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会わないと

悠陽くんにリビングに通されソファに腰を下ろした。


失礼だが仲春さんの家だから部屋にアニメのポスターやタペストリーが飾られていたりと部屋の中にアニメグッズが溢れているんだろうなっていう想像をしていたのだが...全然そんなことは無かった。

見渡す限りアニメ系のグッズは見当たらずリビング全体がオシャレに纏まっている。

ふとソファの前に置かれた小さめの机を見ると教科書と計算式の書かれたノート、そして筆記用具が広げられていた。

テスト期間って言ってたから勉強でもしていたのだろうか。


だとしたら俺ってもしかして物凄く間の悪い...っていうか空気の読めない来客時だったり!?

うわぁ...なんだか凄く申し訳ない気持ちに...

「お待たせしました。」

そこで小さなお盆を持った悠陽くんが戻って来た。

「よろしければ召し上がってください。」

丁寧に綺麗なガラス製のコップに入ったお茶ときな粉と黒蜜のかかったわらび餅を俺の前に並べ悠陽くんは向かいに座った。


「勉強?」

「あ...」

そう聞くと悠陽くんは忘れてたと言うように教科書とノートを閉じて重ね、机の端に置く。

「すみません、散らかしちゃってて。」

いや、散らかしてた風には見えなかった...というか『邪魔だ!』と言うような意味で言ったわけじゃなかったんだけどなにやらそういう風に聞こえたらしい。

「いや、テスト勉強してたのに急に来て悪かったなって!...というか本当に空気読めなくてごめん!」

「へっ?...あ、いえ!全然大丈夫です!ちょうど集中力も切れてましたし、ずっと分からない問題とにらめっこしてただけでしたので。」

そう言いブンブンと手を振りフォローしてくれる。

本当、すごくいい子過ぎてこっちが申し訳なくなってくる。

「そ、それにしても広い家だよね。仲春さんってここに一人で住んでるの?」

話題転換のためそう言う。

「あ、いえ。ここは元々僕の祖父母の家なんです。でも今は......」

そこまで言って悠陽くんは口ごもった。


そして悲しそうに目を伏せる。

その様子を見て何となく察した。

俺空気読めなさすぎだろ。

いつもどうにかしようとして、でもから廻ってテンパって......結局余計な、取り返しのつかないことをしてしまう。


そうか...悠陽くんのおじいちゃんおばあちゃんは......

「祖父母は今温泉巡りの旅行に行ってるんです。あと一週間...あと一週間遅く行ってくれたら僕も一緒に行けたのに!」

「そういう意味!?」

つい口に出してそうツッこんだ。

俺てっきり......


「...?そういうってどういう意味ですか?」

「いや、なんでもない......気にしないでくれ。」

誤魔化すようにお茶を飲みやけに乾いた喉を潤す。

「それでそらは上にいるの?」

「あ、はい。そうです。そうなんですけど...」

悠陽くんはそこまで言ってやはり目を逸らした。

「見ないほうがいいと思います。」

見ないほうがいい?

「どういうこと?」

「どういうって......んー、説明するのは難しいんですよね...でも...きっと今の天ねぇは見ない方がいいと思います。」

ますます意味がわからない。

まるで何かそこに良くないものでもあるような言い方だ。


でも...本当にそこに何か良くないものがあったとしても...

「お願い。それでも俺は会いたい。」

「いや...だから。」

「お願い。」

もう一度はっきりと言う。

「会わないと...なにかしないと、なにも変わらないから。」


ここで辞めるのは簡単だ。

でも辞めたくない、逃げたくない。

大事なものが消えていくのは怖いから。

昔みたいにただただ大事ものが消えていくのを呆然と突っ立って眺めているだけなのは辛いから。


悠陽くんは渋っていたが俺の真剣さが伝わったのかやがて小さく息をついた。

「分かりました。案内します。」

そこで悠陽くんは一旦言葉を区切った。

「きっと...見れば分かると思います。見ない方が良かったってことが。...それでも意思は変わりませんか?」

「変わらない。」

悠陽くんのその問いに俺は即答した。

それを聞き悠陽くんはゆっくりと立ち上がる。

「ついてきてください。」

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