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酷く頭がボーッとする。

口元まで湯船に身を沈め俺は視点の定まらない目で揺れる湯に視線を落としていた。

ボーッとするのはのぼせてきたからなのかそれとも......


どのくらい湯船に浸かっていたのかすらも分からない。

入ったばかりのような気もするしもう何分も入っていたような気もする。

風呂場には時計がないのだからそれすら不明だ。


いつもならさっさと上がって部屋に籠るのだが今日はそんな気にもなれなかった。

ずっと頭の中で嫌な気持ちが渦巻いていた。

でものぼせてきたお陰か今はもう何も考えられない。

広めの湯船の中で手足を伸ばす。

少しだけ開けた窓からは涼しい風が吹き込み気持ちがいい。


こうやってゆっくり湯船に浸かるのは久しぶりかもしれない。

実家では誰もいない時間に素早くシャワーだけ浴びる程度だったのに。


なんだか昔のことを思い出した。

俺がまだ学校に通っていた時。

休日に家族で隣の県まで遊びに行ったのだ。その帰りには外食をし、銭湯に行った。そこはいわゆるスーパー銭湯というもので成分の違う風呂やサウナ、打たせ湯など色々な種類があって賑わっていた。その中で父親と並んで入って大きな湯船で足を伸ばした。


気持ちよかったなあ...

あの頃の記憶はもうほとんど残ってないけどその時のことはなんとなく覚えている。

リラックス出来て、なんだか心も温かくなって...


もうそんなことは二度とないのだろうけど。

俺は父さんを...家族を裏切ったのだ。

信頼も期待も何もかもを裏切って心配ばかりをかけて...


もう何度思ったか分からない『ごめんなさい』という言葉を心の中で言う。


取り返しのつかないことをした。

一度失われてしまったものは簡単に戻らない。

信頼を作り上げることはとても大変です難しいとことなのに壊すことは容易たやすいのだ。


霞む頭の中にそらのコロコロ変わる表情が浮かんだ。

あの顔も俺だけに向けられたものではないと言うことは分かっている。

俺にとって天が特別でも天にとっては違うってことも......


特別...?

自分で思ったことなのに無意識にそう思ったことに疑問を感じた。


今俺は天のことを『特別』...だと思った...のか...?


いつからそう思ってたいたのだろう...

自分でも気づかないうちに大切なものが出来ていたのだろう...

あの日俺は決めたはずなのに。『大切だと思っていた人』に裏切られたあの日に。

もう自分勝手に誰かに期待して依存するのはやめるって。

自分だけを頼りにしていくしかないんだって。


でも......


「...そっ...か......」

しばらく声を出していなかったせいか掠れた声が出る。

視界もだんだん霞んできた。


「俺は......」


そのまま俺の意識は深いところに沈んでいった。

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