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エピローグ

「あー!あったぁ!」

そらが歓声を上げ一冊の本を掲げた。


「ほら!昴!限定版!限定版!!」

「あー、分かった。分かってるから店で騒ぐな!」

『まったく』と肩を竦め嬉しそうに笑う天を眺める。

仲春さんの家で散々アニメやらラノベやらに触れた天はあれ以来すっかり2次元の虜になってしまったらしい。

俺も共通の話題が増えた&同士が出来たってことで少し嬉しかったりする。まあ、敢えて口に出して言ったりはしないが。


というわけで天の強い要望で俺のオススメのラノベを買いに来ていた。

初めは普通に通常版を探していたのだが限定版もあるということを教えると『それを探す!』と言って聞かなかったのだ。

しかもこの町には元々在庫がないのか売り切れてしまったのかは分からないが限定版がなかなか見つからず何件も回ってようやく見つけた。

「じゃ!買ってくる!!」

急いでいるわけでも手に持ったそれが無くなるわけでもないのに早足で天はレジに向かった。



「ふっふーん♪」

川沿いの土手を通り家に向かって歩きながら機嫌良さそうに天が鼻歌を歌う。


「昴!今日はありがとうね!」

「俺も楽しかったし別にいいよ。」

「それでも!ありがとっ!」

そう言って天は本の入った袋をぎゅっと抱きしめた。


そろそろ頃合...かな......


「なあ、天。」

「ん~?なに?」

「俺...さ......」

「?うん。」

なにやら真剣な俺に違和感を覚えたのか天はこくんと首を傾げた。


ここで言わなきゃ始まらない。

スーッと息を吸い込んで俺は覚悟を決めた。


「俺、学校に行くよ。」

その決意は俺にとってすごく大きな決意。

二年もずっと拒絶していた場所。

だけどいつまでも拒絶しちゃいけないと思った。

俺だって、変わりたいと思ったから。


「学校?...どこの?」

「...成峡せいかい高校。」

「それって...」

天の通う高校だ。

「もう、どうせ元いた高校には行けないし、学力も足りないし。だから来年まで必死に勉強して転校生としてじゃなくて...新入生として天の学校に行くよ。まずは実家に帰って両親説得して、それでまた帰ってくる。ここに。とりあえず今はそれが目標。」

天はポカンとしていたがやがて

「そっか。」

と言った。


「じゃあ年上の後輩だ。」

そう言ってコロコロと笑う。

「ま、そういうことだな。」

「もう冗談だって。間に受けないでよ~。」

そして『あっ』と何かを思いついたように天が声を出した。

「私が昴の家庭教師をしてあげる!」

「か、家庭教師?」

「大丈夫!ちゃんと昴を合格に導いてあげるから!」

まあ、天なら大丈夫かもな。

少なくとも俺より学力が遥かに高いことは事実だ。

「お、お手柔らかに...」

「それは昴次第だね。」


二人笑いながら家へと帰る。

その手は自然と繋がれていた。



「ーーーということなんですが。」

初花いちかさんにこちらの学校に行くことを話す。

これからもお世話になれないか相談するためだ。

ここで断られたら第一段階から失敗だ。

自分の気持ち、決意などなど。ちゃんと丁寧に伝えたつもりだ。

あとは返事を聞くだけ。

嫌な予感が頭をよぎり思わず俯く。


「うん、わかってたよ。」

顔を上げた。


頭の中にはクエスチョンマークが浮かぶ。

わかってたって何が...?

