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夜空に咲く星々

二十分くらい登った所で目的地についた。

普段鳴っている鐘の側。山の頂上。


そこは広場のようになっていた。

空を見上げるとやはり先程よりもいくらか綺麗に見えた。

「綺麗...」

天も同じことを思ったのかそう呟く。


いくら小さな山だとは言っても町と少し離れているからかとても静かだ。


『さあ、決戦の舞台は整えてやったぞ』と言わんばかりに。


「そ、そら。」

ヤバい。緊張しすぎて心臓が飛び出そう...

「なに?」

天が星を眺めながらそう聞く。その声はとても落ち着いていた。


「大事な話がある。取り留めない話になるかも...だけどさ......」

そう切り出すとビクッと天の体が震え、そこでようやく目が合った。

「...うん。」

「俺...さ、天と出会えて良かった。突然こんなこと言うのも変だと思うけど。」

「うん。」

「俺、ここに来るまで引きこもりっていうか、人とあまり接触しなかったんだ。家族とも...カナ...妹以外ともまともに顔を合わせてなかった。家の外だけじゃない。家の中でも俺の居場所はどこにもなくって...毎日、死にたいって、そんなネガティブなことばっか考えてた。でもさ、なかば追い出されるような形でここに来ることになって。」

頭の中でそのときの事を思い出す。


そらに会った。」

扉を開けたときにタックルされてそのあとに金属バットを剥けられたことは記憶に新しい。

「初めは初花いちかさんに娘がいるだなんて知らなくてすごく動揺したんだ。歳も近いし...やっていけるのか...ってさ。内心すごく焦ってた。」

過去にも色々なトラブルがあったから。


「でも天はさ、俺の閉じた心を無理矢理開けてくれたんだよ。誰かと一緒にいることが楽しいんだって、幸せなことなんだって教えてくれた。」


溢れる想いが止まらない。

天の顔も途中で恥ずかしくなってきてまともに見られないでいた。でも言葉は止まらない。


「天がいてくれたから...俺は救われた。」

ゆっくりと天に近づく。


「だから...だからさ......俺、俺......」


さあ言え。言うんだ。

頭の中で誰かがそう囁く。


恥ずかしさで死にそうだ。頭もクラクラする。


そのとき俺の中で何かがプツンと切れたような気がして気づいたらーーー


天の肩に両手を置き耳元に口を近づけてーーー


「好き...だ......」


そう言うだけ言ってバッと離れ先程よりも距離を多くとって背を向けた。


...ヤバい......ヤバい。

焦ってたとはいえいきなり肩を掴んで肝心なところをハッキリ男らしく言えないとか...っ!

俺どんだけヘタレなんだ!


ヤバい...恥ずかしくて......拒絶されるのが怖くて...振り向けない...


いくら、いくら『振られることが分かってたとしても』とても怖い。


しばらく静かな時間が流れた。

天が今どんな顔をしているのかも背を向けたままなので分からない。

何も言ってこない。振り方でも考えているのだろうか?


だいぶ時間が経ち恐怖と恥ずかしさでどうにかなりそうになっていたときーーー

背中に温かな感触を感じた。


「...天?」

手を前に回されギュッと抱きついてくる。

「えっ!?え、え!えー、えっとそ、天さん!?」

あまりにも突然のこと過ぎて頭がついていかない。

今俺天に抱きつかれてる!?


「......も...」


そんな小さな呟きが聞こえた。

だが小さ過ぎて聞き取れない。


「...わ、私も......」

今度はハッキリと聞こえた。

その声は震え涙で濡れている。


「わた、私も......す、好き...私も!昴のこと!す、...好き!!」


夢かと思った。

まさかそんなことを言われるだなんて予想していなかったから。

唐突過ぎて思考が停止してしまう。


「私も!私のほうがずっと...ずーっと昴のこと!好きなの!だから、いなくならないでっ!!ずっと、ずっと傍にいて!」

「...ああ。」

腹に回された天の手を掴む。


嬉しくて死にそうだった。

頬に温かな水が落ちる。

それを止めるすべは俺にはなかった。


「ずっとそらの傍にいる。」


強く天の手を握る。

儚くて、目を離すと消えてしまいそうな天が、どこにも行かないように。


確かな現実味を噛み締めながら空を見上げるとちょうど流れ星が群青色の空をスーッと流れていった。


一つだけじゃない。

二つ、三つと流れていく。


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