解決
「おおっ!!」
正午前。俺は地図アプリを見ながら総合文化センターに来ていた。
本当は二時間前には家を出ていたのだが地図を見ていたにも関わらず道に迷ってしまったのだ。
あれだ。あんなところに線路が通っていて踏切のある通れるところを探すのに遠回りしたのが原因だ。
ともあれ俺は遂にアニメ『RE:LOAD』の原画展に来ることが出来た!
入口の案内用の看板を見るだけでもテンションが上がる。
ひとまず入口にあるアニメのキービジュアルをスマホのカメラで撮り入口に向かう。
「はい、どうぞ。」
そこにいたスタッフのお姉さんにこのイベントの概要が書いたチラシと この町のことや文化センターの今後のイベントなどが書いた紙を貰いいよいよ中へ!!
原画の撮影は禁止らしいが中に作られた教室のセットやその上に乗ったデフォルメされたキャラクターのイラストは撮影オッケーらしい。
「ほぉ!...おおっ!!」
画面越しに見たキャラの姿がこんなに大きく張り出されている。
しかもその横や下には作中に登場するキャラクターの紹介やそのシーンの解説など誰が見ても楽しめるように工夫されていた。
そしてそのアニメのシーン画像の次にあったのはアニメ作画時のラフ画像だ。
初めにどんなラフがあってそのシーンが描かれたのかが順を追って張り出されている。こんなのなかなか見られないお宝だ。撮影厳禁なのが悔やまれる。
仕方がないので時間をかけてそれを眺め脳内メモリに保存した。
そして部屋の中心には二つのガラスケース。
一つはそのアニメのグッズや書籍だった。
飾っているだけなので購入は出来ない様ではあるが。
よし、帰ったらネットで見てみよう。
そしてもう一つは......
「これは...!!声優さんのサイン!!それに監督さんやキャラクターデザインの人のもっ!!それに...それにこれはっ!!実際に使われた台本ッ!?」
凄いっ!!ヤバい!!こんなお宝!
確かにこういうイベントなら俺の住んでいたところのほうが圧倒的に多い。
声優さんとは会おうと思えばいくらでも会えるのだ。お金と運を持ち合わせていれば。
だが俺は今まで行きたくても行けなかった。
あの場所にいた頃の俺はイベントに行くどころか自分の部屋の外にさえまともに出ることが出来なかったのだから。
これを見られるということがこんなにも胸を熱くさせ、こんなにも幸せなことだったなんて...!
「うぉぉ...ほぉ......」
興奮しているからか言葉にもならない歓声が口から漏れる。
傍にいた何人かの人がスーッと遠ざかって行ったがそれも気にならないくらい俺はそのお宝に魅入っていた。
欲しい!というかせめて写真に撮りたいと思ってもそのサインの隣にあった撮影厳禁の文字で理性を取り戻す。
ならせめてと頭の中記憶しようとじっとそれらを飽きることなく眺め続けた。
「...ふぁ......」
「うんうんっ!これはやめられないよねぇっ!!わかるっ!わかるよ!!その気持ち!もう僕の心は『RE:LOAD』一色さ!これは帰って速攻で特典付きのブルーレイを予約してグッズも一通り揃えなくちゃね!」
「そうですよね!わかりますその気持ち!俺も早く帰ってもう一度一話から見直したいと思って......って!?」
つい返事をしてからいつの間にか隣にいて同じような行動をしていた人物を慌てて見た。
いつの間にいたんだ...というかどれだけ集中してたんだ!?
いきなり知らない人と意気投合出来るなんてアニメってホント不思議!!
と心の中でツッコンだがその人物は『知らない人』ではなかった。
爽やか系のイケメンフェイス。スラリとした長身。ふわふわした髪型。そしてーーーオシャレな上着の奥で見え隠れしているアニメのオリジナルTシャツ。
「仲春さん!?」
「やあ。こんにちは。昴くん。奇遇だね。」
「こ、こんにちは。」
「君は今日初めて?」
初めてって...このイベントに来たのがってこと...?
「は、はいそうです。今朝このイベントのことを知って...それで...す、好きだったので......」
言葉足らずではあったがちゃんと仲春さんには伝わったようで仲春さんは満足気な顔で『うんうん』と頷いた。
「そっかぁ...僕もこの作品は大好きなんだよ。ここに来るのは今日は六日目さ。」
全然奇遇でもなんでもなかった。
っていうか六日目って!?それってあれだろ!このイベントが始まって今日で六日目らしいから......毎日来てるって事!?
大丈夫!?確かこの人警察官なんじゃ.......
