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心はそっと嘘をついた

「いっぱい撮ったね。」

俺のスマホで撮った写真を眺めながら天は嬉しそうに微笑んだ。


「飾ってる絵、全部撮ったからな。」

時間にして一時間。

天は全ての絵の前出ノリノリでポーズを取り俺は腕を引っ張られ連れ回された。

自分で写った物は一つもない。

それでも天が楽しそうにしているだけで俺は満足だった。


腕にはめた時計を見る。

うん、そろそろいい頃合かもしれない。

初花いちかさんと合流したほうがいいかも。

あまり合流するのが遅れるとそのまま帰る時間も遅くなるからな。

ここに来るまで一時間くらいかかったのを考えると帰りもそのくらいかかるだろうし...

へたすると帰り着くのが夜中になってしまう。


「なあ、そら......」

「人の目の錯角ってすごいよね...」

俺の言葉はそんな天の声で天には届かなかった。


「パッと見ただけだとよく分からない絵に見えるのに写真で撮ったら絵が飛び出てるみたいに見えて...」

「...天...?」

先程までの笑みは隠れ天は表情を暗くした。


「...人が人を見る目も同じかもね。見えてる部分だけで勝手に判断してそれがその人の全てだって思い込んで...上手くやろうと思っても上手く出来ない人だっているのに...」

誰に言うというより独り言のようにポツリポツリと天は言った。


「......」

何て声をかければいいのかが分からない。

だってそれは俺も以前思ったことがあるから。

俺の表面だけで周りから勝手な評価を受け俺の内面は誰も見てくれなかったあのときに......


「そろそろ出よっか。お母さんに連絡しないと。」

暗い顔を隠し無理矢理作ったと分かる笑顔を浮かべそらは言う。

「...ああ。」

俺はそう言うしかなかった。


天は何か辛い想いを内に秘めている。

それは決していとことはいえまだ浅い付き合いの俺なんかが踏み込んではいけないもので...

天が苦しんでいると知っていても何も出来ないことがますます俺の胸を締め付けた。




初花さんに連絡を取り待ち合わせ場所に向かう。

「あ、そういえばお母さんが夜ご飯は外で食べて帰ろうって言ってたよ。昴も何食べたいか考えててね!」

笑顔を浮かべた天がそう言って見上げてくる。

機嫌がいいのか鼻歌を歌いながら。


「分かった。」

この笑顔は無理矢理作っているものでないと思わずにはいられない。

まるで結局見て見ぬ振りしか出来ないと言う現状から目を背けるかのように。


「...ん?」

今......

「昴?どうしたの?」

「...ちょっとトイレ行ってくる。後からすぐ行くから。」

嘘だと悟られないように俺は自然を装って天にそう言った。

「それなら私待っとくよ?」

「いや、すぐ追い付くから先に行っててくれ。初花さん待たすのも悪いし。先に合流して夕飯の場所でも決めててくれ。」

「...?んー、分かった。じゃあ先に言っとくね。」

疑問を浮かべながらも天は応じてくれた。


天の姿が見えなくなるのを見届けてから俺は先程通った店の物置へと繋がる人通りのない狭い通路の辺りへと戻る。

店のスタッフもこの時間は使っていないのか人がいなかった。

少し奥へ進むと......やっぱりいた。


先程ちらりとではあったが人の気配を感じたのだ。

明かりもなくその姿は暗闇に包まれている。

「...っ........っ...うぅ......」

体育座りをしたその人は泣いているのか喉の奥を詰まらせる。

座っているからか凄く小さく見えた。


俺に気づいたのかその人ーーー少女はゆっくりと顔を上げた。

その目には涙が伝った跡が残っている。


「...ひくっ......ご、ごめんなさい...すぐ出ていきます。」

そう言って少女は慌てて立ち上がった。

どうやら俺を店のスタッフか何かと勘違いしているらしい。

「いや...!俺は...店の人じゃないから」

「え...?じゃ...じゃあなんなんですか?」


「いや...そこを通ったらあなたがいることに気づいて...それで...ただならぬ様子だったので...」

少女は怯えるように後ずさる。

それを見て何か勘違いしてるのではと慌てて補足する。


「ち、違うんです!ナンパとか変出者とかそういうんじゃなくて!ただ...心配になって......」

「......」

ヤバい...余計不審者っぽく聞こえたか...?

「...お人好しなんですね...見ず知らずの人に......」

悲しそうな顔のまま少女は微笑んだ。


「すみません...ありがとうございます。...もう大丈夫ですから......」

そのまま少女は涙を拭って立ち去った。

なぜ泣いていたのか、その理由は聞けなかった。

中学生くらいの子だったな。

悩みも尽きない時期だろう。

親や友達、進路とか...

ろくに中学に通ってなかったから俺はよく分からない。


頼れる人がすぐ近くにいるのなら愚痴も言える。困ったときは頼れる。泣き言も言える。


だけどそらは......

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