青白い光
音を立てないようにゆっくりと階段を登り一つの扉の前で悠陽くんは止まった。
そこに天( そら)のいるんだと瞬間的に理解した。
ゴクリと喉を鳴らし普段の数倍の時間をかけゆっくりと扉を開ける。
先程の悠陽くんの意味深な言葉を聞いたからか堂々と扉を開けるのははばかられたので数センチだけ開けて 中を覗き見た。
なんだかイケないことをしているような気持ちになってくるな。
いや、別にそんなことはないのだろうけど...多分。
部屋の中はカーテンが閉まっていて暗かった。
だが暗いのは全体的に見てということだ。
部屋の中心だけが青白い光を放ち、薄暗い部屋を照らしている。
床にはライトノベルと思われる小説やアニメのブルーレイBOXなどがいくつも積まれバリケードのようになっており、その中心にジャージ姿でヘッドホンを装着し膝を抱えて虚ろな目で今もパソコンで流れているアニメを眺めていたのはーーー
速攻扉を閉めた。
扉に背を向けてキツく目を瞑る。
「わかったでしょう?見ない方がいいって言った意味。」
悠陽くんはそう言って苦笑した。
「え...いや......でも......あれ?」
未だに現実が受け入れられず上手く言葉が出てこない。
「おじさんによると昨日からずっとあんな調子らしいです。」
昨日の朝から天の姿が見えなかったのはそういうことか。
「でも見たところによると仲春さんが原因なような気もするけど...」
天は全くそういうことに疎いという程ではなかったがここまでのめり込む程ではなかったはずだ。
ラノベも少しだけ。アニメはほとんど見ないって感じだったのにいったい一晩でなにがあった......
「まあ、そうですね。『おじさんは落ち込んだときは二次元に浸かるのが一番だ』って言ってましたね。あと『この機会に僕の好きな作品を布教するんだ』って息巻いてました。」
いや、言ってることは理解出来るけど...
それでもこれはハマり過ぎだろ。
それに落ち込んだ?
勉強のこととかか?
一昨日までは普通だったように見えたし。
いや... でも......
まあ、気になるが後回しだ。
とりあえず...
俺は視線を天井に向け呟いた。
「突入するか。」
「え、えぇぇぇぇっ!?なんでそんな結論になるんですか!」
「だって二次元にハマるなんてよくあることだろ?」
俺にも似たような経験があるからわかる。
「よくあることなんですか!?...いや、でもとりあえず今は辞めておきましょう。一度もっとじっくり考えてからでもきっと遅くはありません。」
悠陽くんは俺の服の袖を掴み上目遣いでそう言った。
「......っ!?」
その仕草がなんだか可愛らしくてついドキドキしてしまう。
落ち着け。
見た目は可愛らしくても相手は男だぞ?
俺はノーマルなんだ...いや、ノーマルなはず...だよな?
なんだかだんだん分からなくなってきた。
「昴さん?」
その声でハッと現実に戻る。
危ない、危ない。
俺の中で何か新しい扉が開くところだった。
「わ、分かったから!と、とりあえず!下に降りようか。どうするかはそれからってことで。」
熱くなった顔を見られないように素早く階段を降りた。




