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それはそれこれはこれってことで

「んー...、あと一時間くらい時間あるねぇ...どうしよっか。」

向かい合って座ったまま天は店のあちこちに配置されていたチラシを広げた。

どうやらイベントなどが書かれたものらしい。


「えー...今からぁ?疲れたしこのままここで休憩とかでもいいんじゃ...」

それに良い感じに腹も満たされて眠くなってきた。


「えー。せっかく来たんだから遊ぼう!まだ時間あるし。」

「遊ぶって...服見たりとかか?そういえば何か買いたいものがあるとか行ってなかったっけ?」

そもそもこうして二人行動することになったのはそれが理由だったような気がするが...

「服なんてどこ見ても同じだよ。私、別に服にこだわりとかある訳じゃないし。」

チラシに目を落としながらそう天は言う。


「じゃあ買いたいものって?」

「.........」

なんか急に目を逸らして明後日の方向を向かれた。

「...おい、もしかして...」

まさか俺を連れ出すために適当なこと言ってたんじゃ...

「ま、まあ!それはそれこれはこれってことで!」

何がだ!?

しかも『それ』とか『これ』って何を指してるのか分からんし!?


「あ!これ!これ行こう!」

慌てたように...というか何かを誤魔化すようにそらはチラシのある一点を指差した。

「『トリックアート展』?」

どうやらこのショッピングモールのイベントスペースを使って開催中のようだ。

「私こういうのあまり行ったことないんだよね。それに面白そうだし!ね?」

『ね?』って言われても...


トリックアート...か...

確か目の錯覚を利用した絵だったっけ。

カメラで撮ると実際にそこにあるように見えるっていう。


俺は行ったことがないからあくまで知識として知っているだけだけど。

まあ、このまま何もしないでここにいたら天の機嫌が悪くなるかもしれないし、それに天の言うようにせっかくここまで来たのだから行ってもいいのかもしれない。

「よーし、じゃあ行くかー。」

「なんか凄く面倒臭そうに言ってるし。...別に嫌なら辞めてもいいんだよ?」

そんないくのを辞めるのが嫌そうに言われてもな...

「いや、別にいいそうじゃないよ。テンション低く見えるのは今だけだ。これから徐々に上がってくんだよ。」

『なにそれー』と言いながらも天は立ち上がった。

「じゃあ行こうか。」

ん?なんで俺に手を差し出すんだ?


...............

.......

あー!そうか。わかったぞ。その意味が。

俺は鞄から財布を取り出し二枚のおさつを天の手に乗せる。

「...?...なにこれ?」

「何って...野口さん二枚。」

つまり千円札を二枚。

「いや、それは見ればわかる。じゃなくてなんでそれを渡したのかってこと。」

「え?入場料の催促をしたんじゃないの?」

それしか思いつかなかったのだが...

「んなわけないでしょ!もう!昴は私のことどんな目で見てんのさ!」

どうやら俺の予想ははずれていたらしく天は目を吊り上げた。

「じゃあなに?」

エスパーじゃないんだからきちんと言ってくれないと分からない。

「そ...それは......ふ、ふんっ!もういいよ!なんかそういう気分じゃなくなったし!ほ、ほら行こう!時間なくなっちゃうよ!」

「あ、おい!」

ずんずんと天は歩いていく。


「なんで俺怒られたんだ...?」

何か怒らすようなことしたっけな...

最近の天、何故か急に怒り出すことも多いし...

うん、最近の女子高生の考えることは分からん。

「ほら!置いてくよ!」

「へいへい。」


まあ、今はもう怒ってないみたいだからまあいいか。

深く追究してさらに怒らせるのも面倒だし。

出しっぱなしだった財布を鞄にしまい俺は早足で天を追いかけた。

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