四話 彼は不幸にも周囲に誤解されました
今回は短いです。
悠木が兵士を撃退した数日後、悠木達は国王に呼ばれ、召喚された場所に来ていた。
「よく来てくれたな」
国王の言葉に一応は頷くが、集められた悠木達は、何故自分達が集められたのかわからなかった。
国王が椅子に座り、その前に王女が立ち、その下に臣下達が整然と並んでいた。
どこか張り詰めた空気の中、最初に口を開いたのは渡瀬祐一であった。
「あの、今回は何で俺――私達は呼ばれたんですか?」
祐一の疑問に口を開いたのは王女――クレアであった。
「数日前、其方にいる悠木殿を、我が国の兵士が襲ったのです」
その言葉に、転移者達全員の視線が悠木に向く。
内心、「こっち見んな!」と願っていた悠木であるが、その表情には必死に苦笑いを浮かべた。
若干口の端や目尻がピクピクと動いており、完璧に取り繕えているとは言えなかったが。
「ですが幸い、悠木様はご自身で自衛なさいました。彼を襲った兵士は牢に入れ、尋問しました。それによると、彼を襲った兵士は我が国の兵士に偽装した他国のスパイであると白状しました。どうやら何処からか噂を知り、潜入したようです。以降このようなことが無いように、護衛と巡回の兵士の数を増やしますが、貴方方もどうか気を付けて下さい」
一応の決着であるとわかった皆は安堵の息を吐く。
そして生徒達は解散したが、悠木だけは残れと言われ、残る事になってしまった。
去って行く際、ウインクをした親友は一発殴る事を心に決意し、改めて王を見上げた。
「……で、なんで俺は残ったんすか?」
「うむ。……襲われた時の状況を聞きたくてな」
ふむ、と悠木は考え、考え、考えて――
「zzZ……」
「寝ないで下さい!」
「――お、おぉう!?」
最近の修練による疲れか、一瞬寝てしまった悠木だが、王女の声にすぐに目を覚ます。
そして若干どもりながらも、素直に答える事にした。
「あー、えーと……若干怪しいと思って声かけて、でも気のせいだと思ったから追い抜いて……そしたら靴紐が解けたから結ぼうとして、そしたら攻撃を避けてたー……的な? いや、ホントホント」
胡散臭いと言う表情で見てくる周囲に、必死に弁明するかのように言う。
「で、それに気づかずに身体を起こしたら丁度後頭部が顎に当たった……っていう」
その説明に、何と答えれば良いのか場が静かになる。
本当は兵士がスパイである事を事前に察知していたんじゃないか、そんな疑念を抱いた顔だ。
だが、悠木としてはただのまぐれ、『何時も通りの幸運』であり『不幸』である。
「あー、えーっと……スンマセン?」
沈黙に耐え切れず、取り敢えず謝った。
「いや、謝られてもな……」
そう苦笑いする王の一言によって、場の沈黙が止んだ。
王の言葉を王女が引き継ぐ。
「……結果として、兵士の中に紛れていたスパイを捕らえ、情報を得る事が出来ました。感謝します」
頭を下げる王女を前に、苦笑いしか出来ない。
……だからと言って何かもらえる訳でもないんだよなぁ。
そんな事を想いながら考えながら、悠木は王達に頭を下げ、退出することにした。
「……ふぅ」
自室に繋がっている廊下を歩きながら、悠木は溜息を吐いた。
時間は丁度昼食時である。
この世界に来てから溜息の量が増えた気がする。
あぁ、溜息を吐くと幸せが逃げるって言うんだけどなぁ……。
鬱々とした気分で歩いていると、薄情な奴が此方を見てニヤニヤと笑っていた。
「よぉ大活躍だったな。悠――ゲフッ!?」
その顔を見て、イラっとしたので殴ることにした。
勿論、悠木のお叱り専用痛くないパンチ、通称『柔らか☆パンチ』である。
痛みのない柔らかい感触の後、身体の芯にピリッとクる絶妙の不思議な一撃、それが『柔らか☆パンチ』だ。
相手の身体に傷を与えず、痛みの身を与える事が出来る。
「さっきはよくも見捨ててくれたなクソ野郎」
「悪かったって。兎に角殴るのは止めてくれって」
康之が謝った為、一先ず拳を納める。
「昼飯の肉、一切れで許す」
「誰がくれてやるか。肉は男の生命線だ」
そう互いに睨み、言い合ってから、互いに笑って食堂に向かっていった。
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TS異世界転生暗殺者モノです。
黒のルドビレ
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