表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/46

誰にも奪わせない

「ん...んん......」

目が覚めた。

目を開けて最初に見えたのは最近見慣れて来た自室の天井だった。


「...ん......」

頭が働かない。寝起きだから?

昨日どうやって布団に入ったのかも思い出せない......というか夕食を終え、風呂に入った後くらいからの記憶が全然なかった。


なにか...大切なことに気づいたような気がするのだが...


とりあえず起きようと思い夏場だというのにやけにしっかりとかかった布団をどかそうと両手を動かそうとしたのだがなぜか右手が動かない。

左手はしっかりと動くのに...なんだろう...まるで右手だけが拘束されているような......


「...ッ!?」

ようやく視線を下に向けたことでその理由がようやく分かった。

ベッドに寄りかかるようにして初花さんが眠っていたのだ。

俺の右手をしっかりと握り、枕にして。

恐らく握っている最中に寝落ちをしたのだろう。

「...ん......す...ばる...くん...」

寝言なのだろうが急に名前を呼ばれびくっと全身が震えた。

「...ふふ......そらと一緒に......親子丼......」

一緒?親子丼...?


まあ、いいか。単なる寝言なのだし深く考えるのは失礼か。それに今大事なことはそこじゃない。

昨日の記憶......


「あ...そっか......」

思い出した。

夕食前に天が男の家に泊まると言うことを聞いたんだ。

その事実を嘘だと思いたい心境からうっかり記憶の奥底にしまいこんでいた。

それから風呂の中でずっとぼーっとして...

そこからの記憶がない。その事を意識がはっきりしてきた今になってようやく思い出した。

恐らく...というかほぼ確実に俺は風呂でのぼせて倒れたのだろう。

その証拠に俺の額にはもうだいぶぬるくなったタオルが置かれており、初花さんの足元には水の入った洗面器が置かれていた。


ずっと見ててくれたのか...こんな俺なんかを...

こうして傍にいてくれる人がいるというだけで安心する。

俺はここにいていいんだって...そう思えるようで。

初花さんを起こさないように左手を使ってゆっくりと起き上がりそっと右手を抜き取る。

初花いちかさんが上に乗っていたからかジンジンと右手が痺れた。


現在の時刻は午前七時過ぎ。

いつもよりかなり早い時間に目が覚めたみたいだ。だが頭はスッキリしている。偏頭痛もしない。


初めてこんなにスッキリ目覚めたのだからなんだか二度寝をするのも勿体なくて俺はベッドから抜け出した。

着替えをしようにも寝ている初花さんのいる部屋でするわけにもいかず静かにタンスを開けて外着を取り出し洗面所に向かった。

そうだ、今日は俺が朝食を作ろう。


今すぐ天と会いたいという衝動は心の奥にしまい込む。

闇雲に探しても見つかりっこない。

初花さんが起きたら天の居場所を聞いて迎えに行こう。


前まではその日の予定なんか決めることはなかった。

ただその時にやりたいことだけをやって。


ここに来てやりたいことが増えたような気がする。

気持ちも人間関係もリセット出来て、俺の居場所を作ってくれた人達がいたから。


だから......だから......



もう誰にも奪わせない......

............

......

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