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近くにいるいとこ 空高くの女神さま

フロアのちょうど中央辺りに位置するイベントスペースは思ったより人が少なかった。

これならゆっくり見て回れそうだ。


「おおっ!!」

「あ、天!まだ入場料払ってないから!」

入場料を払う場所であるゲートを素通りしてそのまま中に入ろうとした天わ慌てて呼び戻す。


受付に立ってた係員の人がそれを見てクスクスと笑った。

俺が何かした訳じゃないのに俺まで恥ずかしくなってくる。

当の本人は絵が飾られている中をワクワクした様子で見続けている。

もしかしたら目先の事に集中しているときは他の事が目に入らなくなるたちなのかもしれない。


天を呼び戻し先程渡してそのまま預けていたお金で入場料を払う。

「じゃあ行こう行こう!」

「あ、おい!引っ張んな!急がなくてもそこは逃げないから!」

しかも本人は無自覚なのかもしれないが入場料を払う際に返されたお釣りは自分の財布にしまったな...

一応抗議の目線を送るも目が合わないためそれも届かない。


...でもまあいいか...そんな自己中心的で世知辛い事を言ってこの笑顔を奪うのも忍びないし。


結局俺はそのままテンションの高い天に腕を引っ張られズルズルと中に入った。



「なんか変なの。」

テンション高く入場した天が絵を見て発した最初の言葉がそれだ。

さっきまでのテンションはどうした。


「まあ、物は試しだろ。ちょっとそこに行ってみろよ。」

手近にあった絵の傍に天を立たせる。

床や壁を使ってやたら大きく描かれたクジラのところに。

「あー...そこしゃがんで。...あー...そうそう。...はい、じゃあチーズ。」

パシャッという無機質な音がなる。

「...?」

キョトンと天は首を傾げた。

初めてなら無理もないかもしれない。


「ほら、見てみ?」

スマホで撮りたてホヤホヤの写真を天に見せる。

「おおっ!なにこれすごい!!本当に食べられてるみたーい!!えー!なにこれ!このよくわかんない絵がこうなるんだぁ!」

俺も実際に見るのは初めてだが...本当に凄いな、人の目の錯覚って。

長年人を惹き付け続けているのも納得だ。

凄く計算されて描かれてるんだろうな。

これを描いた人の努力と苦労が窺える。


「ねぇ、昴!ちょっと撮ってよ!」

気がつけば天は別の絵の前でもうスタンバッていた。

テンションは初めて見る絵のせいかマックスになっているらしい。


移動し、パシャリと撮る。

そして写真を確認した。

真ん中に天。その手には高そうな壺のよあなものが持たれそこから水が流れている。そして左右には天使が飛んでいる。

天の服がその神秘的な世界観と合ってなくておかしかった。


だけど......

その姿はまさしく女神のようだった。

比野守が天を様付けで呼び崇めていたのも理解出来る気がした。

「......ばる、昴ってば!どう?ちゃんと撮れた?」

いつの間にか天が近づいてスマホを覗き込んでいた。

その中には先程の写真が写し出されている。


「なーんだ。ちゃんと撮れてるじゃない。ほら、時間もないし。次行くよ次!」

頭を振り思考を頭の外に追いやる。

今一緒にいるのは比野守達ファンクラブの崇める『そらさま』じゃない。

俺のいとこの水無月みなづきそらだ。

だったら俺は天を変に特別視するべきじゃない。


昔俺がそうされることを嫌ったように、普通に見て欲しかったように。

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