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六話 彼は不幸にもリア充主人公君のヒロインがヤンデレだと知ってしまいました

サブタイトルはなるべく「彼は不幸にも (または幸運にも)~~」というのにしていきます。

因みに、今話はサブタイトルが全てです。

それ以上の説明は必要ないと思います。

 ある日、悠木は夕食を食べた後、腹ごなしにと散歩をする事にした。

 ビルや街灯の無い、綺麗な夜空を見上げる。


「……不良とか車とかバスとかないから巻き込まれなくて良いなぁ……」


 しみじみと呟く悠木。

 城の中なので馬車が通る訳も無く、スパイに襲われた以外は特に何もない平和な日々を過ごしていた。

 特に、居眠り運転の車が突っ込んできたり、余所見運転をしていたバスが目の前を通る訳でもない。

 不良に絡まれる訳でも、犬に吠えられるでも、コンビニの弁当が売り切れているでもない。

 少し非日常であるが、以前とは比べ物にならない程の平穏な暮らしを出来ており――まぁそう考えている時点で自分が非日常に置かれていることを肯定している様なモノだが――実に平和である。

 そう感じる事が出来る。


「おや、君は――」


 そう後ろから声を掛けられ、悠木が振り向くと、そこにいたのは生徒会長であった。

 黒髪を後ろに束ね、腕組をしている姿から、女王やら女帝やらと言われている。

 男子生徒の選ぶ『抱かれたい女』三年連続一位を叩き出した、そんな人物だ。

 生徒達から信頼され、強い人気を持つ学園の顔役だ。

 人の顔や名前を覚えるのが苦手な悠木でも、知っている人物であったが、名前は知らなかった。

 と言うか、関わりの無い人間の名前は憶えない質なのである。

 が、そんな事を言えるはずも無く、不愛想に頭を下げる。


「……どうも」


「あぁ……もうこんばんわ、だな。……佐藤悠木君」


「自分の事知ってたんですね」


 スラスラと悠木の名前を出した生徒会長に驚く悠木に、


「これでも生徒会長だからね。……生徒の名前は全て憶えているよ。加えて君は有名人だからな」


 なんでもない、と言った様子で返答する生徒会長。

 またか、と悠木は先日の祐一との会話を思い出していた。

 彼もまた悠木を『有名』と言ったのだ。


「……君の噂は生徒会長として、耳に入ってきているからな」


「……ホントすんません」


 悠木としては、別に普通に生きようとしているだけである。

 だが、()()()()()()()()()()()だ。


「いや、君が悪い訳ではないさ。……それは知っているよ」


 ふと、悠木は気になった事を訊いてみた。


「会長は……会長はこの世界に来た事、どう思ってんすか?」


 悠木の考えでは、原口――渡瀬祐一がいた故に、召喚されたのだ。

 だが、クラスとは関係ない生徒会も、何故か召喚されていた。

 先日の素質を調べた際に分かったが、生徒会長も祐一に匹敵する程の素質を持っていたのだ。

 あの魔法陣は実は学園()()を範囲にしていて、その中で特に素質を持っていた者を中心に召喚されたのではないか、と。

 だが、そうだとしても自発的に来た訳ではないのだ。

 それに、彼女は学園を設立した三名家の内の一つ、その一人娘だと言う事は学生全員が知っている常識だ。

 因みに、三名家の内の一つは、渡瀬祐一の幼馴染であり、常に一緒にいる少女の一族である。


「……私は生徒会長だ。生徒を導く義務と責任がある。その思いは常に持っているさ。残してきた者達が今どうなっているのか、それを考えない訳ではない。……だが、それ以上に、守ってやりたい奴がいるのだ」


 ……ん?


「そいつに、私は多大な借りがある。……そいつは無防備で、鈍感で、しかし優しくて――」


 悠木は悟った。

 生徒会長(この女)、恋愛脳じゃないか、と。

 それに、悠木の考えたことが間違いじゃなければ――


(あれ? おかしいな、何時の間にこんな話になった?)


 未だに悠木の前では生徒会長がブツブツブツブツと、そいつ(祐一)の事を言い続けていた。


「だが彼は私の気持ちに気付いてくれないのだ。……何故だろうな? ――だがそれで良いのだ。私は彼の力になれるだけで良い。影ながら支えるだけで良い。そう、私は彼の事を愛しているのだ。愛して愛して恋して恋して愛して愛して愛愛愛愛――」


(うわぁ……どうしよう。何か言いたいけど、言ったら厄介な事になんじゃねぇのコレ!? つーか病んでる! 病んでるよ! この人完っ全にヤンデレじゃねぇか!)


『中性的な口調のヤンデレ』と言う、立ったキャラクターを目の前に悠木はドン引きだ。

 あぁ、声を掛けられて直ぐに立ち去れば良かったと思うも、既に手遅れである。


 目の前では生徒達憧れのカリスマ生徒会長が、眼のハイライトも消えてる状態で俯き、ブツブツと呟いているのだ。

 恐ろしい事この上ない。

 多分今の彼女には包丁かナイフがとても良く似合うだろう。

 勿論背景は黒か紅で、手を顔に添え、恍惚の表情を浮かべれば完璧だ。

 いっその事髪を肩位まで切ってピンクにするか、ツインテールにして茶髪にでも染めてしまえ。

 ほら、完璧なヤンデレの完成だ。

 呼び方は「ゆっきー」か「お兄ちゃん」か。

 あぁ、でもそれには口調と性格をどうにかしないといけないか……。


 なんて現実逃避に走り、最早こんな事にまで自分の不幸体質が関わっているのかと思い始め、


「あのー会長。俺、この辺で失礼しまーす」


 小声でそう言って、悠木はニコニコと笑顔を無理矢理張り付けた儘、退散することにした。

 その後、生徒会長は一時間程、そこにいてずっと何かを呟いていた、と言うのを城内を巡回していた知り合いの兵士に後で聞いた。


「おーおー怖え怖え。……おぉ、神よ。どーか彼の身に安寧と平和を。……南無南無。お前の事は忘れないぜ」


 その時は思わず、祐一の身の無事を祈る言葉が口から出てしまった。

 最後に死んでることになってしまっている事には、気付いていない事にした。




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