セカンドデートⅠ
「デートしようよ!」
目的地に到着し少し早めの昼食を終えた後さてどうしようかという話になったとき天は唐突にそう言った。
「えぇ...」
恐らくその言葉は俺に言ったのだろう。
初花さんに言ったのならわざわざデートなんて言い回しはしない。
「だからデートだよ、デート。昴、本屋とか行きたいんでしょ?私も色々見て回りたいし付き合ってよ。」
「いや、でもそれならわざわざ二人きりにならなくても三人で回ればいいんじゃ...」
「あら、いいじゃない。二人で行ってらっしゃいよ。懐かしいわねぇ。私も昔はお父さんと二人で出かけた、したものよ。」
咄嗟に回避しようとしたが初花さんのその言葉に遮られた。
普通、こうな風に娘と男が二人きりで出かけるなんてことになったら親としては難色を示すものじゃないのか。
止めるどころかむしろ勧めるって...
「昴くんなら大丈夫よ。いとこだし。それにいい子だしね。」
声に出したわけでもないのに初花さんは俺の言わんとしていることを察したのか笑いながらそう言った。
「私はゆっくりショッピングしてるから行ってらっしゃいな。頃合を見て連絡してね。」
「いや、でもやっぱり二人ってのは...」
「よし!お母さんからオッケー貰ったし行こうか、昴。」
俺の言葉は天の声に掻き消された。
そして俺の意思は届かずそのまま天に腕を引っ張られどこかへと連れて行かれる。
「ちょっ!引っ張んなくても1人で歩けるから!」
「だーめ!離したら昴逃げちゃうかもしれないし。」
やはり俺があまり乗り気ではないことに気づいているようだ。
それに気づいた上で敢えて俺の意思を無視していたらしい。
結局腕も離して貰えず勢いよく引っ張られていく。
初花さんに助けを求めようと振り向いたが初花さんは『いってらっしゃ〜い』とニヤニヤした顔で手を振っていたのでそれも出来ない。
俺は周りからの生暖かい視線を浴びながらしばらく引っ張られ続けた。
※
「うおぉ!さすが大型書店というだけのことはあるな!」
数分後。
先程までとは打って変わって俺のテンションはアゲアゲだった。
ここ最近行く本屋の倍以上の大きさで品揃えもそこそこ。
なかなかお目にかかれない出版社の書籍も置いている。
「おーい、昴さーん。」
「おお!この本ここにはあるんだなぁ。」
この前行った本屋にはこの出版社の本は置いていないからちょっと残念だったんだよな〜。
ずっと追いかけてきたシリーズもこの出版社のだし。
よし、次新刊が出るときにまた来よう。
「ねぇってば。」
あー...、でもやっぱり通信販売を使うべきかなぁ。
俺的にはせっかく引きこもりから脱したんだから自分で書店に行って欲しい本を手に入れたときの喜びを感じたいのだが......
「いい加減に〜〜〜っしろ〜!!」
「あたっ!!」
突然体を激しく揺さぶられハッと我に返る。
また俺の悪い癖が出ていたようだ。
いつの間にか考えることに没頭していて周りが見えなくなってしまう。
テンションが上がっていたからかついその悪い癖が発動してしまっていたようだ。
「もう!私が話しかけても全然反応してくれないなんてひどい!」
「ごめん!悪かったって!だから揺らすのはやめてくれ!酔ってきた!」
しかも突然大きな声を出して奇行に走った天を見て周りの人が嫌に注目してる。
近くで本の整理をしていたバイトらしい書店員は注意すべきかどうかと迷っているのか一人オロオロしてるし。
「ほ、ほら!もう他行こう!すぐさま、今すぐに!」
周りに軽く頭を下げ、天の耳元で出来るだけ小さな声で言う。
「ひゃっ!ちょ、ちょっと昴!そ、そこはだめぇ!!」
「へ?」
天は突然喘ぎ声にも似た声を上げる。
俺今変なこととかしたっけ?
「やんっ...だ、だからぁ、耳、くすぐったいんだってぇ!」
体捩りながら顔を真っ赤にして耳を抑える天。
まるで何かイケないことをしているかのような気分になってくる。
しかも周りには俺と天のやりとりがよく聞こえていなかったようで何やら冷たい視線が俺に突き刺さる。
「ちょっとあれ見た?こんな人目のあるとこで女の子を耳攻めにするだなんて...」
「ちっ、イチャイチャするなよな。嫌味かよ。」
なにやらあらぬ誤解を受けているご様子。
「い、いや、これは違うんです!」
慌てて言い訳を述べようとするも周りの人々は俺からさらに距離を取るだけだった。
「て、店長〜〜!み、店に変態が!変態がぁ!」
「違いますからぁぁぁっ!」
慌てたように走り去るバイトらしい書店員さん。
その背は遠ざかり俺の弁解など届かない。
ざわつく店内。
慌てたように近寄ってくる書店員。
頭になり響く警告アラーム。
「えっと...どうしよっか...?」
こうなった原因でもある天は自分が原因だと分かっていないように困ったように笑っている。
どうしてこうなった。
マジで泣きたい...




