失恋
「出来たぁ!」
数学の範囲を全部やり終わり最後に簡単な模擬テストを解いたところで悠陽くんは力尽きたように後ろのソファに寄りかかった。
そしてすぐにハッとなり慌てて姿勢を正す。
「す、すみません!お客様の前で...」
「ううん、全然大丈夫。むしろ悠陽くん大人びた感じで全然中学生だなんて感じがしなかったから中学生っぽいところが見れて良かった...かな。」
「もう!からかわないでください!」
顔を赤くして悠陽くんはパタリと教科書を閉じた。
そこでゴーンと寺の鐘がなる音が聞こえた。
ここにきてすっかり聞き慣れた城山の鐘。
『城山』っていうのはここから割と近い山の名前で昔その山の頂上に城があったことから名付けられた山らしい。
年中無休で三時間置きにその時刻分の鐘を打つ。
ゴーン......ゴーン......ゴーン.........
心の中でその数を数える。
そして六回目の鐘の音がなった時点で音は途切れた。
六回目?
時計を見ると最後に見た時刻からおよそ3時間ほど針が動いていた。
「マジか...」
まだ俺の体内時計ではそこまで時間が経ってないのに。
あ、でもずっと時間とか気にする必要がない生活を送ってたからまあ体内時計なんて狂ってるに決まってるよな!
『決まってるよな』じゃねぇぇぇぇ!!
心の中でそんな茶番を繰り広げガクっと頭を抱える。
時間もないしもうこうなったら今すぐ突入するしか......
「ただいまー。」
玄関からそんな間延びした声が聞こえたのはその時だった。
「あ、叔父さん帰ってきましたね。」
パタパタと廊下を歩く音が聞こえ扉を開けて顔を出したのはやはり仲春さんだった。
「ただいま。」
「おかえりなさい。早かったですね。」
「ふふん、僕にかかればこんなものだよ!あ、昴くん!いらっしゃい!ちょっと待っててね今着替えてくるから!そのあとじっくりたっぷり語り明かそう!そう!朝まで!」
笑顔で怖いことを言い立ち去ろうとする仲春さんを肩を掴んで慌てて止める。
「仲春さん。聞きたいことがあります。」
「んー?なんだい?」
まるで俺が聞きたいことが何なのか分かったいるような含みのある口ぶりでニンマリと仲春さんは笑った。
「天のことです。落ち込んだって...どういうことですか?」
悠陽くんに言われてずっと引っかかっていたことを聞いた。
「そんなの決まってるよ。女の子が落ち込む理由...そう、失恋さ。」
まるでハンマーで殴られたような衝撃が走る。
失恋...?
そうか...天には好きな人が...
「昴くん...?」
ずっとそんな可能性はないとかってに思いこんでいた。
嫌な想像はしないようにしてた。傷つかないように予防線を張ってた。
天だって高校1年生。頑張り屋で、優しくて。
いつも明るくて、一緒にいると心が安らいで...きっと恋の経験だってある。
考えてみれば普通のことだ。
そうか......俺......
告白する前から振られてたんだな。




