二話 彼は不幸にも異世界に来ても体質は変わらないようです
そして場面は冒頭に戻る。
「……やれやれ」
事件や事故に巻き込まれる事の多い悠木であるが、まさか異世界に来てしまうとは、と溜息を吐きたい気持ちであった。
異世界に転移してきたのは悠木が在籍しているクラスではなく、友人の通うクラスである。
つまり、ただ巻き込まれただけなのだ。
もし、友人が教科書を忘れなければ、自分はこんなことに巻き込まれなかった。
そう思えば、一年の時からの友人である高梨をジト目で見る。
その友人は、まるで物語の様な展開に、好奇心で眼を輝かせており、悠木のこと等忘れているようで、思いが伝わらないと分かった悠木は、諦めて事態を静観することにした。
……と言うかクラス一つ分ではなかった。
多分あれは……生徒会?
何故生徒会の連中もいるんだ?
悠木がそんな疑問を浮かべていると、王女が話しているのを見て慌てて聞き始めた。
別に好奇心や不安に駆られての事ではなく、話を聞いておかねば現状を理解できないからである。
佐藤悠木は、余り物事に動じない性格であった。
「――現在、このガイアと呼ばれる世界では、我々人類は三つの敵に脅かされているのです。一つは魔王を頂点とする”ヴァリオラ”、一つは理性無く、暴れまわる災獣”マリオン”、そして異界より現れる侵略者”テリオス”。どの敵も我々人類とは敵対しております。……皆様には、人類を守る為、各地を旅して頂きたいのです」
余りアニメやゲームに詳しくない者なら兎も角、お約束とも言える展開に、生徒達は、眼を輝かせる者、戦う事――死を考えて不安になる者、流れに任せようと余り反応しない者と様々であった。
「ですが、皆様は戦う事に慣れていらっしゃらない様子。数ヵ月は我々が戦い方を教えますので、ご安心ください」
王女の言葉に、不安だった者達もその表情を柔らげる。
「では、先ずは皆様の適性を見させて頂きたいと思います」
そう言って、王女が傍に控えている臣下に合図する。
臣下が持ってきたのは少し大きめの水晶であった。
「では、お一人ずつ、この水晶の前にお立ち下さい」
そう言って、三列に並んで、一人ずつ水晶の前に立っていく。
そして、一人、また一人と水晶に触れる度に王女や臣下達が反応していく。
特に、先程生徒達を代表して王女に尋ねた少年が水晶を持った時、俄かにザワついた。
確か、たな……たに……そう! 原口とか言うイケメンリア充だったはず。
いや、別クラスの関わりのない奴の名前なんて憶えないし。憶えきれないし。
などと悠木は失礼な事を考えていた。
因みに彼の本当の名前は渡瀬祐一である。
二年生ながらサッカー部でエースの座にいる運動抜群成績優秀な、爽やかそうな少年である。
「……なんと! これ程の素養を持つとは!」
なんかすごい結果が出たらしいが、悠木にはさっぱりである。
他にも、黒髪の生徒会長――通称”女王様”――や、少年と一緒にいた少女、孤高を気取っているボッチ野郎なんかの時にも、と言うか殆ど全員でざわついていたが、何方かと言えば皆優秀なのだろう。
と言うか、優秀の比率が高すぎる。
良い事だ良い事だ。
体質故、目立たず生きたい悠木にとってはありがたい話である。
かく言う悠木の時にも、少しながらザワついたのだった。
が、それは省略しよう。少しばかり『運』が高かっただけだ。
生徒会もいるのは、恐らくは素質の高い奴がいたからだろう。
つまりは彼等の内数人も悠木と、そしてクラスの大多数と同じ様に巻き込まれたのだ。
ご愁傷様である。
「……では皆様、この後部屋もご用意してありますので、案内させていただきます」
そう言われ、生徒達は和気藹々と話しながら、案内役の兵士の後ろに付いていった。
連れていかれたのは城の中にある一区画。
国に来た賓客達が宿泊する為の部屋である。
「へー、凄いね!」
「そだね! 広ーい!」
「確かにな、どんだけ広いんだって話だよな」
「そうだな。なんか場違い感半端ねぇ。腹痛くなってきた」
そんな会話をしながら、天井の高い廊下を連れだって歩いていく一行。
「では、三人程に分かれて頂きます」
と言われ、男女に分かれて平等にじゃんけんで数字を決め、部屋にランダムに番号を振って、その番号の部屋に騒ぎながら入って行く。
悠木はと言うと、
「――では、悠木様は申し訳御座いませんが此方になります」
と、案内されたのは少しばかり離れた小さな――とは言っても学生寮の部屋位の大きさだ――部屋に案内される。
一人だけ余ってしまったのだ。
一クラス三十四人、生徒会は男性二人。
丁度である。
こんなところでも運の無さが発揮されていた。
案内してくれた兵士曰く、護衛の兵士用の部屋らしく、他が豪奢な分、この部屋が小さく思える。
だが、ベッドなどの生活用品は全て揃っているので気にはならない。
「申し訳御座いません。今空いているのはこの部屋だけなのです」
「あ、いや、構いませんよ」
心の底から申し訳なさそうに頭を下げる兵士に、構わないと言って部屋の中に入った。
そして、ベッドに仰向けに倒れ、
「……これからどうなるんだろ?」
深い、溜息を吐いた。
不幸の女神「悠木君のあの不幸にあった時の負けないぞっていう凛々しい顔、良いわ!」
幸運の女神「あぁ、この駄妹、まさか世界を超えても不幸を与えるとは……。私がフォローしないと」
なんてやりとりがあったとかなかったとか。
彼女等のせいで主人公は変な体質になっています。
現投稿中の別作品。
此方も宜しくお願いします。
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