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光指す

光の遮られた暗い部屋の中で俺は一人膝を抱えていた。


脳内には次々と学校での出来事が浮かぶ。

それを振り切るように耳を塞いできつく目を閉じても消えてくれない。


誰かに助けを求めることも出来ない。

誰も助けてくれない。

味方が一人もいない場所でただ時が過ぎるのを待つ日々。


「もう...嫌だ...」

掠れた声でそう言う。

みんなが俺を否定する。俺という存在を。

もし一人でも俺を肯定してくれる人がいたのならまだ救われていたのかもしれない。

だがついにそんな存在は現れなかった。


長い間光の入らない暗い場所にいると時間感覚も狂う。


この部屋には時計はない。

今までは時間というものをそんなに頻繁に確認するということがなかったからこの部屋で時間を確認するには携帯を開くしかない。開くしかないのだがーーー


それは今の俺には出来ない。

ほんの数日前までは普通に出来ていたことなのに。


まあ、いい。

どうせもうここから出る予定もない。

どうせ俺は誰にも必要とされていないんだから。


目を閉じてただ朽ちるのを待つ。

このまま、誰にも必要とされずに、消えていきたいーーー


ーーコンコンーー

「...いさん...兄さん...」

しばらく経った頃に聞こえてきたそんな声で目を開ける。

俺のことを『兄さん』だなんて呼ぶのはただ一人。

妹の奏多だけだ。


奏多がここに来た理由なんて分かりきっている。

どうせ両親と同じように俺を無理矢理ここから出そうという魂胆だろう。

だとすれば俺が取る行動は決まっている。


ーーーコンコン、コンコン、コンコンーーー


ドアをノックする音を聞きながら、ただ耳を塞いで目を閉じてその音が聞こえなくなるのを待った。



「...んん...」

ふと目が覚めた。


家の中は静かだ。人の気配もしない。

俺の時間は止まっていても俺以外の時間は俺のことは完全無視で進んでいる。


俺の意志とは関係なしに周りはどんどん変わっていく。

俺一人を置いてけぼりにして。


ベッドはあるのに床で寝ていたからか体が痛い。

どうせ家に誰もいないのなら今のうちに腹に何か入れてシャワーを浴びてしまおう。


ずっと部屋に篭っていたからか風邪を引いたときのような気だるさを感じつつ部屋の扉を開ける。


「...っ!?」

そして半分ほど扉を開け、それを見つけた。

部屋の扉のすぐ近くに座って寝ている奏多かなたを。


「...どうして...」

どうしてこんなところにいるんだ。


奏多は中学生。

当然今日も学校だ。そのはずなのだが...

なんでここにいる?


廊下の壁にあった日めくりカレンダーを見る。

そこには普通に黒い数字が書かれていた。


つまり平日。

俺の曜日感覚が狂っていて『今日は実は休日でした』なんてことではないらしい。

ならなんで...


まさか...

奏多の顔を恐る恐る覗いてみると案の定その目にはクマがあった。

奏多は夜は十時には寝てしまうほどの健康的な生活をしている。

それが試験前であってもだ。

夜更かししているところなんて見たことがない。


「...ん...んん...」

「...っ!!」

奏多が目をゆっくり開けたのを見て数歩後ずさる。

「あ...おはよー、兄さん。」

学校をさぼってるというのにずいぶんのんきに挨拶なんて出来るもんだ。


「...お前...学校は...どうしたんだ?」

そう聞くと奏多は優しく微笑んだ。

「そんなのどうでもいいよ。あたしは兄さんと話したかったんだから。」

「ど、どうでもいいって...」

「大丈夫。誰かにこうしろって言われたからここにいるんじゃなくてあたしがこうしたかったからここにいるだけなんだから。兄さんはあたしと話をしてくれるだけでいいの。」

「は、話って言われても...俺は...」

「大丈夫。兄さんの部屋で話そうよ。...んー、そうだなぁ。兄さんの最近ハマってるものとかかなー...まずは。」

「は...?」

てっきり俺を部屋から出して学校に行かせるために説得しようとしているのかと思ったが随分と斜め上の話題が出てきた。

「ほら、ほら。行こう。兄さん。あー、その前にご飯だね。あたしが作ってあげるよ。...っていってももう出来てるのをチンするだけだけどね。」

「...なんで...」

「ん?あー、大丈夫だよ。いくらあたしでも焦げるまでレンジかけたりしないって。」

いや、そういうことじゃなくて...

「なんで...」

「ん?」

「なんで...俺なんかの...ために、ここまで......」

言葉の続きは視界のボヤけと急な息苦しさで言えなかった。


「う...うぁ...」

声を出そうとしても俺の口から漏れるのはそんな嗚咽だけだった。

自分がいる泣いているのだと気づいた瞬間もうその涙を止める術はない。


部屋の前にうずくまってただただ涙を流す。

なんで泣いているのか自分でもその理由は分からないのに涙は次々と溢れて止まってくれない。


そうしているとふっと暖かなものに抱きしめられる。

「大丈夫、大丈夫だよ。兄さん。あたしは兄さんの味方だから。ずっと兄さんのそばにいるよ。いなくなったりしない。だから...兄さんもずっとあたしのそばにいて。」


そうだ。俺はずっとこんな言葉を言って欲しかったのだ。

誰かに俺がここにいてもいいんだって、俺にも居場所はあるんだって言って欲しかったんだ。


奏多の体を抱きしめ返す。

奏多は一瞬驚いたように体を少し震わせたけどすぐに受け入れてくれた。


それが二年前の話ーーー

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