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三話 彼は不幸にもいきなり襲撃されましたが、幸運にも助かりました

三話目です。

 悠木達が異世界にやって来て早数日、早くも戦闘訓練を始めることになった。

 皆が思い思いの武器を選び、その重さによろけたり、ポーズをとって格好つけたりと楽しそうである。

 用意された武器は剣から槍、斧、杖、鎌、ショートナイフ、弓、大剣、鞭、変わり種では鉄球や蛇腹鞭、手甲なんかもある。

 悠木は、皆から少し離れたところで、自分が選んだ武器である旋根(トンファー)を持ってボーっとしていた。

 離れている理由としては、クラスも違く、生徒会にも入っていない為、居心地が悪いのだ。

 これから運動をするので、学生服ではなく、動きやすい服に着替えている。

 此方の世界で言う冒険者のような衣装である。


「よ、悠木! 何ボーっとしてんだ?」


 そう肩を叩かれ、振り向くと、そこにいたのは友人である高梨康之であった。

 彼も学生服ではなく、こっちの世界の衣服を着ていた。


「康之か。……別に、なんだか現実味がなくてさ」


「……なんだよ? ま、確かに今までただの高校生だったのが、学校も行かずに武器を振りまわすんだ。違和感はあるよなぁ……つーか、お前選んだのそれ、旋根(トンファー)か?」


 そう言って、康之は持っていた槍で肩をトントン、と叩く。


「あぁ。一番慣れてるのは素手だけど、それじゃあ刃のある武器とは打ち合えないし、それに」


 一度そこで言葉を切ると、悠木はニヤリと笑いかけた。


「……トンファーは男のロマン、って言うだろ?」


 康之も悠木に対してニヤリと軽快に笑う。

 そこに、遠くから「集合」と言う言葉が聞こえた。


「成程。――おっと、集まれってさ。行こうぜ」


 康之に肩を掴まれ、悠木は皆が集まっている場所に連れてかれる。


 初日の訓練は武器を持たされはしたが、基礎体力と身体能力の強化だった。

 兎に角体力限界まで走り、持久力と体力を増やす。

 回復したら今度は筋トレ、そして近接系統と魔術系統で別れ、近接系統は対人訓練、魔術系統はコンセントレーションを行う。

 そして漸く、武器を使うことになったのだった。





「……はぁ、はぁ、はぁ。汗だくだ。……武器を振るのってこんなに大変だったとは」


 初日と同じように修練を終えて部屋に帰って来た悠木は、服を脱ぎ、部屋に隣接している風呂で汗を流してからベッドに横たわった。

 廊下の先には大浴場もあるのだが、康之や数人以外特に親しい人間がいる訳でもなく、二日目にしてほぼボッチ生活を堪能していた。


 部活に所属していない悠木にとっては身体を動かすなど体育の時間以外ないのだ。

 辛うじて、事件に巻き込またり、不良に巻き込まれた時に動かす程度だ。

 必然的に運動不足である悠木にとって、武器を振る事に慣れない事も相まって、非常に疲れるのだ。


「……ま、頑張るのは才能のあるアイツ等に任せれば良いっか」


 悠木が特に思い浮かべたのは、クラスでも常に中心で、此方の世界でも先頭に立ち、皆を導いている渡瀬祐一である。

 剣の……戦闘の才能も持っていた彼は、三日目にして、教官と互角に戦える程になっていた。

 その周囲にいる生徒――ほぼ全員が女である――も彼同様、あっという間に上達していったのだ。

 それに、両手に花どころか、その倍の女生徒と仲良く、王女ともなにやら仲良く話していた。

 その姿は、傍から見れば、ハーレムモノの主人公である。


「あれこそ主人公だよなぁ……。ま、あんなに女子に囲まれてると気疲れしそうだけどな」


 実際に、女子達がこぞって祐一に対してアピールをしているのだ。

 本人は気付いているのか気付いていないのかわからないが。

 あれを見ると、彼を哀れにまで思えてくるのだ。

 ジョシッテコワイ。

 そんな事を言えば女子達に眼に見えてジト目をされるので言わないが。

 そんな事を考えながらも、悠木は少し眠ろうと眼を瞑った。





「……少し散歩するかな」


 暫くはベッドに身体を預けていた悠木であるが、ふとそう思った為、上着を羽織って外に出た。

 修練や食事の時間以外は基本的に自由だ。

 街を歩くことは禁止されている――未だ公表していないかららしい――が、城内であればある程度の場所なら立ち入る事が出来るのだ。

 その為、人によっては王国の書庫に行ったり、騎士達と修練をしたり、城にいる人間と会話したりと自由時間は様々だ。

 悠木はと言うと、散歩したり、読書したり、部屋でゆっくりしたりしたが、


「……ん?」


 廊下の先を歩く兵士が見えた。

 だが、何処か違和感を覚える。


「……あの」


 悠木がそう声を掛けると、


「はい、なんですか?」


 と、普通の受け答えであった。

 気のせいかと思い、「あ、気のせいです。すいません」と言ってから、兵士を追い越して廊下を歩こうとして、靴の紐が解けているのが視界の端からチラリと見え、


「……またか。これで何回目だよ」


 そう腰を屈めた瞬間、


 ブン!


 と音を立てて頭の上を何かが勢いよく通り抜けた。

 だが、生憎と靴紐結びに集中していた悠木は気付かなかった。

 兵士は、避けられた為に舌打ちをしたが、未だ無防備な背中を見てニヤリと笑う。

 だが、


「これで良し」


 ゴン!


「――ごっ!」


 剣を振るったために前傾姿勢だった故に、急に立ち上がった悠木の後頭部が兵士の顎に当たり、悲鳴を上げて床に仰向けに倒れ、その拍子に鎧が大きな音を立てる。

 一方悠木は痛みなど感じていないかの様に後ろを向き、痛みに悶える兵士に気付き、


「……なんかゴメン」


 心の底から謝った。

 痛みに耐えれず暴れる兵士の着ていた鎧のガチャンガシャンという大きな音が廊下に響く。


「なんだ!」


「何が起こった!」


 その音に反応して、何処からか兵士達の声と鎧の擦れる音が聞こえて来た。

 未だに倒れた兵士は痛みによって悶絶している。

 廊下の先から現れた兵士達は、悠木達を見て何がどうなっているのかと疑問の表情を浮かべた。


「……悠木様、これは一体?」


 そう聞いてくる兵士に、悠木は肩を竦める。

 聞きたいのはこっちである。


「……分かりませんが、多分後ろから襲われました」


 そう端的に説明をした。

 そんな説明でも、兵士達はわかってくれたらしく、


「畏まりました。彼の捕縛はお任せ下さい。後程詳細をお聞きするかもしれませんので、それはご了承下さい」


 懇切丁寧な説明に、悠木も頷いた。

 悠木に頭を下げ、痛みに呻いている兵士を縄で捕縛し、去って行く衛兵を見て、


「……これが『幸運』なのか、『不幸』なのか。……どっちもかな」


 悠木は肩の力を抜いて、そう呟いた。




ブックマーク宜しくお願いします。

まだまだ序盤ですが、頑張って投稿していきたいと思います。

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