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ライアー

女のコとのデート。


それは俺にとって新鮮で、新しい体験で。

今日はずっとそんな事が続いていたからかとてもあっという間に時間が過ぎる。


「おいふぃでふね〜」

茜色に染まる公園の中俺と比野守はベンチに座ってクレープを食べていた。


この公園の近くで移動販売されており、なかでもこのクレープは週に一度の限定販売で知る人ぞ知る名店らしい。

俺はチョコバナナ、比野守はストロベリーホイップを頼み、比野守は食べ始めてからずっとこんな調子で一口食べる事に大袈裟にリアクションをしている。


「先輩!今日はちょー楽しかったです!付き合ってくれてありがとうございます♪」

「いや、このくらい別にいいよ。俺も楽しかったし、色々見て回れたからな。」

なんだか改めてお礼を言うのが照れくさくなり、それを誤魔化すようにクレープに齧り付く。


「あ...」

「な、なんだ?」

じーっと見つめて来る比野守に思わずたじろぐ。

もしかして俺が慌ててるのに気づいたとか...?


すると比野守はだんだんと俺との距離を詰めそのまま俺の頬をぺろりと舐めた。

「...!?な、ななな!?」

初めて感じる感覚に背筋がゾクッと震え声が裏返った。

だが、俺の動揺を見て比野守は口に指を当ていたずらっぽく微笑んだ。

「いやー、ほっぺにクリームついてたんでとってあげようと。」

「だ、だったらそう言えばいいだろ!」

「まあ、それもそうですね...先輩、さっきほっぺにクリームついてましたよ?」

「まさかの事後報告!?」

「あははっ、やっぱり先輩おもしろーい!」

何がそんなに面白かったのか比野守は腹を抱えて笑う。


俺は赤く染まった顔を背けそれを誤魔化すようにクレープを一気に食べた。

そしてベンチから立ち上がり比野守に背を向けたまま数歩距離をとる。


「ほ、ほら!もう暗くなるしか、帰ろうか」

「ああ、そうですね。もう結構時間経ちますし。」

背中から急に聞こえる比野守の声。

テンションの高い比野守が発したとは思えないその声に俺は振り向こうとするが背中に柔らかいものが当たり振り向けない。


「せんぱーい...後輩の女の子ってぇ...嫌い...ですかぁ...?」

「ひ、ひ、比野守!?」

背中に当たる柔らかい感触に声が裏返る。

「せんぱーい...」

猫なで声でそう呼ぶ比野守はさらに強く俺に抱きつく。

「〜~~っ!!」

あまりにも動揺しすぎて声が出ない。

体も硬直してしまっている。


さすがに女子と触れ合った経験がほぼない人生を歩んで来た童貞にこれはヤバい。

現在進行形で頭の中でけたたましく危険警告アラームが鳴り響いている。


だ、誰か助けて!これはさすがに!

知り合って間もない女の子だし、第一比野守は天のクラスメイトで...!


「なにやってんの...?」


そこで第三者の声が数メートル先から聞こえた。


だが、決して俺への救世主ではない。どちらかといえば逆だ。

「そ、天...!?」

いつの間にそこにいたのだろうか、ショートパンツにキャミソール姿の天が夕日に照らされて立っていた。

なぜか手に眼鏡を持っており、キャスケットを頭に乗せている。


危険警告アラームはさらにけたたましく鳴り響く。


改めて今の状態を再確認。

天からして見れば、公園で自分と同じクラスの女の子がいとこである俺に抱きついている状態。

もしかしたらオレが知り合って間もない少女をたぶらかし抱きつかせたようにでも見えているのかもしれない。


ともあれこの上なく怒っているのは間違いない。

その証拠にいつもはニコニコと浮かべている笑顔は消え去り顔を真っ赤に染め上げて目を釣り上げてこちらを睨んでいる。


「す、昴なんて...昴なんて...!」

そこまで言って落ち着こうとしているのか天は数回深呼吸した。

そしてこれまでの怒りを完全に隠してニコッと微笑む。


正直凄く怖い。

これなら怒った表情のままでいたほうが数倍マシだ。

この笑顔ほど怖いものはない。


「別に昴が誰と仲良くしようと私には全く、これっぽっちも関係ないですよね。怒っていません。ええ、怒っていませんとも。」

絶対に怒っていらっしゃる。

手にした鞄の持ち手がちぎれそうなくらい握られてるし...


「じゃあ、私は偶然ここを通っただけですので先に帰ります。じゃあ、どうぞごゆっくり。」

「あ、ま、待て!待ってくれ、天!!」

勘違いを正そうとそう叫ぶが天はそのまま公園から出ていってしまった。

追いかけようとも比野守にまだ力強く抱きつかれていて身動きが取れない。


結局天が見えなくなるまで比野守は力を緩めなかった。

「どういことだよ、比野守。」

普通クラスメイトにああいう場面を見られたら照れるなり言い訳をするなりするはずだ。

だが、比野守はそういう素振りを見せないどころかさらに力を強めたのだ。


「どういうことってぇ、どういうことですかぁ?」

口元に指を当て比野守がわざとらしくとぼける。

これが本当にこの状況が分かっていなくて本心から出た言葉ではないということはさすがにわかった。

「天に見られても良かったのかって話だ。」


「別にいいんじゃないですかぁ?あたしは別に困りませんし。」

「でも...!」

さらに文句を言おうと口を開きかけたが、すぐにその言葉は続かない。

なぜなら比野守はこれまで見せていた人懐っこい笑顔を引っ込め面倒くさそうにベンチに気だるげに座って冷たい目でこちらを見てきたから。


「でも、先輩は困っているでしょう...?」

そう言いクスクスと笑う。

「...どういうことだ?」

あまりの豹変っぷりに戸惑いながらもそう返すと


「今聞いてなかったの?なら特別にもう一度言ってあげる。あたしはあんたを困らせたかったのよ。この泥棒ブタ野郎。」

比野守は眉を釣り上げ今まで見せなかった怒りの形相を浮かべた。

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