セカンドデートⅡ
「つ、疲れた...」
あれから一時間ほど経ったあと。
主に精神的な疲れを癒すためフードコートで休憩を取ることにした。
中途半端な時間だからか昼時に比べがらんとしている。
なんとか事の経緯を説明し納得はしてもらえたがあの店員さんの冷ややかな視線は最後まで向けられたらままだった。
ギャラリーも増えてたし...
大事にならなかったのは良かったがしばらくあの書店には行かない方が良さそうだ。
あー、よかった。住んでる所からの最寄りの書店があそこじゃなくて。もしあそこだったら数ヶ月は新刊が手にはいらなかったところだった。行けなくて。
今日一日だけならなんとか頑張れば耐えられる。
たぶん...恐らく...
悪くても明日寝込むくらいだろう。
元引きこもりの精神の弱さは伊達じゃない。
あ、鳥が飛んでる。
何の種類だろう。スズメ?
あー...
......スズメもどきが一匹...スズメもどきが二匹...スズメもどきが...
「おまたせ〜。」
「ん?...あー、ありがと...」
軽く現実逃避しているとどこかに行っていた天が両手にカップに入ったアイスを持って戻ってきたところだった。
どうやら気を使って買ってきてくれたらしい。
「あ、お金...」
さすがに奢って貰うのは悪いと思い鞄から財布を取り出す。
「あ、別にいいよ。今日割引デーだったし。」
「それでも悪いし。で?合計でいくら?」
「えー、それじゃあ私が奢って貰うことになっちゃうじゃん。んー...、でも昴がどうしても気にするって言うならあとで何か奢ってよ。それでチャラってことで。」
「え...でもそれはそれこれはこれだろ?」
「もう、昴は真面目だなぁ。だったらはい。」
差し出されたレシートを見て財布からお金を取り出す。
うわぁ、割とするんだなぁ。
外でアイスなんて買って食べることなんて今までなかったからこんなにするなんて思ってもいなかった。
俺が普段食べるのは五本入りで二百円くらいのやつだからな。
いや、でもこれが普通なのかもしれない。俺が普通の感覚じゃないだけで。
思い出はプライスレスって聞いたことあるし。
もしかしたらこれを買った人は同時にアイスを買ったという事実や誰と食べたとかという思い出を手に入れているのかもしれない。
まあ、推測でしかないけど。
お金を天に渡してから差し出された方のアイスをカップからすくい口に運ぶ。
「......うまい...」
うわぁ、アイスってこんなに美味いものだったっけ?
冷たくて甘い味が口に広がる。
ブルーベリーの甘酸っぱさとチーズの濃厚な味。
さすが高いだけのことはある。
「ふふん、美味しいでしょ?これ私のお気に入りなんだぁ。チーズが溶かされて混ぜ込んであるんじゃなくて固形で入ってるの。」
「天はこういうのよく食べるのか?」
「ううん、たまにしか食べないよ。私の懐事情は厳しいからねぇ。あ、その下のやつひと口ちょうだいよ。交換ってことで。」
カップには二種の味のアイスが入っていて俺のカップの下の方にはラズベリー系のアイス。天の方には抹茶系のアイスが入っている。
先程食べたもう一つのは俺も天も同じものだ。
「...もしかして自分が食べたいからこれを選んだ...とか?」
「あはは、バレた?だって選びきれなかったんだもん。頑張って三種類までに絞るところまではよかったんだけどね。」
そう言って天はクスクスと笑った。
「だったらトリプルとかにすればよかったんじゃない?」
特に深く考えずそんな事を言うと天は怒ったように声を上げた。
「もう!昴は私を太らせたいのか!これでも気にしてるんだからね!」
むっと口を尖らせ怒ったような顔をしながら天はアイス用の小さなスプーンの先を俺に向けた。
「いや、そんなつもりは...」
それとなく天を見るも全然太ってるようには見えない。
どちらかといえばスレンダーだし初めて会ったときに上に乗られたときも凄く軽かったように思う。
謝らなければと考えを巡らせているとふと視線がある一点に向いた。
その瞬間俺の頭は一瞬で沸騰してしまう。
「っ!そ、そんなつもりで言ったんじゃないけど悪かった!発言が軽卒過ぎたかもしれない。ほ、ほら早く食べないと溶けるから!」
あまりにも動揺していたせいか少し声が裏返る。
「え、なに?急に慌てて...」
顔を見なくても俺の突然の動揺に困惑してキョトンとしているのが分かる。
だが、天の顔が直視出来ない。
なんだか後ろめたさのようなものを感じて。
この様子を見る限り天は気づいていないんだろうが怒った勢いで机に身を乗り出した天の発達の良い胸が机に乗りとんでもないことになっていたのだ。
いくらいとことはいえ俺も男だ。
それを見て邪な気持ちを抱かない訳がない。
普段はそんなに意識しないようにしていたからか気にしないようにしていたが天は凄く可愛いのだ。
それこそ俺が今まで愛してきた二次元キャラに引けを取らない程に。
比野守が崇拝するのも分からなくもない...かもしれない。
そんな天が無防備な姿を晒していれば焦るというもんだ。
気恥しさを誤魔化すように勢いよくアイスを口に運ぶ。
すると当然のことかもしれないが頭がキーンとした。
「あはは、もうそんなに慌てなくてもアイスは溶けないよ。」
自分の無防備さを自覚してないのか天は能天気に笑った。
咄嗟の起点でどうにか誤魔化せたようだが俺の顔の赤らみは引かないままだった。