ニコニコしながらあらかじめ用意していたらしい資料を机に広げる。

「私、結構家にいないことが多かったでしょう?いろんな学校に呼ばれてて。で、そのついでに昴くんのことを『昔馴染み』に相談したの。」

「昔馴染み?」

成峡せいかい高校現校長。」

「校長!?」

「ふふん、大丈夫!話はつけてきたわ!昴くんは二学期から通えるようになったわよ!」

「え、え...?」

だめだ。突然のこと過ぎて頭がついていかない。

初花さんはさらに話を続ける。

「まずは兄さ......昴くんのご両親にあって話し合っておいで。」

「えっと...それは元々そうしようと思っていたので。」

「あとは昴くんの覚悟次第よ。昴くんが嫌ならこの話はなかったことにも出来るけど...どうする?」

試しているのか初花さんは真剣な顔で俺をまっすぐ見てくる。

長い間の対人恐怖症のせいで逸らしそうになるもなんとか堪える。

「行きます!頑張って頑張って、親を説得して天と同じ学校に通います!」

「はい、よく出来ました!」

そう言って契約書やらを俺に差し出す。


「これで昴くんも成峡高校普通科『一年生』の仲間入りだね!」

......


「一年生?」

「うん、一年生。だって昴くん一年生やってないんでしょ?」

いや、まあ確かにそれはそうだけど...

「えっと...俺としては願ったり叶ったりというかむしろ嬉しいことなんですけど...それ、許されるんですか?」

「大丈夫、大丈夫!『ちゃんと』話はつけてきたから。」

なんだかすごく心配になってきた。


でも......

天と同じ高校に、学年に通える。

嬉しくないはずが...ないこともなかった。


「ありがとうございます。」

「いーえ♪」


ーーーピーンポーンーーー

そこで玄関の呼び鈴が鳴る。


初花さんが腰を上げかけるのを俺は制した。

「俺が出ます。」

嬉しいことがあったからか初花さんに感謝してもしきれないからか俺はそう言った。

そしてテンションがあがったまま玄関に向かい扉を開ける。


「はーい、どちらさまです......」

ピタリと言葉を止めた。

なぜならそこにいたのはとても、とても見覚えがある人物だったから。

「久しぶり。兄さん。」

「カ...カナ...なんで...」

「...?なんでって...兄さんがこっちに来る前に言ったでしょ?あと一週間くらい経ったら行くって。」

「でも一週間なんてもうとっくに経ってるんだけど...」

「すぐに行きたかったんだけど部活の顧問に頼み事されちゃってねー。ちょっと...というかだいぶ来るのが遅れちゃった。寂しかった?」

顔を近づけてそう言いカナ...雨月うづき奏多かなたはいたずらっぽく微笑んだ。

「あ、ああ、まあそうだな。」

ぎこちなくそう返す。

なぜなら先程から背中の方でトントンと誰かが近付いてくる音がしてるから。


「昴。」

その声は気のせいかもしれないがとても冷たく聞こえた。

「は、はい!」

「その子は...?」

「あ、はじめまして!ここの家の方ですか?あたし雨月奏多っていいます!雨月昴の1番大切な女の子です!」

「ちょっ!?ちょっとぉ!!」

何言ってんだこいつ!?

「へ、へぇー。一番大切な...ねぇ...」

頬を引き攣らせて天は笑顔を作った。

「お、おい!」

慌ててカナを端の方に連れていき小声で話す。

「何言ってんだ!」

「だって、兄さん。あの人ちょう戦闘態勢だったよ!兄さんは後ろ向いてたから分からなかったかもだけど!大抵の子はああ言えば諦めるって本に書いてたから大丈夫!兄さんを毒牙にかけようとする人はみんなあたしが退治するから安心して!」

そう言いグッと親指を突き出してくる。

それでどう安心しろと!?


「違うよ!違うんだよ!あの子は水無月みなづきそら!俺たちのいとこ!危険とかないから!」

「兄さん、ダメだよ!懐柔されてちゃ!あの子あれで結構戦闘力高いよ!」

「ゲーム脳かっ!?」

「昴...?」

そこで天が俺を呼んだ。そしてニッコリと微笑む。

「こんなところで立ち話もなんだし、中で話そうか?じっくり、ゆっくり...ね?」

その言葉に俺は首を縦に振るしかなかった。

2ヶ月を経てようやく完結させることが出来ました。

読んで下さった方、ありがとうございます。

感想等も随時受け付けております。

この作品は一旦ここで区切りとなりますが続編、新作も次々に挙げていきたいと考えてますので他の作品共々、よろしくお願いします!

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