ赤だ。手を顔の前に持って来てワタワタと振っている。


「俺なんて...」

俺なんて凄いなんて思われるほど立派な人間じゃない。

引きこもりで、迷惑ばかりかけて、これといった特技も人より優っていることももちろん無い。

落ちこぼれで、無能で、誰からも必要とされない奴。


「あれ?水無月みなづきさん?」


そんな声が唐突に聞こえ知らず知らずのうちに俯かせていた顔を上げると自転車に跨った二人の女子たちがいた。


今声をかけてきたのはそのうちの一人のようだ。

見たところそらの知り合いっぽいし俺は当然お呼びじゃないみたいだから空気と同化することにする。

「ひ、比野守さん...。」

天が気まずそうな顔を一瞬浮かべたのを俺は見逃さなかった。


だが、一瞬にしていつも以上の笑顔を浮かべたので比野守という名の少女ともう一人の少女はそれに気づかなかったらしい。

「久しぶり!終業式以来?」

「...ええ、そうですね。」

何故に敬語?

同級生じゃないのか?しかもいつもよりやけにしおらしい。


「あれ?そっちの人は...」

上手く空気に徹していたつもりだったがさすがに気づかれた。

「あ、こちらの人は...」

困り顔でこっちを振り向く天。

さすがにここは自分で自己紹介するべきだと思い前に出て天の隣に並んだ。

「み、水無月天の『いとこ』の雨月昴、です。」

間違っても誤解されてしまわないようにいとこだということを強調する。

「ふーん...いとこ...」

比野守さんは目を細めて訝しげに見る。

だが、一瞬でニコッと笑顔を作った。

「初めまして、あたし比野守ひのもり那由佳なゆかといいますぅ!水無月さんのクラスメイトです。」

「あ...、はい。よろしく。」

「見たことないですけどこの辺の人じゃないですよねぇ?」

「ああ、えと...遠いところから来てて...」

「年上ですか?」

「合ってるけどなんで分かったの?」

いつも親戚とかと会うたびに年の割には子供っぽく見られるのでなんだか新鮮だ。

「なんだか、色々と冷めてる感じ...落ち着いた感じの人だなって思いまして!」

言い直しても今更な気がする。確かに自分でも冷めやすい質だとは思っているが面と向かって言われたのは初めてだ。


「わ、なゆ!急がないと遅刻するよ!」

「あ、そうだ。」

何やら慌てた様子のもう一人の子にそう言われ比野守がスマホで時間を確認した。

そしてスマホを鞄にしまう。

「じゃあ、また夏休み明けにね、水無月さん。それに...雨月うづき先輩も。」

気のせいか俺の名前を呼ぶとき敵意を向けられたような...

「はい。また。比野守さん。」

天は自転車を漕ぐ二人組みが小さくなるまで手を出すヒラヒラと振っていた。

ただただ無表情に、無感情に。


いつもは見せない表情の天にどう声をかけたらいいのか分からず立ち尽くす。


そのまま少し経ったあと先に動いたのは天だった。

「ねえ、昴。かけっこしようか。」

「は?かけっこ?」

「家の近くのコンビニまでね。負けた方がアイス奢りってことで。じゃあよーいドーン!」

そう言うや否や天は物凄いスピードで走る。

「あ、それはずるいだろー!」

そう抗議しながら俺も全力で足を動かす。

普段走ったりしないせいかなかなか足が進まない。

だけど懸命に天を見失わないように足を無理にでも動かした。


天のあんな顔は初めて見たから。

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