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二人の勉強会

「とりあえず一時間です。」


突入するのは一度ゆっくり考えたほうがいいということで悠陽くんから提示された時間設定はそういう事だった。


「えー。」

「『えー』じゃありません。一時の衝動に任せて考えもなしに動いたてもいい方向に動くことは少ないんですから。」

「でも『やらない後悔よりやった後悔』ってよく言うし...」

「別に突入するななんて言ってませんよ。ただ時間を置いて考えたほうがいいってことで。」


なんだか同じ意味に聞こえる。

それって時間を置いて考えてやっぱりやめた方がいいって結論を出したほうがいいってことなんじゃ...

「とにかく今はダメです。」

そう悠陽ゆうひくんは釘を刺した。


頑固というか意志が強いというか。

悠陽くんの意思の強さを感じ首を縦に振った。

早く会って話したい衝動はあるがまあここまで待ったし、一時間待つくらいどうってことない。


というわけで一時間は各々(おのおの)やりたいことをするということになった。

悠陽くんは教科書を開き試験勉強。俺はなんとなく宛もなくスマホをいじる。


しばらくそうしていると普段はあまり気にしたことがない時計の秒針の動く音がやけに大きく聞こえる。

........

....


結構気まずい。

なんだか俺が此処にあるのが間違ってるんじゃないかとさえ思えてくる。


スマホを見てる振りをしてさりげなく悠陽くんを見ると悠陽くんは計算式を書いては教科書を眺め、やがて渋い顔をして消しゴムで消すという作業を何度も繰り返していた。

どうやら苦戦中らしい。


懐かしいな。

俺も昔は試験勉強を......あれ?やってたっけ?

記憶を辿るも試験勉強をした記憶はない。番数は覚えてる。中学に行っていた頃はいつも学年トップ。

小学校のときもほとんど百点しか取ってなかったように思う。


でも肝心なそんな番数を取るに至った敬意のほうが思い出せない。

普通に授業を聞いて学校から出される宿題をしただけだ。

放課後もそのまま家に帰ってもする事がないので市の図書館に行って学校の勉強とは全く関係の無い本を読み漁ってた。


そんな昔の記憶をなんとなく思い出し、よくないことを思い出す前に思考を止め俺は再びゲームを再開する。

だが、昔のことを思い出したからか悠陽くんの様子がより気になる始めた。


そして気がつくと俺は

「よかったら教えようか?」

そんなことを口に出していた。


「え?いいんですか?」

「まあちゃんと覚えてるかは曖昧だけど可能な限りでいいなら...」

多分大丈夫...なはず。

中学二年までは俺も学校に通ってたんだし。


「本当ですか!?わぁ!助かります!正直、もうどうしたものかと困ってたんですよ。」

そう言って『面目ない』という表情で悠陽くんは笑った。

「どれどれ...」

ソファから降りてカーペットの引かれた床に座り机の上の教科書を覗き込む。


なるほど...連立方程式か。解き方さえ覚えれば簡単だが覚えるまでが結構一苦労かもな。

先程悠陽くんが解いてたノートを見てどこでつまづいているのか分析する。

あー、分かった。代入法は大丈夫そうだけど加減法のほうか。


「これは『X』か『Y』の係数の数を揃える。」

「係数?」

そこからか...

「係数っていうのはこのXとかYの前についている数字のことだ。具体的にはこの問題だったら『2X』の『2』が係数。」

「あ、あーそうです。そうですよね!『係数』ってのがどれをさすかが分からなかったんです!」

あー、まあ確かにあるよな。そういうこと。

それが何かは分かってるのに正式な名前を知らないってやつ。

数学じゃなくても例えば何枚か入った食パンの入った袋を閉じているプラスチックの四角っぽいあれとか。

確か『バッグ・クロージャー』だっけ。

なんかバトルもののマンガに出てくる技名みたいでちょっとかっこいい。


まあ、それは置いといて

「続けるよ?それでこの数字を.........」

紙に数式を書きながら悠陽くんが納得いっていなさそうなところがあれば解説する。


あとは似たような練習問題を解けばーーー


「出来た!出来ました!昴さん!」

「うん、おめでとう。」

パチパチと拍手した。

「これでテストは怖いものなしですね!『ここは』!」

「ここは...?範囲ってまだ他にあるの......」

「...はい......」

悠陽くんはテスト範囲を取り出して渋い顔をした。


「...昴さんっ...!!」

そしてすがるように俺を見る。

「...オーケー。分かった。この際分からないところ全部教えるよ。俺の都合のせいで勉強時間取っちゃったのも事実だし。」

時計をチラリと見るともう一時間が経とうとしていた。

悠陽くんはよほど切羽詰まっているのかその事に気づいていない。


だが、まあ乗りかかった船だしそらと話したい衝動はあるがこのまま悠陽くんを放っておけないって気持ちもある。

多分悠陽くんが妹のカナ...奏多の姿と重なるからかもしれない。


ごめん、天。


心の中で手を合わせ俺は次の問題を教え始めた。

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