「...あの...仕事は......」
「仕事?そりゃあちゃんと勤勉に働いてるさ。今日は午後からの出勤なんだ。他の日は空いた時間に少しだけ来ている程度だよ。一日中ずっとここにいられないのが本当に悔やまれる!」
「そ、そうですか...」
色んな意味でヤバい人だとは初めて会ったときから思っていたけどまさかここまでとは......
でも目を輝かせて頬を弛ませるその表情から本当にこの作品が大好きなんだということが伝わってくる。
同じものが好き同士なんだか俺も嬉しかった。
「昴くんは誰推しだい!?ちなみに僕はヒイラギちゃん推しなんだけど!」
ヒイラギというのはこの作品のメインヒロインの都井岬柊のことだ。この作品の1番の鍵になる大事なキャラクターだと言ってもいい。
見た目性格とも俺の好みにもドストライクのキャラクターだ。
「仲春さんもですかっ!俺もヒイラギ推しなんです!」
「本当かい!こんな近くに同士がいただなんて!この作品はヒイラギちゃんよりニーナちゃんのほうが人気だからねぇ。まあ僕はニーナちゃんも好きなんだけど。」
ニーナというのは作中に出てくる主人公の妹『九重花新夏』だ。
確かにニーナ推しは多い。
「もしよかったらこの後お茶でもしながら語らないかいっ!?」
食い気味に興奮した様子で仲春さんが顔を近づけきた。
「なっ!?な、仲春さん!?こ、このあと仕事があるんじゃ......」
慌てて距離を取ってそう言うと仲春さんは燃え上がっていた火が鎮火したように『はっ』となって落ち着きを取り戻した。
「そうだったぁ〜〜っ!」
頭を抱え仲春さんはガックリとなった。
そして何を思いついたのか俺の両肩に手を乗せて顔を近づける。
「昴くん、今日って暇!?」
「あっ...は......えっと、いや暇じゃない...です。」
つい「はい」と言いかけたがそもそもの目的をようやく思い出す。
ここに来て興奮して忘れかけてたけどそもそも俺はここに天がいるかもという可能性を信じて来たんだ。いないと分かった以上天がいそうな場所を手当り次第探していく必要がある。
広いこの場所で自転車一つで探すのはほぼ不可能に近いがそうするしかない。
「何か予定があるのかい?」
「それは...天を探しに......」
うっかり言ってからハッとしたが仲春さんはきちんとその言葉を聞いていた。
そして『おおっ』となぜか嬉しそうに声を上げた。
「それなら問題ないよ!天ちゃんにもきっと会えるよ!ちょっと僕の家の住所と地図書くから待っててね!」
「仲春さん、天の居場所が分かるんですか!」
じゃあ、今の口ぶりからして天は仲春さんの家にいるってことか?
ああっ!そうか!
頭の中でバラバラだったパズルのピースが繋がっていくような、そんな気がした。
初花さんの大丈夫だという言葉の意味がやっと理解出来た。
初花さんの言ってた『男の子の家』って仲春さん家ーーッ!?
仲春さんの歩いていったほうを見ると仲春さんがスタッフのお姉さんと何やら話しペンを借りていた。
そして傍にあった机で紙に何かを書き込みペンを返し戻ってくる。
なぜだろう。
仲春さんがペンを返すとき受付のお姉さんがゲンナリしていたように見えた。
「やあ、お待たせ!はい、どうぞ!」
「はあ...ありがとうございます。」
「僕はこれから仕事だけど鍵は空けとくように言っておくからゆっくりくつろいでね。初花さんにも連絡するし!それに夜になったら帰れると思うから。...ああ、もうこんな時間か!僕はもう行くけど昴くんはどうする?」
「俺ももう出ますよ。」
別のスペースにでグッズ販売もしてたからそこに寄って。
「よし、じゃあ出口まで一緒に行こうか。」
共通の話題を持っていたことが嬉しいのか仲春さんは俺の手を握って楽しそうに出口まで歩いて行く。
ひッ!?握られた瞬間なんかゾワっとした!?
でもイケメンだからなんか絵になる感じが!
「ありがとうございましたー。」
イベントスペースから出るときにゲンナリした顔のままスタッフのお姉さんがそう言った。
「仲春さん、あの人と何かあったんですか?」
何もなかったはずがない。ペンを借りるとき何か話してた様だし。
「んー...特に何もないよー?あー、ここ最近毎日顔合わせてるから顔覚えられたのかな?」
「そりゃあ毎日来てるんですからね!?」
しかも毎日こんな爽やか系イケメンがアニメのTシャツを装備し恍惚の表情でハアハア原画を眺めていたらそりゃあゲンナリもするだろうよ!
「まぁ、いいじゃないか!〜~~♪」
結局そのまま『RE:LOAD』のオープニングテーマを歌いながら(超上手い)上機嫌で歩く仲春さんと出口まで歩いた。
手を繋いだまま。




