頑張り
「ふぁぁ...」
無意識にあくびが漏れた。
それもそのはず現在の時刻は午前3時。
ここに来てからは割と規則正しい生活を送っていたからこの時間まで起きていることは久しぶりだ。
やりかけのゲームを閉じてゲーム機を置く。
ずっとゲーム画面とにらめっこしていたからか頭の奥が鈍く痛んだ。
「...水でも飲むか...」
カラカラの喉を潤そうとベッドから体を起こし部屋の外に出る。
チラリと天の部屋を見るとやはり今日も部屋の明かりが漏れていた。
水を飲むのは後回しにして天の様子をこっそり見に行こうと部屋に近く。
気付かれないようにそっと開けて様子を確認したら戻ろう。
そう思いドアの持ち手に手をかける。
すると力をまだ入れていないのに扉は内側から開かれた。
「うおっ!」
扉に当たらないように素早く避ける。
「...昴?」
眼鏡をかけた天と至近距離で目が合った。
「......」
まさか同じタイミングで天が扉を開けるとは想像もしていなかったため言い訳すら用意出来ていない。
「なにか用があった?」
「いや...そうじゃなくて......部屋の明かりがついてたからさ。」
天が先程までいたであろう勉強机が視界に入った。
今日もノートや参考書が机の上に広がっている。
「ああ...まあ勉強だよ、...学校の。喉乾いたから水でも飲もうと思って。」
どうやら天が部屋から出てきたのは俺と全く同じ理由だったらしい。
「...じゃあ、一緒にいくか。俺もちょうど喉乾いてたし。」
「......ん...」
眠そうなとろんとした目をして天はそのまま俺の横を通り過ぎ階段に向かっていく。
その足取りはフラフラしていて危なっかしい。
俺は半分ほど寝ている様子の天の手を握って下まで誘導した。
※
「ほら。」
二つのコップに冷蔵庫にあった麦茶をついで今にも寝そうな天に渡す。
「......んん。」
眠そうに天は瞼を半分ほど閉じながら両手でコップを持ち喉に流す。
俺も自分のコップを持って天の隣に座った。
「...大丈夫か?」
「んー...だいじょーぶ...だいじょぶ。」
全然大丈夫そうには見えない。
呂律もあまり回ってないし。
「勉強...してたのか?」
「ん。」
短く天は肯定する。
「机の上...見えたんだけどさ...ずいぶん難しそうなのやってるんだな。赤本とか。習ってないとこもあるのに。」
いよいよ俺は今日まで聞くに聞けなかった質問を口にした。
「あー...まあね。」
それだけ言って天は口を閉ざした。
よく見ると船を漕いでいる。
そろそろ眠気が限界に達しているのかもしれない。
「あー、なんでわざわざあんな難しそうなのやってんだ?授業の復習とかじゃなくて。」
「......」
返事が返ってこない。
天の顔を覗き込むと天は目を完全に閉じていた。
一番聞きたいことだったのにその答えを聞くより先に天の限界がきたらしい。
「...はあ...」
まあもう遅い時間帯だし天は元々眠そうにしていたのだから仕方ないのだろうけど。
ここで寝ることないだろ...
無意識に溜息をついてからコップを片付けるために立ち上がる。
「......自分の場所を守るため...私は...ここにいていいんだよって...必要とされたくて...いらない子には...なりたくないから...」
背を向けた俺の耳にそんな小さな声が聞こえてくる。
まだ完全に寝た訳ではなかったらしい。
「それってどういう...」
ーーードサッーーー
「天...!?」
振り返ると天はソファの上に横になって寝ていた。
結局この日俺はもう1度その言葉を問いただすことは出来なかった。




