彼と私
昨日も、いや、今日か。まあ、私はいつも通りまた寝落ちするまで勉強をしていた。
前に本屋で購入した私には難しすぎる大学の入試対策用の参考書。
大学の名前は表に書かれているも机に散らばったそれらの本の大学名はバラバラだ。
毎日そんな事を続け気絶でもするかのように眠る。朝はセットしておいた目覚まし時計に起こされ眠い目を擦って、その事を誰にも悟られないように平然と過ごす。
夏休みに入ってからはこれが私の日常だ。
テレビとかで友達同士で遊んでいるところがチラッと映ると胸がきゅっと痛む。
でも昴がーーーいとこである雨月昴が私の家に来てからというもの私の日常はほんの少しだけ色付いた。
灰色に染まったまるでプログラムされたプロセスをずっと繰り返しているだった日常が変わった。
この感情になんて名前をつければいいのか......
星が好きな理由も見つけられなかった私がそんなことが分かるはずもない。
モヤモヤさした気持ちで勉強なんて集中出来るはずもなく私はベランダに出て傍に付けたハシゴを登って屋根に寝転がった。
夜明けが近いとは言ってもまだ星は空に輝いている。
そのまましばらく星空を眺めているとキラリと光るものを発見した。
その星は空の上をスっと流れる。
せっかくなのでお願いをした。
単なるお呪いだとは分かっていても何故だかそうしたいと思った。
この先ーーーずっと昴とーーーー
しばらく屋根の上でウトウトしているとカシャンと家の門が開く音が聞こえた。不思議に思って落ちないように下を見てその音を立てた人物を発見するとドクンと心臓が跳ねる。
「...昴?」
どうしてこんな時間に...?
昴のただ事では無い様子に何故だかとても心配になり急いで部屋に戻って着替え外に出た。
もういないかとも思ったがあっさりと昴は見つかった。
ゆっくりと自転車を漕いでどこかに向かっている。
ますます心配が募り自分の自転車を静かに引っ張りだして昴の後を追う。
追いつこうと思えばすぐにでも追いつけたが、私の早とちりで昴は本当はコンビニにでも行くつもりだった...なんてことだったら恥ずかしいと思いゆっくりと距離を取って進む。
三十分ほど漕いで昴の目的地に辿り着いた。
「ここって...高校...?」
何で昴がこんな所に...
見つからないように距離を取って自転車を止め隠れる。
じっと様子を伺っているとジャージ姿の少女が昴に話しかけた。
「あれって...比野守さん...?」
なんでこんな時間に昴と...
会話は良く聞こえないが会話を重ねる毎に比野守さんは声を荒げ怒っているようだった。
全部は聞き取れなかったが『天』と私の名前が何度も聞こえ心臓が跳ねた。
そのまま二人が校舎に入って行ったのを呆然と見送る。
私が関わっているのは確かだ。悪い予感しかしない。
前にデ...デートもしていたし二人は私の知らないところでどこまで進展していたのだろう。
昴の『過去のこと』は昴が来る前にお母さんに聞いた。
初めは話したくなさそうだったがしつこく私が聞いたら教えてくれたのだ。
私と似ていると思った。
同時に私が助けてあげたいという気持ちも。
でも助けられたのは昴じゃないーーー私のほうだ。
好きなものが好きな理由を教えて貰った。
心が傷付いたときーーー本人は自覚がないだろうけど私の傍にいてくれた。
私が振り回しても笑いながら付き合ってくれた。
こんな私とーーー何も持っていないーーー努力することでしか何も手に入らない凡人で出来損ないで役立たずで無価値な私のことをーーー
そんな昴がどこか遠くに行ってしまう。
そんな恐怖から逃げるように私は走り出した。




