七話 王女様はイケメン君にご執心らしいです
生徒会長の思わぬ本性を見てしまった翌日、悠木はプラプラと歩いていた。
修練は今日は休みであり、他の生徒達は思い思いに過ごしていた。
悠木はほぼ毎日の日課と言っても良い、散歩をしていた。
因みに、昨日の事は誰にも言っていない。
理由は『後が怖いから』。
漫画やアニメ、ゲームでもヤンデレに関わると良い事が無い。
特に悠木はそれ以上の幸運もついてくるとはいえ『不運』なのだ。
危険に自ら突っ込んでいくつもりも、度胸もない。
祐一や、彼を取り巻く少女達が、何か騒いでいるのを横目に、外に出ようと廊下を歩く。
そして彼は城内の庭に、
「ワン、ワン!」
犬を見つけた。
何処から入り込んできたのか、元気良く走り回っている。
犬種は……何だろうか。
わからないが、小さな黒い犬だった。
取り敢えず行ってみる。
「おー、ちっちゃ! 滅茶苦茶ちっちゃ! へー、子犬ってこんなに小さいのな!」
近くに寄ると、その小ささが良く分かった。
膝下どころではない。
脛程までの大きさだ。
黒い毛はふさふさで、眼は赤い。
「ァン! ワン!」
犬は悠木が寄って来るのに気付き、近寄って来る。
人懐っこい性格のようだ。
尻尾を振りながら、悠木の方へと駆けて来た。
悠木はしゃがみ込み、犬を抱き上げようとして――
「――ァン!!」
「ぅおっ!?」
飛びついてきた犬をキャッチする。
小柄ながら、勢いもあって思わずドサリ、と原っぱの上に背中から倒れた悠木だが、子犬はちゃんと捕まえていた。
そして隣に下ろし、自分は伸びをして眼を瞑る。
子犬は大人しく隣に『お座り』の状態で座り、悠木を見ていたが、眼を瞑っている悠木にわかるはずも無い。
暫くして、悠木の寝息が聞こえてくる。
それに配慮してか、子犬は鳴かず、大人しく『お座り』した儘だった。
遠くから、兵士の訓練する声と、生徒達の会話する声が聞こえてくる。
穏やかな微風が髪を撫でる。
のんびりとした時間が、過ぎていた。
「……あのー」
悠木の意識がぼんやりと覚醒し始めた時、そんな声がすぐ近くから聞こえて来た。
眼を開けるが、視界は暗い。
と言うか、少し重い。
「お? おー? 今何故俺の視界は真っ暗闇なんだ?」
「あのー……犬が」
そんな声が聞こえてくる。
「……その声、王女様か?」
「あ、はい。そうです」
どうやら正解だったらしい。
と言う訳で、起き上がった悠木は視界を覆っている毛玉を持ち上げる。
どうやら悠木の頭の上で寝ていたらしい。
寝ぼけているのか、寝る前までの元気はない。
まるで借りて来た猫――犬だが――の様に、大人しくプラーンと首根っこを掴まれていた。
「……佐藤様犬を飼ってらっしゃるのですか?」
それを見ていた王女が、悠木に聞く。
「いや、こっち来てまだ全然だし、いつか此処を出るとなると飼ってる訳ないだろ」
「それもそうですね。……しかし、何処から入り込んだのでしょう?」
王女は子犬に近付く。
だが、
「……ワウッ!」
意識が覚醒したのか、何故か王女に向けて吠える子犬。
だが、如何せん子犬であり、幾ら吠えても可愛らしさしか感じない。
「……可愛いですね」
そう言って犬を撫でる王女に、悠木は聞いた。
「で? 王女様はこんなところで何してるの?」
まぁ大体の予想は出来てるけど、とは口には出さなかった。
王女の様子は恋する人間のそれだ。
分かり易いモノである。
「あ! そうでした! あのー……祐一様見ませんでしたか?」
ですよねー。
ま、答えるケド。
「……城の中にいた。多分誰かの部屋の中にでもいるんじゃない?」
「あ、有難う御座います!」
言うが早いか、王女様は城の中へと駆けて行く。
「あんなドレス、動きづらくねぇのかなー」
悠木は犬を降ろし、パンパンと手を払ってから立ち上がる。
「……さて、俺もジゼ達の処に行くか。……じゃあな」
犬に背を向けた儘、トボトボと歩き始める悠木。
「ワン!」
と、まるで悠木の言葉に応答するかのように、子犬は鳴いた。
子犬は追ってこなかった。
ゆっくりと、マイペースに更新予定です。